「医薬品を通して人々の健康に貢献する」という企業理念のもと、医薬品の研究開発・製造・販売を手がける日本ケミカルリサーチ。長年蓄積した技術力を活用し、開発を続けてきた「ヒトエリスロポエチン製剤(注1)」の国産初となるバイオ後続品(注2)が2010年1月、厚生労働省による承認を受け、5月から国内提供が開始された。この機会に試みたのが、同社初となる本格的な広告展開だ。
「B to B」の製薬会社 一般紙を選択した理由
「『バイオ後続品』生産工場へ」(2010年3月21日付全国版朝刊)、「ヒトエリスロポエチン製剤の『バイオ後続品』を開発」(5月30日付全国版朝刊)。一般紙の広告ではあまり見る機会のない医療専門用語に、目を留めた読者も多いかもしれない。
「主に医療業界向けの製品を扱う、いわば『B to B』の業態をとる当社は、製品情報をはじめとする企業活動を一般消費者に周知する必要性が高くないため、広告活動はこれまで皆無でした」と語るのは、同社管理本部 総務部の山村恭弘氏。そんな経緯がありながらも、今回の新聞広告初出稿に至ったのは、「広告でぜひともアピールすべき、様々な要因が折り重なるように発生した」からだという。
「まず2009年12月、英国製薬大手のグラクソ・スミスクライングループと、バイオ医薬品の生産・開発・販売に関する包括契約を締結したこと。グラクソ社の世界的ルートを通じて当社製品が世界中に流通する、いわば『世界に打って出る』ニュースがあったことです」。さらに2010年1月には、かねてから開発中であった国産初のヒトエリスロポエチン製剤のバイオ後続品が厚生労働省により承認され、5月27日には発売と、同社を取り巻く周辺では、ニュースバリューの高い話題が立て続けに発生した。
では「B to Bの医薬品企業」である同社から生まれたこれらの話題が、なぜ医療専門誌などではなく、一般紙を使って広告展開されたのだろうか。
「医療従事者のみに周知するのであれば、医療専門誌、という選択もあったのでしょうが、やはり社会的意義の高い、ヒトエリスロポエチン製剤のバイオ後続品の存在を、患者さん、ひいては広く社会に知っていただきたい、という思いが大きかったからですね。そのために新聞広告、という選択は、ごく自然な流れです。それに朝日新聞は医療従事者がよく購読されている、というデータも把握していました」と山村氏。
バイオ医薬品の中でも、同社は成長ホルモン製剤分野に強いことで知られているが、今回のような新分野(ヒトエリスロポエチン製剤)を開拓するにあたり、知名度は不可欠。「一般紙への広告出稿により、日本ケミカルリサーチとは、確かな技術力を有する企業である、と医療界に根付かせることも目的の一つです。また当社はこのほど大日本住友製薬から委託販売事業を譲渡され、出向社員を受け入れた経緯もあります。社員はもちろんそのご家族の方にも、当社は一般紙に広告を出稿できる、土台のしっかりした企業であることをアピールしたいというねらいもありました」。広告出稿により、様々な効果がこのタイミングでこそ期待できた、山村氏は話す。
初出稿には、期待以上の波及効果が
3月21日付では、バイオ後続品を生産する室谷工場(神戸市)の生産工程を、くまなく紹介するという「工場見学」の手法で紙面を構成。品質への信頼感と、バイオ後続品の登場感を伝えることに注力した。「当社の社会的な認知度は、あまり高くないと思います。そんな会社が生産する医薬品って?という不安感も、当然抱かれることでしょう。だからこそ、徹底した品質管理に基づき、『間違いのないもの』をお届けしていることを伝えるためには、紙上での工場見学という見せ方は最適でした」と山村氏。
2回目の掲載は、ヒトエリスロポエチン製剤のバイオ後続品発売日から3日後の5月30日。同社代表取締役会長の芦田信氏と、医療ジャーナリストの田辺功氏の対談記事で構成した。「当初は一度きりの出稿の予定でしたが、その反響が予想以上に大きかったことから、再度の出稿を決めました。1回目では伝え切れなかった、当社の今後の方向性や、社会に対してお約束したいことなどを盛り込むことができました」。これら2回の紙面の増し刷りは、主にMRが、営業先の医師との話題づくりに役立てているという。
掲載後は各方面から確かな反響を感じたようだ。「医療業界からの好意的な声がたくさん届いています。今回のバイオ後続品は、当社が蓄積した技術を生かし、長年かけて開発したもの。ようやくここまで達した、と出稿を通じて実感できたところもあります。また、当社の今後のビジョンを社会に対して“宣言”したことは、ますます社員の自覚を促すことにもつながっています」と山村氏。国産初のバイオ後続品という確かなニュース価値はあるものの、それを告知する広告は果たして効果があるのか?初出稿にあたり当初はそんな不安もあった。
「インナーを含めて、期待していた以上の効果を感じています。今後もバイオ後続品の認知度アップに向けた取り組みは必要ですから、タイミングを図り、次の出稿へつなげていければと考えています。今後は、他社生産によるバイオ後続品も出てくるでしょう。そんな時こそ、日本におけるバイオ後続品のリーディングカンパニーとしての当社の実績や信頼感をアピールできれば。これに加えて、先発品よりもより良いバイオ後続品作りを意識することも、今後の当社のキーワードです」と山村氏は結んだ。
(注1)【ヒトエリスロポエチン製剤とは】
慢性人工透析患者の主な合併症である「腎性貧血」の治療薬。同患者の80%以上に投与されているが、先発品が高価なため医療経済に与える影響が懸念されている。このほど日本ケミカルリサーチが開発した、先発品と同等・同質のバイオ後続品が安価で提供されることは、国内で28万人にものぼるとされる透析患者にとっては朗報である、と期待されている。
(注2)【バイオ後続品とは】
生物由来の原料を用い、遺伝子組み換えなどのバイオテクノロジーを利用して作られた薬を総称して「先行バイオ医薬品」と呼ぶ。バイオ後続品は、先行バイオ医薬品の特許期限が過ぎた後に開発され、安全性・有効性において先発品との同等・同質性が実証された医薬品を「バイオ後続品」と呼ぶ。一般的に先発品より低価格で販売されているため、医療現場におけるシェアの拡大が期待されている。ただし、使用する細胞や製法が違い、先発品と同一物質ではないため、臨床試験や安全性試験による確認が求められる。