「スポーツには世界と未来を変える力がある。」というビジョンを掲げ、国や都、企業と連携して準備を進める公益財団法人 東京オリンピック・パラリンピック競技大会組織委員会。布村幸彦副事務総長は、「スポーツの影響力は、地域の活性化、バリアフリー化、医療費削減、テクノロジーの普及など広域にわたり、未来に明るい遺産を残す」と話す。
4年がかりで進める5つの柱
──スポーツ活性化の観点から、2016年をどのように捉えていますか。
リオデジャネイロ五輪がある今年は、日本選手の活躍やスポーツへの関心が高まる年になると思います。組織委員会では、2020年東京オリンピック・パラリンピックに向けた準備の指針となる「アクション&レガシープラン」を、リオ五輪前に発表するつもりです。五輪を通じて未来にどのようなレガシーを残し、そのために何をすべきかを明確化するプランです。その内容は、
<1>スポーツ・健康
<2>街づくり・持続可能性
<3>文化・教育
<4>経済・テクノロジー
<5>復興・オールジャパン・世界への発信
を5つの柱とし、地域スポーツの活性化、水素エネルギーの普及、日本の魅力の発信など、多様な要素を盛り込む予定です。
──改めて五輪の意義や、現状での課題について聞かせてください。
1896年の第1回アテネ大会に始まった近代オリンピックは、国籍や人種、文化や宗教を超えた友情とフェアプレーを唱え、人間性の育成や世界平和に貢献してきました。また、1960年の第1回ローマ大会に始まったパラリンピックは、障がい者の社会復帰や社会参画に貢献してきました。こうした歴史を受け継ぐことが意義だと考えます。
現状での課題は、セキュリティー対策です。サイバー攻撃を含めてテロの脅威を回避し、選手や観客が安全な環境下でスポーツの祭典を楽しめる環境整備を、国や関係機関とともに進めています。
──経済界とはどのように連携していきますか。
経済分野の有識者やテクノロジーの専門家の助言をいただいているほか、企業から具体的な提案もいただいています。例えば、ウエアラブルな自動翻訳機の開発が進んでおり、外国人を誘導するボランティアに活用してもらうことを検討しています。パラリンピアンがロボットスーツを装着して開会式に登場するなど、かつてない試みも考えられます。企業と連携し、優れたテクノロジーを持つ日本らしい大会を目指していきます。
──スポーツをとりまく人や、都市のありようはどのように変わっていくのでしょうか。
パラリンピアンなどにヒアリングをすると、「街で困っている障がい者に声をかける人が増えるとよい」といった話をよく聞きます。車いすが2台すれ違える通路、障がい者がスムーズに移動できる公共交通機関など、バリアフリーの街づくりはもとより、スポーツの場や教育を通じた「心のバリアフリー」が進み、レガシーになることを願っています。
メディアに多くの役割を期待
──海外の選手や観光客が多数来日することが予想されます。
五輪は、204の国と地域が参加する一大イベントです。おもてなしを充実させるため、組織委員会では約8万人、東京都では約1万人のボランティアを動員予定です。東京以外の地域でも、聖火リレーや事前キャンプを通じて国際交流が進むでしょう。すでに150を超える市町村から「事前キャンプは我が町で」という要望も届いています。また、夏の大会なので、東北の夏祭りを見ていただくなど、地域の魅力や復興の姿も発信していけたらと思います。
──市民スポーツや生涯スポーツの広がりが期待されます。
高齢化が進む中で、市民スポーツや生涯スポーツは、健康長寿や医療費削減という観点からも発展が望まれています。東京五輪をきっかけに実業団やママさんバレーが根付いたように、オリンピック・パラリンピックは、市民が元気に活躍する社会の実現に寄与すると考えています。
──メディアが果たす役割について、ご意見をお願いします。
組織委員会では、国内の報道関係者で構成されたメディア委員会の方々に助言をいただいています。我々がメディアに期待するのは、東日本大震災の復興状況の世界への発信や、オールジャパンで五輪を応援するムーブメントづくりのほか、スポーツを「観る」楽しさに加え、「する」ことによる健康効果、「支える」喜びなども伝えていだたきたい。ことに「支える」文化は日本に十分定着しておらず、だからこそメディアが果たせる役割は大きい。例えば、ロンドンマラソンは、参加者やその周辺の人々が寄付やボランティアに加わる祭典として知られ、毎年数十億円の寄付金を集めています。そうした価値をぜひ広めてほしいですね。
──今年の抱負を聞かせてください。
前回の2012年ロンドン五輪は、大会前から多くの観光客を集め、開催中は各会場が満席となり、大会後も観光客を引き寄せました。2020年東京五輪もぜひそうした大会にしたいと思います。セキュリティー対策、おもてなし対策、テクノロジーの活用、誰もがスポーツを「する・観る・支える」社会づくりなど、様々なアクションを起こし、明るいレガシーづくりを目指します。
大会ビジョンに基づき大会運営と様々なアクションを行う
公益財団法人 東京オリンピック・パラリンピック競技大会組織委員会 常務理事/副事務総長
富山県出身。東京大学法学部卒。1978年文部省入省。文部科学省生涯学習政策局政策課長、大臣官房人事課長を経て、2005年大臣官房審議官(初等中等教育局担当)。2009年スポーツ・青少年局長、初等中等教育局長、高等教育局長を経て、2014年より現職。