BSアナログ放送の終了によって生まれた電波の空き帯域を利用して、2011年10月1日、BSデジタル放送が12チャンネルから24チャンネルへと倍増。BS多チャンネル化時代の幕が開いた。ビーエスFOXは、海外エンターテインメントの総合チャンネル「FOX bs238」を開局。これに合わせて朝日新聞朝刊に全15段のカラー広告を出稿した。
BSへの参入で市場規模は3倍に
FOXインターナショナル・チャンネルズは、「FOX」や「ナショナル ジオグラフィック チャンネル」など7つのCS(通信衛星)放送チャンネルを運営している。同社の子会社であるビーエスFOXが、BS放送市場に参入した背景を、マーケティング部で「FOX bs 238」のPRを担当する笹田依里氏はこう説明する。
「海外の良質のエンターテインメントの提供を目指してCS放送チャンネルを立ち上げましたが、予想ほどCSが日本に普及しなかった。BSという大きな市場に出れば、もっと人々の生活にインパクトを与え、CSも含めテレビ全体を元気にできるのではないか、と考えました」
地デジ完全移行のタイミングもあり、BSデジタル放送の世帯普及率は現在60%を超え、視聴可能世帯は約3,600万世帯まで拡大している。一方、当初右肩上がりで伸びていたCSの普及率は約20%で安定。つまり、CSからBSへの参入は、それだけで潜在的な市場が3倍に拡大することを意味する。
10月に開局した「新BS」12チャンネルの顔ぶれを見ると、一部をのぞいてほとんどがこの有望市場に目をつけたCSからの移行組。放送内容もCSとまったく同じであるため、視聴者にしてみれば、「一部のCSがBSでも視聴可能になった」という認識かもしれない。
その中で「FOX bs238」が際立つのは、CSとはまったく違うコンテンツを用意した新しいチャンネルとして立ち上げていることだ。
「たとえば、CSのFOXの番組は、ほとんどが海外ドラマでハリウッドのものが中心。一方、『FOX bs238』は、ドラマ、映画、バラエティー、音楽、ヨガの番組と幅広い。番組を制作した国も米国だけでなく、韓流もあればヨーロッパもあるなど、あらゆる国のあらゆるエンターテインメントを総合的に編成しています。専門性の高いCSよりも、もっと気軽に地上波の感覚で楽しめるもの、家に帰ったらすぐにつけ、そのままつけっぱなしにしておけるようなものを目指しました」
ターゲットは、既存の民放キー局系BSが、地上波との住み分けのために中高年に設定しているのに対し、「FOX bs238」は若い女性層をコアターゲットとしている。「テレビから離れてしまった人たちをもう一度テレビの前に呼び戻したい」と笹田氏は力を込める。
さらに注目すべきは、1年間という長期の無料視聴キャンペーンを打ち出した点だ。笹田氏は、その狙いを「BSは多くのチャンネル数があるので、リモコンにある数字のボタンを1つ押すだけで選べる地上波よりも、見るためのハードルが高い。そのハードルを超えていただくため」と説明する。
「ハードルを超えるカギとなるのは、コンテンツの魅力です。1話に数十億円の費用をかけて制作する見応えのあるドラマや、国全体を熱狂の渦に巻き込むオーディション番組など良質なコンテンツを、まずは見て楽しんでもらいたい、さらには番組やテレビを視聴する習慣をつけてもらいたい、そのためにはある程度の長さの期間が必要だと考えました」
開局キャンペーンに新聞を用い、幅広い層に登場感をアピール
「FOX bs238」はこれまでにない特徴を持ったチャンネルであるだけに、開局にあたってはその特徴をきめ細かくコミュニケーションしていくことが求められた。
「コアターゲットの若い女性たちは、ツイッターやフェイスブックなどに慣れ親しんでいる層なので、インターネットを使ったコミュニケーションの広がりは意識しました。一方で、開局時には開局したという事実をお知らせする、ターゲットだけでなく取引先や放送業界全体も含めたマスへの訴求が欠かせないと考えました。そんな中で10月1日に朝日新聞へ出稿して開局のニュースを伝える、という方向が定まっていきました」
開局日である10月1日に掲載することは必須だった。広告スペースは、視聴方法や番組内容など盛り込むべき情報が多いことやインパクトを考えると、やはり15段でやろうと決まっていった。広告やパンフレット、ノベルティー、ウェブサイトなどのデザインや色遣いが与えるイメージと、オンエアされる番組や「FOX bs238」のイメージに統一感を持たせるために、色にもこだわった。
その結果「朝刊の読まれる時間帯を考えて、オンエア中の番組やウェブサイトの朝の時間帯のテーマカラーのひとつである黄色を基調にした全面広告を掲載しました。当日の紙面は、ページをめくると当社の広告に続き番組表や編集記事などが次々出てくるボリューム感のある展開になったと思います」と笹田さんは振り返る。
新聞広告のほかにも、開局を記念した前夜祭を開催し、登場感を盛り上げる工夫もしたそうだ。
「前夜祭のライブイベントを企画し、番組がターゲットとする若い女性を招待しました。イベント会場には、チャンネルの看板コンテンツであるオーディション番組『Xファクター』UK版内で見いだされてスターになったレオナ・ルイスさんを招き、参加者に生の歌声を聞いていただきました。ワールドクラスのエンターテインメントのおもしろさをライブで感じてもらうことで、世界中のエンターテインメントが楽しめる『FOX bs238』のアピールにつなげることができたと思います」
今後は、視聴者の拡大を狙いつつ1年後の有料化を見据えたキャンペーンを考えていくという。
「チャンネル数が増えて活性化しますし、BS放送はこれからまだまだ伸びていく市場です。たくさんの局が一緒になってBS全体を盛り上げることで、テレビ離れした人たちを再び取り込んでいくような形がつくれたらいいと思います」