新しい日本型食生活の提案をスローガンにこめて発信
キッコーマンは昨年6月、21年ぶりにコーポレートブランドを刷新し、「おいしい記憶をつくりたい。」というスローガンと新たなコーポレートマークを導入した。新コーポレートマークは、優しさや親しみやすさを感じてもらえるよう、すべて小文字に。コーポレートカラーは太陽や炎、大地や豊穣(ほうじょう)を連想させる活力の象徴をイメージし、赤からオレンジに変更した。
「これまで使用されていたコーポレートマークやスローガンは1987年に導入されたもの。2005年の連結営業利益の55%を海外事業が占めるなどグローバル化が進んでいるにもかかわらず、日本でしか使用されていなかったため、ブランド体系を見直す必要がありました。今後50年間通用するコーポレートブランドをつくることが使命でした」と経営企画室コーポレート政策推進担当部長の大津山厚氏は説明する。
新しいスローガン「おいしい記憶をつくりたい。」は、2004年からグループを挙げて取り組んでいる食育プロジェクトのスローガンとして使用されたもので、食に対する同社の想(おも)いがこめられている。「コーポレートブランドの刷新は食育プロジェクトが原点です」と語る。
食育活動を通じて企業の理念を明文化
2004年7月に食育プロジェクトがスタート。その翌年、食にまつわる体験を通じた幸せな記憶を積み重ねて、豊かな生活を送るお手伝いをするという企業メッセージを込めた「おいしい記憶をつくりたい。」というスローガンを発表した。さらに、食育には実際に体験することが重要だと考え、しょうゆの醸造を体験できる工場見学や社員による小学校での出前授業などを通じて食への理解を広めている。様々な取り組みを通じてプロジェクトが活性化されるにつれて、千葉県野田市の工場「もの知りしょうゆ館」の見学者数は増加。2004年度には5万5,000人だった入場者数が、今年度は8万人を突破する見込みだ。
「社員の間にも積極的に活動へ参加する意識が芽生え、自らの業務の中で取り組んだり、当社で働く意義を再確認するきっかけとなるなど、様々な成果が得られました。そして、食育プロジェクトの成功を通じて、企業の考え方や理念を明文化して社内外で共有することの大切さを実感しました。この活動経験が、新コーポレートブランド策定の基礎となりました」
そして、2008年3月、企業姿勢や想いをブランドプロミスとして明文化した「キッコーマンの約束」を発表した。社内でワーキンググループを結成して素案を作り、1年をかけて議論した。「こころをこめたおいしさで、地球を食のよろこびで満たします。」から始まる約束は、高品質の商品・サービスの提供から優れた食生活と食文化の提案を行い、体だけではなく「心の健康」にも配慮する内容となっている。これがキッコーマンの新コーポレートブランドの根幹となっている。
理念や想いを新聞でしっかりと伝えたい
新ブランド体系はブランドブックにまとめ、グループ内に配布、社員の意識の統一を図った。
社外に向けては、昨年6月の本格導入に合わせ、新聞・雑誌で企業広告を展開した。さらに、10月と12月にも視点を変えた広告を打ち出している。
6月28日に朝日新聞に掲載した広告では、社員が積み重ねてきた「おいしい記憶」の写真を全面に掲出。
「『食の安全』が問われる昨今、食を提供する責任を企業の責任として、自分の大切な家族と同じ想いで、生活者へ食の喜びを提供していくという姿勢を改めて表現したいと思いました。そして、世界で活躍するキッコーマン社員一人ひとりが、『おいしい記憶をつくりたい。』という想いを共有し、新しいキッコーマンに生まれ変わることを宣言したものです」社員の子どもたちの写真が並んだ温かなイメージ広告のビジュアルは、好感がもてると社内外からの評判も高い。
10月4日に掲載された広告は、忙しくてなかなかバランスのとれた食事をとることができない、または食事そのものを楽しむ時間のない現代人に向けた。六角マークのキッコーマンのシンボルカラーと同じ赤色の箸はしやスプーンを使うことで、新しいキッコーマンが、「新しい日本型食生活」を提案していくことを象徴的に表現した。「私たちの食への想いをしっかりと伝えたい。じっくり読んでもらいたいのです。多くの方にしっかりとメッセージを伝えることができるのは、活字媒体、特に新聞が最適だと考えています」と大津山氏は語る。
今後の抱負をたずねると、「新しい日本型食生活の提案は、当社だけでできることは限られています。今後は国や他社とコラボレートし、この取り組みを広げていきたいです。その中で当社の事業や商品・サービスでお手伝いをしていきたいと考えています」という答えが返ってきた。
(篠)