今年1月、講談社は、本の感想やコメントを共有するサイト「みんなのしおり.jp」を本格スタートさせた。ウェブでのスタートを告知するために使用されたのは朝日新聞。全15段の紙面には、色とりどりのしおりが挟み込まれたベストセラー『スティーブ・ジョブズ』が大きく掲げられた。
本との新しい出合いの場を創出
ソーシャルメディアなどに読んだ本の感想を書き込んで、読書体験をほかの人と共有する「ソーシャルリーディング」が、本と読者の新しい出合いの場として注目を集めている。そんななか、講談社が2011年12月に立ち上げたのが、感想共有サイト「みんなのしおり.jp」だ。 これは、ウェブサイト「みんなのしおり.jp」にあるバーチャルな本に、感想を書いたしおりをはさめば、みんなで見られる仕組み。はさまれたしおりは、ツイッター、フェイスブックへも情報が拡散され、ソーシャルメディアからも見ることができる。そして、「みんなのしおり.jp」に集まったしおりは、書店の店頭POPになる。
このプロジェクトの第1弾が、上下合わせて100万部を超える大ベストセラーになった米アップル共同創業者スティーブ・ジョブズ氏の公式伝記『スティーブ・ジョブズ』である。
同社書籍宣伝部副部長の岩崎卓也氏は、「ソーシャルリーディングの枠組みを使った企画を何かやりたいとは以前から思っていた。そんなとき『スティーブ・ジョブズ』100万部というまたとないチャンスに巡り合えた」と、プロジェクトの立ち上がり当時を振り返る。
発行部数が多ければある程度まとまった宣伝予算が確保できるうえ、100万部の読者がついているなら、そのうちごくわずかな人の書き込みでも結構な数になる。しかも、アップルファン、ジョブズファンはネットとの親和性が高い。 「ソーシャルメディアを活用した新しい仕組みを作るなら、このチャンスを逃すわけにはいかないと考えました」(岩崎氏)
計画を進めるにあたっての課題は2つあった。その1つは、新聞広告とウェブとの効果的な連動。「今でも出版広告を出稿する媒体として一定の効果が期待でき、現実に最も多く使われているのは、やはり新聞。これからは、他メディアを落とし込んだ新しい新聞の使い方が必要」と、岩崎氏は続ける。
もう1つは、電子書籍を売る施策ではなく、紙の本を売るための販促施策として、書店にとってもメリットのあるプロジェクトにすることだ。「この枠組みは必ずしも書店さんの脅威になるわけではなく、互いの相乗効果で本の売り上げアップにもつながる。そのモデルを示したいと思った」と岩崎氏。
かくして、ウェブと新聞広告、さらに書店でのPOPを連動させるという新しい仕組みが確立した。「『みんなのしおり.jp』で、読者、書店員、出版社がフラットに交わっていける場になることが理想です」(岩崎氏)
イメージが重なり合うジョブズファンと朝日新聞読者
新聞広告の出稿は昨年末。朝日新聞の全面カラー広告を使って、「みんなのしおり.jp」のスタートを告知した。朝日新聞を選定した理由は明確だ。
「朝日の読者は比較的高学歴で、都市部在住者の割合が高く、新しい物好きで、いい意味で反体制っぽいイメージがあります。それはまさにマックユーザーであり、ジョブズファンではないでしょうか」と岩崎氏。
現段階で「みんなのしおり.jp」に集まった投稿は約300件。ソーシャルメディアでの拡散を考えると、投稿を目にしている人を含めた共感の輪は大きく広がり始めている。
また、今後は、プロジェクトを広げていく予定で、『スティーブ・ジョブズ』に続き『ルーズヴェルト・ゲーム』(池井戸潤)や『PK』(伊坂幸太郎)へのしおりの投稿もスタートしている。
「出版社として、新しい本との出合いの場を一つ作れたことには大きな意義があったと思います。読者が本の感想を書き込み、それがネットを通じて拡散していくことは、出版社にとっても書店にとっても大きなメリット。ソーシャルリーディングは使い方次第でまだまだ大きな可能性がありそうです」(岩崎氏)