富士火災海上保険（富士火災）は、2011年８月、ＡＩＧ傘下の損害保険事業会社、チャーティスのグループ会社として新しく生まれ変わった。そして11月、この新体制で初の企業広告を、朝日新聞に４回にわたって展開した。

生まれ変わったことを契機に新体制、新理念をステークホルダーに伝えたい

　実は新聞広告を使ったコミュニケーションについては、グループ会社になる前に考えはじめていた。「当社のコーポレートビジョンを刷新するプロジェクトが前年暮れから始動していて、創立記念日（６月６日）に発表することになっていたので、９月頃に新聞広告で新しい理念を発信していく予定でした」と、同社経営企画部広報課長の大野未賀氏。しかし、年明けにはチャーティスが同社株式を公開買い付けすることを発表、広告出稿は見合わせることにした。

　その後、８月に公開買い付けの手続きが法的にも完了。大野氏は、「見合わせていた新聞広告を使ったコミュニケーションを展開したいと考えた」という。

　「上場廃止となり、お客さま、保険代理店、そして社員というステークホルダーからは、心配する声もありました。資本は外資100％になりましたが、チャーティスは富士火災の販売網と顧客基盤を重要視していて、社名は変更しないと決定していたので、改めて『富士火災』のブランドのもと、新しい体制、理念をお伝えしたいと考えました」

　同社は、国内に170あまりの支店を構える。今回は企業広告ということもあり、「全国のお客さままで同じタイミングで同じメッセージを届けたかった」と大野氏。それが、全国紙の全国版を選んだ理由だ。

　広告は、朝日新聞側からの提案で、小型のシリーズで展開。11月７日を皮切りに、毎週月曜日に４回掲載された。
「小型でも数回に分けて出稿することで、大型広告を１回出稿したときと同等の接触率が期待できる、というデータをみて、広告に込めた意図、予算、いずれも最適だと判断。数あるメディアから、朝日新聞を選択しました」（大野氏）
クリエーティブは、落ち着いたブルーが基調。富士山をイメージさせる稜線（りょうせん）が描かれている。このブルーはチャーティスのコーポレートカラー「チャーティスブルー」。「富士火災」の社名ロゴの横に配された赤い富士とのコントラストが美しい。

　「この小さなスペースで『富士火災らしさ』をどう表現するかを考え、視覚的に富士山しかない、と。日本一の高さを臨む、その壮大さが世界に通用する……そうした富士山を形容する言葉に、企業メッセージをたくしました」と大野氏。コピーは、１回目、２回目、４回目は、新しい企業理念を表現する内容に。３回目は「世界に並ぶ知恵とサービスが命。」と、「チャーティスグループになったことの、グローバル感を伝えたかった」（大野氏）。90年の歴史で培ったことに加え、新しく生まれ変わって得た同社の「強み」「魅力」を端的に表現するコピーが紙面を飾った。同じコピーの広告を繰り返して印象づける、という案もあったが、「テレビやラジオ、交通広告などと違い、新聞は毎日見てくれる固定の読者がいる。ならば変化をつけることで、富士火災の一面的ではない部分をアピールできるのでは、と期待しました」と大野氏は話す。

　広告を出稿する場合、社内には通知をしていたが、今回はあえて知らせなかったという。「社員のひいき目がゆえに称賛したり、逆に辛口になったり、客観的に見られなくなりがち。新聞の一読者として見てほしかった」と大野氏は話す。社員からは「広告が出せるようになったのは、うれしい」「商談の際、話題に使える」といった声も届いたという。「しかし、それ以上に、同業他社や友人、知り合い、家族などから『見たよ』と反響が多かったですね。朝日新聞の読者層の厚さ、そして、読者がしっかりと広告まで見てくれているということを実感しました」と振り返る。

　また、出稿を月曜に指定したのも効果的だったようだ。「私自身がそうなのですが、週始めに、いつもよりじっくりと新聞を読む方が多いのではないかと思います」

　保険は、就職や結婚が契機となって加入を考える方が多く、今若い世代がこれからのターゲットになっていく。大野氏は、最後にこう言葉を結んだ。

　「たとえば新聞にしても、紙だけではなく、若い世代ではデジタル版を読むのが購読スタイルの主流になるかもしれません。ソーシャルメディアの影響力もさらに強くなるでしょう。社会の動き、メディア利用の形態に合わせた形で、最適な情報発信、媒体選択、そして、コミュニケーションを模索していけたら、と考えています」