2017年10月に創立140周年を迎えた二松學舍大学は、人の知性と感性に浸透する力を持った「国語力」 の養成を教育の根幹に据え、真の国際人を育成する教育を行っている。これからの140年に向けた思いを「鍛えよ、国語力。」 のフレーズに表現し、同年10月9日と12月20日の2回にわたって、全15段の広告を朝日新聞に掲載した。
グローバル時代に説得力を増す「鍛えよ、国語力。」
二松學舍の歴史は明治10年(1877年)10月10日、漢学者であり法律家でもあった三島中洲が東京・九段の地で開いた漢学塾に始まる。建学の精神は140年後の現在にも通じると、総務・人事部広報課長の鈴木信子氏は語る。
「グローバル化が進む中で、まずは自国の文化をよく知らなければ、海外でのコミュニケーションも難しい。日本の文化を知るというのは、日本語できちんと考えて、日本語でコミュニケーションができるということ。それができて初めて、外国語を使いこなせたり、外国の方との議論やビジネスにつなげたりできます。全てにおいて『国語力』を使いこなせる力を身に付けることが大切、ということを教育の基本理念にしています」
グローバルの時代だからこそ求められる「国語力」を、140周年記念の新聞広告でも中心に据えた。多くの大学や企業がグローバルを標榜(ひょうぼう)する傾向にあって、「鍛えよ、国語力。」のフレーズは、二松學舍ならではの訴求力を持つメッセージとなった。デザインにおいても、二松學舍らしい個性を主張した。
10月9日に掲載された広告は、大学附属図書館が所蔵するコレクションの奈良絵本をビジュアルに採用し、翌日に140周年を迎えることを訴求した。「『平治物語』のクライマックスシーンを使ったのが二松學舍らしいと、卒業生や様々な方からも好評でした」と鈴木氏は反響を振り返る。
入試シーズンを前にした12月20日の広告は、受験生を意識したメッセージと入学試験情報を中心に構成された。「吾輩の授業を受けに来ないか」と語りかけるのは、少年時代を二松學舍で学んだ夏目漱石のアンドロイド。日本を代表する文豪が「特別教授」として教壇に立つ姿は、インパクト抜群で、国語力という言葉の説得力を高めた。
「漱石アンドロイド」は、創立140周年記念事業の一環として制作された。アンドロイド研究の世界的権威である大阪大学大学院基礎工学研究科の石黒 浩教授の監修のもと、漱石の孫の夏目房之介氏、デスマスクを所蔵している朝日新聞社が協力し、2016年12月に完成した。大学や附属高校、附属柏中学校・高校の生徒を対象に朗読講義を行ったほか、2017年10月10日に開かれた140周年記念式典の講演会にも出席し、記念の祝辞を述べた。
「アンドロイドは、2017年4月には京都に出張し、一般の方々と対面する機会を設けました。11月には漱石本人が教壇に立った愛媛県立松山東高校(当時の愛媛県尋常中学校)などで授業を行い、地元の皆さんに温かく迎えてもらいました。今回の紙面にもアンドロイドを登場させることによって、その強い印象と同時に、夏目漱石が本学で学んでいたことを広く知ってもらい、140年の伝統の周知にも貢献したと考えています」
人材育成方針を訴求 定期的に新聞を活用
二松學舍は、漱石アンドロイド以外にも多岐にわたる140周年記念事業を展開している。2017年度に文学部の都市文化デザイン学科、2018年度に国際政治経済学部の国際経営学科を新設。デジタル領域の施策では、ホームページのリニューアル、特設サイトの開設、スマートフォンアプリの開発などを行った。新聞広告にも掲載されている創立140周年のロゴマークも作成したほか、記念の展示会やシンポジウムなどを開催した。
周年記念事業の一つが、「2030年型教育体制」の構築を目指して策定し、創立140周年記念式典で公表された新長期ビジョン「N' 2030 Plan」だ。創立135周年を機に策定した「N' 2020 Plan」を検証し、その基本理念と人材育成方針を引き継いだもので、2030年に向けた二松學舍全体の進むべき指針として推進している。
「AIやIoTなどが社会を変え、ロボットが働く時代になり、10年、15年後にはいろいろな仕事がなくなっているだろうと言われています。その中で、人間でなければできない仕事の重要性がますます高まってくると思います。プランでは、国語力をベースにして、機械ができないような仕事をこなせる優れた人材を教育していくことを目標に掲げています。 そういった教育研究活動を続けて行くことが、本学の使命です。このことをより多くの人に知っていただきたいと考えています」
イメージ広告や記事体広告などで伝えたいことを盛り込み、大きな紙面を使うことで強くアピールできるのが、新聞のメリット。「定期的に二松學舍の情報が読者の目に触れ、印象を持ち続けてもらうことが必要。その意味では、今後も新聞を有効に活用して、広報を展開していきたい」と結んだ。
3つのポイント
◆新聞社に期待したこと
ウェブとは違ったかたちで幅広く情報を見つけることができる媒体で、ウェブにはない魅力がある。活字離れが叫ばれている中、新聞を通して活字離れに歯止めをかける企画があればと思う。夏目漱石の没後100年を機に連載した「吾輩は猫である」のように、皆さんが手に取って読んでもらえるものを、今後も続けてほしい。
◆朝日新聞のイメージ
夏目漱石だけでなく、彼を朝日新聞社に勧誘した主筆の池辺三山も、本学の卒業生だった。今回の漱石アンドロイドでも様々な形で協力を得て、お互いの長い歴史の中で不思議な縁を感じている。
◆コミュニケーション上の課題
本学は国語の先生方には知名度が高いが、一般の方々に広く名前を知られているとは言えなかった。知名度向上を目指し、様々な活動を行ったことにより、2017年は各種の調査でもブランド力が大幅に上がった。漱石アンドロイドが多くのメディアに取り上げられたことも大きいと思う。140年の伝統や都心の立地などを多くの方に知ってもらうための活動を、今後も検討していきたい。