
LLMO(Large Language Model Optimization)とは、検索順位ではなく生成AI(ChatGPT Search/AI Overviews等)の回答内で、自社や商品情報が「引用・推薦・言及」されやすくなるよう、情報発信を最適化する考え方。
「AI要約でOK」なゼロクリック問題の出現
「指名検索を伸ばそう」「SEOで刈り取ろう」——この十数年、広告・マーケティングは“検索窓”を前提に設計されてきた。生活者の情報行動モデル「AISAS」が提案されたのは既に20年程前になるが、人々が気になる情報を能動的に検索するようになったのは大きな転換点だったのだ。
それは市場規模にもしっかり反映されており、「2024年 日本の広告費 インターネット広告媒体費 詳細分析」(2025年3月発表)によれば、日本のインターネット広告媒体費は2兆9,611億円(前年比110.2%)であり、その中で検索連動型広告が40.3%を占め最大勢力である。
しかしながら、ここ数年のチャット型生成AIサービスの普及に伴い、私たちの情報収集のあり方に変化が見られるようになった。端的に言えば、検索クエリにキーワードを入力し、「検索結果ページ(SERPs)」を読み比べるといったことが減り、生成AIが要点をまとめて提示してくれた“答え”を受容してOKとなってしまうことが増えている。
確かに、ユーザーが求めているのは、羅列された選択肢ではない。「結局、私にとってベストはどれ?」という、要約された“答え”である。ウェブサイトを訪れずに検索行動が完了してしまうので、「ゼロクリック問題」と称されることもある(これは、多分にパブリッシャー側の視点に立ったものの見方ではあるが)。
実際に、NTTドコモ モバイル社会研究所の調査結果によれば(2026年2月)、AIの要約だけで満足し、リンクを開かずに検索を終える「ゼロクリック検索」の頻度を聞くと、「ほとんどやめる」が10%、「よくやめる」が19%、「ときどきやめる」が35%となり、合計64%の生成AI利用者が要約のみで満足し、リンクを開かないゼロクリック検索を行っている傾向が示された。年代別では、10~20代の女性と50~70代の女性において「ほとんどやめる・よくやめる」の割合が他の年代よりも高かったようだ。
情報行動が変化すれば、それに合わせて広告コミュニケーションのかたちも進化する。そこで今回注目したいのが、LLMO(Large Language Model Optimization)である。
なお、同義語として、AIO(Artificial Intelligence Optimization)やGEO(Generative Engine Optimization)といった名称も使われることがあるが、本稿ではLLMOに統一する。
LLMOとはなにか?SEOとの違いは?
SEO(Search Engine Optimization:検索エンジン最適化)が、Google等の検索結果でウェブサイトを上位に表示させ、自然検索(オーガニック検索)からの流入を増やす施策であるのに対して、LLMOは、検索順位ではなく生成AI(ChatGPT Search/AI Overviews等)の回答内で、自社や商品情報が「引用・推薦・言及」されやすくなるよう、情報発信を最適化する考え方を指す。
…と対比的に書いてみたものの、対立する概念ではないことに注意を促しておきたい。SEOの方も検索エンジンのアルゴリズムを念頭に置いている点ではそもそも「根っこが一緒」であるともいえる。評価項目・技術基盤の点でいえば両者は一直線上に位置しており、補完し合うものだと捉えられる。
実際に、SEOにおいて重要な基準であった「E-E-A-T」の原則は、LLMOにおいても通用するのだから。なお、EEATは頭字語であり、具体的には下記要素を参照してほしい。
Experience(経験):実体験に基づく具体的な知見や体験談を盛り込み、リアルな情報提供を行う。
Expertise(専門性):特定のテーマに絞り、深く掘り下げたコンテンツを継続的に発信。特に体系的で一貫性のあるトピッククラスターの構築など(例:基礎知識、実践法、Q&AによるTips共有)。
Authoritativeness(権威性):業界の専門家による監修コメント、大学や研究機関の統計データなど、社会的権威をもったソースであることを示す。
Trustworthiness(信頼性):情報の出典を明確にし、正確な記述を心がけることに加え、定期的な情報更新を行うことで、時代や技術の変化にも対応する“情報の鮮度”を保つ
ただし、相違点として意識しておくべきことは、ユーザーの意思決定の入口が「検索結果」から「AIの回答」へシフトするのにあいまって、“ブランドが発見される場所”が移るという点である。AIの回答に入らないブランドは、比較検討のテーブルにそもそも載りにくくなることを意味する。逆に言えば、AIの回答で自然に言及されるブランドは、指名検索の前段階で想起を取れる。だからこそ、AIが参照しやすい一次情報を整え、信頼される形で流通させるための“情報設計”が欠かせなくなるのだ。
LLMOが広告実務にもたらす論点
今後、広告実務の点で重要なのは「情報の純度・一貫性」がより問われるようになっていくということだ。広告表現がどれだけ魅力的でも、ブランドの基本情報(提供価値、対象、利用条件、強み)が媒体・ページ・記事で食い違っていると、AIは確信を持って引用しづらくなる。もちろん「情緒に訴えかけるコピー」や「美しいビジュアル」は引き続き重要だが、論理的な整合性こそが評価される。相手は言語モデルであるからだ。
例えば、公式サイトでは「月額980円」、古いLPでは「月額500円」、代理店の記事では「要問い合わせ」となっていたらどうなるか。AIはこの矛盾(ハルシネーションの種)を嫌い、回答からそのブランドを除外するか、「情報は不明確」と断じるだろう。その他にも、公式サイトのFAQは最新か? プレスリリースは構造化されているか? 比較サイトのスペック情報は正確か?…など、要チェック項目は枚挙にいとまがない。LLMOは、ブランドを“AIに説明可能な状態”にする取り組みだ。これからは、純度・一貫性の保持が、ブランドガイドラインの一丁目一番地になるかもしれない。
広告実務者は、「検索順位」だけでなく、「回答内シェア」をチェックするようにならなければならない。主要な質問(例:「◯◯カテゴリ おすすめ」「◯◯ 比較」「◯◯ 料金」)に対して、AIがどのブランドをどんな文脈で挙げるか——いわば「Share of Answers(回答内占有)」を定点観測し、改善サイクルを回す必要が出てくる。指標は「インプレッション」から「リファレンス(参照・引用)」へと変化するだろう。運用型広告のように日次で最適化するというよりも、企業・ブランドの情報発信の棚卸しと更新、露出設計(レビュー、専門メディア、事例記事等)を含めた中期的な取り組みになる。
LLMOの時代に明確になるのは、参照されるに足る根拠と透明性を積み上げる企業・ブランドか否かの差である。広告の役割は「認知を取る」だけでなく、「AIが参照できるような、正しく、誠実に、検証可能な情報を提示し続ける」ことへと広がっていく。それは、広告コミュニケーションが「アテンションの奪い合い」から、「トラスト(信頼)の構築」へと回帰する動きとしてもとらえ返すことができるのではないだろうか。
天野 彬(あまの・あきら)
電通メディアイノベーションラボ 主任研究員
1986年生まれ。東京大学大学院学際情報学府修士課程修了。若年層の消費行動やSNSのトレンドに関する研究・コンサルティングを専門とする。近著に『新世代のビジネスはスマホの中から生まれる―ショートムービー時代のSNSマーケティング―』。その他、『シェアしたがる心理』、『SNS変遷史』、『情報メディア白書』(共著)、『広告白書』(共著)等。明治学院大学非常勤講師。セミナー登壇やメディア出演の経験多数。