グループ間の情報共有を徹底し、農畜産業の発展を目指す

 今年8月に全国農業協同組合中央会(JA全中)の会長に就任した奥野長衛氏。改正農協法の成立、TPP交渉の大筋合意など、様々な課題がある中、自己改革を推進し、生産現場とともに歩む組織づくりを進めている。

──今年8月にJA全中の会長に就任されました。今後の対策について聞かせてください。

奥野長衛氏 奥野長衛氏

 まず、日本の未来において農業がいかに大切か、JAグループが果たす役割がいかに大きく多岐にわたっているか、各地域の農協やJA全中の取り組みと合わせて広く伝える必要があると考えています。そのためには、広報活動にとどまらず、現実にJA事業を体験できる機会を増やしていきたいと思っています。

──農村地域の過疎化、農家の高齢化が進んでいます。

 過疎化や高齢化が進む地域では、地域の農協が大きな役割を果たします。その役割は農業に関することだけではありません。例えば、私の地元のJA伊勢では、20年近く前から高齢者の暮らしを支える取り組みを開始し、今では、居宅介護支援、訪問介護、デイサービスなどを行う介護事業に発展しています。JAグループは、組合員で構成される協同組合ではありますが、とてもオープンな組織で、営利目的ではなく相互扶助の精神に基づいて活動しています。そうしたことへの国民的な理解や関心を高める努力も必要だと考えています。

──地域の活性化や農家の若返りにおいて、何が重要だと考えますか。

 農業で食べていける環境づくりです。今年は、改正農協法の成立、TPP交渉の大筋合意など、農家を取り巻く環境に大きな動きがありました。これに対し、未来を悲観する農家もあれば、チャンス到来と意気込む農家もあります。

 JA全中では、各都道府県の中央会に地域農協の事業を手助けするサポートセンターを設置。土地の気候や土壌条件に合った作物を栽培する「適地適作」を奨励する他、できた作物をマーケットにつなぎ、マーケットの反応を生産者にフィードバックする取り組みを強化しています。消費者ニーズのくみあげやビジネスマッチングなど、農業の復活の足がかりとなるような取り組みです。生産者は、「自分が作った作物がいちばん」というプライドを持っています。私も生産者なので、その気持ちがよくわかる。ただ、これからの時代は、消費者のニーズにアンテナを張り、異業種と組んで新製品を開発するなど、プラスアルファのチャレンジが必要です。しかも、消費者のニーズは変化し、多様化している。お米にしても、ふっくらとしたお米、チャーハンに適したサラッとしたお米、いろいろなニーズがあります。それを的確に捉え、生産者にフィードバックする機能を果たしていけたらと思います。

──東北を中心とする被災地の農業復興についての考えは。

 東北では、震災による津波で多くの田畑が海水にさらされました。営農再開が難しい地域はまだ多くあります。その一方で、新たなスタートを切っている農家も着実に増えています。例えば、イチゴの産地として知られる宮城県亘理町では、塩害で土耕栽培ができなくなった土地で、これまでとは異なる高床式の栽培方法を導入。甘みのあるおいしいイチゴの栽培・出荷を実現しています。こうした農家の努力を応援し、努力の結晶である作物を積極的にアピールしていきたいと考えています。

──リーダーとして心がけていることは。

 実は私は、我が強く、ものすごく短気(笑)。この二つを封印して、人の話をよく聞くように心がけています。

 私は、人は宝だと思っています。ですから「人材」という言葉はきらいで、「人財」という言葉を使うようにしています。ドラッカーは、「人は最大の資産」と語り、組織の階層を少なくし、横の情報共有と相互理解を進めることで、個人の力が発揮しやすいようにすることの大切さを説きました。それこそ私が目指す組織であり、現場の声に耳を傾けながら、農畜産業の発展を目指していきたいと思います。

──愛読書は。

 学生時代に読んだドラッカーの著書群は、今の私の原点です。司馬遼太郎も大好きで、ほとんどの作品を読んでいます。海外の作家なら、フレデリック・フォーサイスの作品群が好きです。

奥野長衛(おくの・ちょうえ)

全国農業協同組合中央会 会長

1947年三重県生まれ。70年関西大学法学部中退。家業の野菜農家を継ぐ。JA伊勢組合長を経て2011年JA三重中央会会長。JA全中監事、理事を経て、今年8月から現職。

※朝日新聞に連載している、企業・団体等のリーダーにおすすめの本を聞く広告特集「リーダーたちの本棚」に、奥野長衛氏が登場しました。(全国版掲載。各本社版で、日付が異なる場合があります)

広告特集「リーダーたちの本棚」Vol.79(2015年11月27日付朝刊 東京本社版)