土にこだわり、農家とともに歩むことで、安心・安全なおいしさを届け続ける

 8月半ば、今年とれたてのトマトで作ったカゴメトマトジュースの一斉出荷が始まった。そのタイミングに合わせ、カゴメは朝日新聞朝刊に全15段の広告を2本出稿。全面広告を1ページめくったところに、またその続きの全面広告が現れるというページ送り展開だ。ものづくりの原点を見つめた広告が注目を集めた。

消費者から寄せられた5百数十件の意見

鶴田秀朗氏 鶴田秀朗氏

 今年、福島でトマトを作るか否か――。
露地栽培で育てるジュース専用トマトの作付けを目前に控えた4月初旬、カゴメは難しい判断を迫られていた。

 カゴメは、栽培農家と契約を結び、苗の提供から土壌の管理、栽培上の工夫までにきめ細かくかかわりながら、農家とともにトマトを育てる契約栽培を行っている。安心・安全な野菜を作り、食卓に「おいしい」を届け続ける――そんな同社のものづくりの根幹を支えているのが、この農家とのパートナーシップだ。

 「原発事故の影響が、福島県内の畑の土や作物のトマトにどう現れるのか、まったく予測がつきませんでした。農家の方々が何カ月も苦労して栽培したあとで、そのトマトを使用できないという事態になることは避けなければならない。そう考え、今年は栽培を休止し、来年の再開へ向けて県内各地での試験栽培を行い、土や作物の安全を確認するとともに、契約農家に対しては経済支援を行おう、という方針を固めました。農家と一体となってこの難局にあたろうという気持ちでした」と、コーポレート・コミュニケーション本部広告部の鶴田秀朗氏は振り返る。

 ところが、その矢先の4月11日、「カゴメ、福島でのトマト契約栽培を見送り」とのニュースが報じられる。 直後から、お客様相談センターに消費者からの声が寄せられ始め、ツイッター上には報道を受けたツイートが飛び交うようになった。「カゴメは農家を切り捨てた」「風評被害をつくっている」「不買運動をしよう」……。

 「直接当社に寄せられた5百何十件かのご意見はすべて目を通しましたが、ネガティブなものがほとんどで、読んでいるうちに悔しさを感じました。私たちには創業以来、土や種にこだわり、契約農家の皆さんとともに汗を流し、手に手を携えてトマトを作っているという自負がありました。ところが多くの人に、ビジネスライクにトマトを買ってきて搾っているだけだと誤って認識されているということがわかり、これはいけないと思いました」(鶴田氏)

 自分たちの思いとは正反対の方向で受け止められ、それが瞬く間に広がってしまう恐ろしさも思い知らされたという。 「思っていたよりずっとお客様の不安感が強いこともわかりました。正しいと思うことをやるだけではなく、自分たちの取り組みをもっときちんとお伝えして、お客様に安心していただかなくてはならないということに気づかされたのです。この経験が、今回の新聞広告出稿の直接的なきっかけになりました」(鶴田氏)

幅広い層に襟を正してありのままを伝えるために新聞を選ぶ

 今年のとれたてトマトでつくったトマトジュースの一斉出荷が8月16日。掲載日はその直後の週末に設定した。 新聞を開くと目に飛び込んでくるのは、緑がまぶしい里山の風景。コピーでは、カゴメが農家とともに歩み、日本の農の知恵を学び生かしてきたことが語られている。

 紙面を1ページめくると、今度は土を盛った手のひらのアップ。カゴメの土へのこだわりが、安心、安全、そしておいしさの源であることがコピーの中で明かされていく。トマトの品種についてはこれまで繰り返し言及してきた同社だが、「土について広告のなかで取り上げるのは初めて」だという。

 昨年の時点では、トマトジュースの広告を新聞で、という選択肢はなかったかもしれない、と鶴田氏は話す。だが、3月の震災と、4月の契約栽培の報道を経て、「幅広い層に向けて、襟を正してありのままをていねいに伝えていくことが必要」ということになり、その目的に適した媒体である新聞への出稿という流れができた。 「震災後、人々の商品を見る目、企業活動を見るまなざしは以前よりもずっと厳しいものになりました。広告においてもメッセージの本質をしっかり見極めようとする人が増えています。それを受けて、広告のあり方やアプローチ方法も、変わるべき時を迎えているのではないでしょうか」

2011年8月16日付 朝刊  カゴメ 2011年8月16日付 朝刊(1ページ目)
2011年8月16日付 朝刊  カゴメ 2011年8月16日付 朝刊(2ページ目)