「80年に1度」の広告はブランディングの機会に
大阪市南部の玄関口・阿倍野地区再開発の一環で、2013年に大規模リニューアルされた近鉄あべの本店(あべのハルカス近鉄本店)。再開発後のエリアに新たな人の流れをもたらした中心的な存在だ。その源流は、1937(昭和12)年11月16日に開業した「大鉄百貨店」までさかのぼることができる。
創業80年目の節目に、同店は「創業80年祭」として、11月1日〜28日をコア期間に様々なイベントや記念商品の販売を行った。8月29日の予告広告(全15段)に続き、11月8日には朝日新聞朝刊に見開き全30段広告を掲載。「長年ご愛顧いただいたお客様に感謝を伝えること。また今後90年、100年とさらにご愛顧いただけるようにとの思いを込めました」。販売推進部宣伝課長の高部一也氏は出稿の経緯を話す。右面には前身の大鉄百貨店開店を告げる80年前の広告と、創業からの歴史を振り返る年表を。左面は「80年のご縁にありがとう」のコピーと、今も現役のベテランモデル・我妻マリさんが軽やかにポーズをとるビジュアルを展開した。80年前の広告は、大阪朝日新聞(※現在の朝日新聞大阪本社版)に掲載されたもの。朝日新聞担当者から広告の存在を紹介され、社内でも話題に。「初めて見ました。こうした貴重な資料が保存されているのも新聞社ならではですね」。80年の歴史を想起させる格好のアイコンと出合い「広告成功への道筋が見えた」と振り返る。
2017年11月8日付 朝刊946KB
ベテランモデル起用にも理由がある。長く第一線で活躍するモデルの姿を通じ、メインターゲットでもあるシニア層に「今までも、これからも元気に輝いて」のメッセージを込めた。80年の歴史は、開業当時の広告と最新の広告、左右の対比でより鮮明に浮かび上がる。年表を作るにあたっては、様々な感慨も。販売推進部販売推進課長の菅 竜司氏は「創業当時の資料を見ると、先人たちの苦労や思いが伝わってきました。戦争や合併を経るなど道のりは決して平坦ではなく、お客様との『ご縁』あってこその80年だと痛感しました」。80年に1度しかできない広告。高部氏は「こうした節目での広告は、売りに直結するよりも店のブランディングを行うのに絶好の機会」と対外的な発信効果を強調する。その一方で80年の節目は、インナーにも様々な気付きをもたらしたようだ。
変化の激しい現代にこそゆるぎない存在価値を訴求
近鉄あべの本店80年の歴史を、貴重な写真や資料で紹介。「ご縁にありがとう」の思いを伝えた。朝日新聞に掲載された、1937年の大鉄百貨店開店の告知広告の現物も展示した
「周年」に対する社会からの関心も感じる。「企業への信頼が揺らぐ時代。物事の移り変わりが激しい今だからこそ、長い間必要とされる“存在価値”があることを発信するのは重要」と高部氏。同時に「周年は、企業の価値観をアピールし、企業をより成長させるタイミングでは」と分析する。80年の歴史をパネルや資料展示で紹介し、“ご縁にありがとう”を伝える「80年のあゆみ展」を開催したのは、そうした思いからだ。屋上に遊園地があった頃、大食堂で食べたオムライスの味…。訪れた人からは、自分の半生と同店で過ごした日を重ね合わせる、そんな反響が続々と寄せられた。
こうした「周年」を大きく知らせるため、新聞広告は有効とも続ける。「媒体としての信頼感は確立されているうえ、主たる新聞購読層と百貨店のメインターゲットもマッチする。高段数のインパクトのもと、周年のような『大きなこと』を訴求するのに、相性がいいメディアです」。一方、若年層の囲い込みやファン作りは、SNS媒体を考えている。「カジュアルにスマホで撮影することもあれば、デジカメで撮ることも。一方で成人式などのセレモニーは写真館で…のように。何かを撮影する時、用途や目的で使い分けるのと、メディアを使い分けることは似ていますね」と菅氏は補足する。
少子化の今、次世代の市場開拓にも注力する。子どもや若い女性に人気のキャラを積極的にイベントへ投入し「昔の百貨店ではやらなかったような」(高部氏)コンテンツを充実させている。「子どもの頃から百貨店で過ごした思い出を積み重ねてもらえれば、10代20代になった時、ショッピングモールではなく百貨店を選んでもらえる」と菅氏。子育て世代に手厚いサービスがある会員クラブの発足など、時代に合わせた柔軟性もみせる。しかし時代が変わっても変わらないスタンスは「地域に愛される百貨店」であること。「当店は周辺にマンションや住宅地が多く、デイリー食材を買いに、スーパーではなく当店を利用してくれる方も大勢います。この街に育てていただいたご縁に感謝し、今後も地域に大事にしていただける店でありたいです」(高部氏)。
手提げ袋、ピンバッジ、名札など、80周年記念グッズを製作
JRや市営地下鉄で中吊り広告を掲出。JR天王寺駅構内では、デジタルサイネージ広告を展開した
「80年のあゆみ展」ほか各種イベントや記念商品などの情報を発信
様々なデザイン、サイズのポスターで80周年を告知