タイヤメーカー最大手のブリヂストンが国際オリンピック委員会(IOC)の最高位スポンサー(THE OLYMPIC PARTNER=TOPスポンサー)に決まった。契約は2024年までの10年間。6月13日、同社の代表取締役CEO兼取締役会長の津谷正明氏が、来日したIOCのトーマス・バッハ会長と都内で調印に臨んだ。TOPスポンサーは1業種1社に限られ、最大12社とされる。世界で11社目となる同社は、日本企業としては27年ぶりの新規参入とあって、大きな話題となった。同社のグローバルイベントマーケティング室長の駒見俊彦氏に、その狙いなどについて聞いた。
スポーツ協賛への知見を生かし、五輪ムーブメントに寄与する
――TOPスポンサー契約を結んだ経緯を聞かせてください。
当社はこれまでもスポーツへの協賛に積極的に取り組んできました。スポーツマーケティングの先進の地、米国では、プロフットボールリーグのNFLや、プロアイスホッケーリーグのNHLのオフィシャルスポンサーとなっています。単に協賛するだけでなく、スポーツを通じてお客様との効果的なコミュニケーションを、PDCAサイクル(Plan=計画、Do=実行、Check=検証、Action=改善)を意識しながら実施する手法を確立してきています。また、同じく米国及び日本でも、モータースポーツやゴルフなどに協賛しています。
今回、公式パートナーになるにあたり、オリンピック憲章と当社の企業理念とが目指す社会に対する貢献という点での親和性は非常に重要でした。そして、当社がさらなる経営のグローバル化を推し進める上で、五輪というグローバルかつ年齢や性別による偏りのないユニバーサルなスポーツイベントに参画することは、これまで積み重ねてきたスポーツ協賛の知見を生かしてプロモーション活用を行うだけではなく、お客様や販売店様、株主の皆様、そして従業員と、すべてのステークホルダーの方々に企業文化を広くアピールできる機会であると期待しています。もちろん、そのためには当社のグローバルでの様々な部署や機能が大きなマトリックスを形成、連動し、大きなムーブメントを創り出していく必要があります。そのきっかけとなりうるオリンピックの舞台に立てることは、ブリヂストンの歴史においても大きなマイルストーンになると捉えています。
――具体的な契約内容や契約することで可能となる活動は。
五輪のロゴと当社のロゴを組み合わせたコンポジットロゴが使用できる、広告やPR活動で「公式パートナー」と表記できる、といったブリヂストンブランドの強化につながる権利があります。
また、大会公式車両に優先的にタイヤを納入できる他、化工品、例えば建物の基礎に使用する免震ゴムなども契約カテゴリーに入っています。これらの権利を行使することは「アクティベーション」と呼ばれます。これら以外にも、世界各国を回る聖火リレーで従業員を対象にした枠を与えられるなど、従業員へのインセンティブとなるアクティベーションもありますが、具体的な内容については今後IOCと調整を進めていく予定です。
契約期間は2014年から10年間。直近の16年のリオデジャネイロ(ブラジル)は、行使できる権利が限定されており、実際には17年から本格参加となります。18年冬季の平昌(韓国)、20年夏季の東京、さらに開催地は未定ですが22年冬季、24年夏季と、計4大会が対象になります。
五輪の力で世界14万5千人の従業員の心を一つに
――TOPスポンサーの活動を通じて目指していることは何でしょうか。
当社は世界各国で事業を展開し、世界に14万5千人の従業員を擁していますが、2013年に策定した中期経営計画では「真のグローバル企業」を経営の最終目標の一つとしています。その目標に向けての重要事項の一つが「グローバル企業文化の育成」です。五輪は、先に述べました通り、極めてグローバルかつユニバーサルなスポーツイベントです。企業としても大きなムーブメントを起こすきっかけとなり、まさにグローバルでの企業文化を創ることにもつながる。また、その結果として、世界中のあらゆるステークホルダーの方々からの信頼を得られ、当社のブランド強化につながるものと考えています。そうした期待のもと、まさにこれから具体的な取り組みを検討していきたいと考えています。
――2020年の東京五輪の開催が決まり、日本は大いに盛り上がっています。
創業の国での開催とあって、社内でも非常に盛り上がっていますね。一方、やはりグローバルの舞台であることをしっかりと意識して取り組んでいかなければという認識を強く持っています。当社はタイヤでは世界でも業界1位で、日本におけるブランドの認知は高いのですが、認知度に課題がある国や地域があるのも事実です。欧米の歴史あるメーカーばかりでなく、最近では新興国メーカーもどんどん力をつけており、そういった強力なライバルに対抗するためには、強みはさらに強くして、弱い部分も強みに変えていかなければなりません。
――今後の展望を聞かせてください。
そういう意味でコミュニケーションやマーケティングについても、グローバルを見据えて取り組んでいきたい。公式パートナーとなったことは大きなチャンスです。世界中のグループ会社から具体的な提案を挙げてもらい、英知を結集して、グローバルで展開するアクティベーションの最も理想的なあり方を模索していきたい。最高の「舞台」に立つことが決まったわけですから、それにふさわしい「演目」と「役者」をそろえたいですね。
10年間という長いコミットメント(関わり)になるので、今の熱い盛り上がりを継続させ、しっかりと形にし、力にしていくことが重要です。IOCをはじめ他のあらゆる五輪関連組織と協働しながら、どのようなコミュニケーションやマーケティングを展開していくか、まさに現在、プランニングの段階です。
公式パートナーとなったことで、当社やブリヂストンブランドを見る目が一段上がるのも事実です。五輪という、地球規模で広く支持されるイベントを足掛かりに、14万5千人の従業員一人ひとりが、その気持ちを一つにして、「一枚岩」となって企業文化を醸成し、真のグローバル化にまい進していきたいと考えています。