理想の夫婦は“横並び” 『VERY』が捉えるママ層の意識

 子育て世代を中心に、圧倒的な支持を集めるのが、今年創刊20周年の節目を迎えた女性誌『VERY』。 イベントなどリアルな体験を提供する企画や、企業とのコラボ開発商品なども人気だ。今尾朝子編集長は、 「女性というより男性や企業の意識が変わり、女性が意見を言いやすくなったのでは」と指摘する。

”ドクチョー”でいろいろな気づき

――『VERY』は現在33万部を発行し、女性誌の中で高い人気を集めています。まずは、主な読者と編集方針を教えてください。

今尾朝子氏 今尾朝子氏

 メインの読者は、30代既婚女性です。小さいお子さんから、小学校中学年くらいまでの子供がいる、20~40代の子育て世代が中心ですね。出産を機に読み始めたとか、幼稚園入園などの際にはお洋服も気になるので、そんな節目から読者になっていただくことが多いです。一度コミュニティーに入ってしまえば情報共有も盛んだと思いますが、「こんなとき、VERYではどう描いているんだろう」と、上手に誌面を活用されていると思います。

 仕事をしていてもそうでなくても、子育ては毎日がとても慌ただしいものです。なので、子育てママに必要と思われる情報や、ちょっと背中を押せるような話題までを網羅して、読者の方のめくるめく日々に並走し、応援するようなイメージで編集しています。

――読者のニーズを、どのように把握していますか?

 編集部で“ドクチョー”と呼んでいる、読者調査を大切にしています。関係者の紹介や街で声をかけるなどして読者層の方に時間をもらい、基本的に1対1から2対2くらいの小規模で話を聞くことを常に行っています。ドクチョーでは、その方の生活や背景も含めてうかがう中で、私たちが知らなかった意識や発想など、いろいろな気づきがあります。会って話すから分かる表情や、彼女が言えなかったことは何だろうと考えるのも、大事だと思っています。

 それから、外部スタッフであるライターさんたちの存在がとても大きいです。常時20~30人いるライターさんはほとんどが子育てママで、定期的に本誌で募集をするのでVERY読者としての経歴もあります。ライターさんたちの情報感度やネットワークが、VERYを作る基礎となってくれています。

主婦が意見を言いやすくなった

――少し前と比べて、最近の子育てママにはどんな変化がありますか? 特に、情報発信やコミュニケーションについてはどうでしょうか。

 私が編集長に就任した8年前と比べると、まずは働くママが増えました。企業勤めだけでなく、週2回ピアノを教えていますという方も含めてですが、以前は読者の3割弱だった就業率が、今や過半数にまで伸びています。お休み中の方も、仕事に復帰したいと思う時期が早まっています。

 コミュニケーションについては、デジタルツールやSNSによって、情報発信が活発になっているのでは……とよく聞かれますが、発信はそこまでではないかなという印象です。

 Instagramなどを通して自分から積極的に発信している層もいますが、全体的にはとにかく忙しいので、閲覧のみの人が大半だと思います。

 ただ、確かに今は顔の見えないやり取りも当たり前なので、そういう場で誤解されないような高いリテラシーを持たれる方が多い印象です。またVERY読者の中には、デジタル上での情報発信というよりは、リアルなママ友コミュニティーの中でインフルエンサーとなっている方が多いと感じます。同性としてまねしたいと思われるような、ファッション感度も高くて知的な方です。「その自転車いいね」と言われたら端的に良さを伝え、その情報が広がっていきます。そもそもママ層は「いろいろな情報を共有して助け合わないと回らない!」というところもあるので、その中にときにVERYの情報が加わるという感じですね。

――VERYでは企業と組んだ商品開発例も多く、中にはクルマなどファミリーを切り口にした企画も進んでいます。家庭内で消費のカギを握ることも多いのではと思いますが、どう見ていますか?

『VERY』2015年12月号(毎月7日発売) 『VERY』2015年12月号
(毎月7日発売)

 女性が家庭において消費の主導権を持っているというのは、きっと昔も今も同じではないかなと思います。外では「うちは俺が決めている」と夫が言っていただけで、実は妻が決めていたのでは(笑)。女性というより、男性や企業の意識が変わったから、以前よりも主婦が意見を言うのが一般的になっているのではないでしょうか。

 今の夫婦の理想は“横並び”です。夫も対等な関係を当たり前に捉え、妻の意見を尊重しています。男性も、SNSで「週末はファミリーで過ごしました」といった投稿をすると「いいね!」がたくさん集まったりと、物質的な豊かさより家族単位で“コト”を楽しむのがすてきだと感じる人が増えています。

 子育て世代は男性も仕事が忙しい時期なので、実際は家事や育児をしっかり分担という方はまだ少ないでしょうが、意識は確実に変化していますね。社会や、働くシステムが変わっていくことで、その傾向は強まると思います。

今尾朝子(いまお・あさこ)

光文社 月刊ヴェリィ編集部 編集長兼ブランド事業室長

1998年光文社入社。『VERY』 編集部『STORY』編集部を経て、2007年より現職。12年よりVERYブランド事業室長を兼任。ブランド事業としては、ブリヂストンサイクルとのママチャリ『HYDEE.B』の開発など。14年に出産し、15年春より職場復帰。