住宅用建材や太陽光発電システムの分野で独自の技術力を発揮している奥地建産。住宅用太陽光発電架台は業界トップシェアを誇る。代表取締役社長の奥地誠氏に、同社の企業文化や製品特性などについて聞いた。
──奥地建産はどのような企業文化を持っているのでしょうか。
当社は、誰も手を出さないような「儲(もう)からない事業」に取り組んできた会社です。戦後間もなく鉄の卸売業を始めた父・進は、長尺の鋼板加工に乗り出しました。当時は定形の鋼板を流通させるのが一般的で、長尺の製品にするためには継ぐ必要がありました。そこで、長いコイル状の鋼板を製造しようと思いついたのです。誰も賛同しなかったそうですが、結果的に納入先は一気に増えました。その後、長尺の金属屋根製造を開始。「ロールフォーミング」という成形技術を高め、住宅鋼材分野でシェアを拡大しました。80年代には形が複雑で精度の高いブラウン管テレビのフレーム製造も行いました。
──住宅鋼材分野の成長のきっかけは。
私が開発部の現場で働いていた70年代当時、金属建材の中でいちばん「儲からなかった」のは、一般用天井材や間仕切り材でした。当時一般住宅向けのものは存在せず独自に開発するしかありませんでした。そこにあえて挑戦し、取引先の住宅メーカーに「当社の内装天井材や間仕切り材を使ってみてください」とお願いしました。競合は大手ばかりでしたが、儲からない事もあり、2年を待たず当社が採用メーカーとして残りました。他社製品に比べ、上に貼ったクロスが割れたり、ギシギシと音が鳴ったりという経年変化がない事も評価されたのです。これが成長のきっかけとなりました。
──先代を継ぎ、社長に就任されてから2年後の2002年に太陽光発電パネル用架台の生産を開始しました。
大手電気メーカーから、「ソーラーパネルを取り付ける屋根の形は千差万別なのに、架台のカスタム製造ができる金属メーカーがない。ぜひ協力してほしい」と依頼され、参入を決意しました。当社は住宅1棟ごとに異なる部材をセットにして納品する「邸別出荷」を強みとしており、太陽光発電パネル用架台は、この仕組みをそっくり応用できるものでした。
──太陽光発電パネル用架台「サンキャッチャー」の特性は。
固定価格買取制度(FIT)の買い取り期間である20年の寿命を保証しています。太陽光発電パネル用架台は、風雨、湿気、海塩などによる腐食、強風や積雪による負荷など、様々なリスクに耐え得るものでなくてはなりません。安心して導入できる製品をお届けするため、塩害環境での腐食実験、風洞実験、他社がどこもやっていない破壊実験なども行っています。また、業界の多くは「太陽電池アレイ用支持物設計標準」というJIS規格を採用していますが、当社はより厳しい基準を採用しています。
──太陽光発電の可能性についてどのように考えていますか。
地球温暖化対策、持続可能な社会づくり、エネルギーの地産地消など、あらゆる面で社会的意義のある分野だと考えています。「山手線の内側に建つビルや住宅の屋根に太陽光発電パネルを載せれば、東京の電力がほぼまかなえる」と唱える学者さんもいます。大都市の住宅やマンションの屋根を見ると、太陽光発電パネルの設置はなかなか進んでおらず、普及に努めていかなければならないと思っています。
──品質保持・改善において心がけていることは。
第一に人材育成です。90年代初頭には、工場再編にあたって社員研修を徹底し、日常業務の改善から生産ラインの改善まで、幅広く意識改革をはかりました。以来、「クレームゼロ・自責不適合ゼロ」を合言葉に、全社一丸となって品質追求に努めています。2000年以降は国際的評価を重視し、品質マネジメントシステム、環境マネジメントシステム、事業継続マネジメントシステムなどに関するISO規格を次々取得しました。
──3.11以降の取り組みについて聞かせてください。
当社は阪神淡路大震災を経験しており、その教訓から仮設住宅の必要性が高まると判断、緊急体制をしいて3万2千棟余りの部品を生産しました。さらに、国難においてできることは何かと考え、関東圏に建設を予定していた工場を福島に建設しました。昨年からスタートした「福島県再生可能エネルギー普及アイデアコンテスト」に特別協賛するなど、再生可能エネルギーの普及活動にも努めています。
──今後の方向性は。
「顧客満足」から一歩進んで「顧客の利益創造」を目指していきます。今、造っては壊す戦後の建築のあり方を見直す時期にきていると思います。より強靱(きょうじん)なものを作り、長持ちさせる努力をするべきです。課題はメンテナンスコスト。鉄製建造物の塗り替えなら、10年に1度よりも20年に1度ですんだほうが国民負担は軽くなります。そこに当社の高耐食性のめっき技術が貢献できるかもしれません。もちろん、住宅建材も、太陽光発電パネル用架台も、より長持ちする部材や、環境負担のない部材の研究を進めていきたいと考えています。
──リーダー哲学は。
何かを変えたいと思うなら自分が変わる必要があり、変わる勇気や感性を失った時が、リーダーとしての限界だと思っています。
──愛読書は。
『孫子』と『韓非子』です。『孫子』はマネジメントの矛、『韓非子』は盾になる考えだと思っています。
奥地建産 代表取締役社長
1955年大阪府生まれ。75年奥地建産入社、開発部に配属。85年開発部長。95年専務取締役。2000年6月から現職。
※朝日新聞に連載している、企業・団体等のリーダーにおすすめの本を聞く広告特集「リーダーたちの本棚」に、奥地誠氏が登場しました。(全国版掲載。各本社版で、日付が異なる場合があります)
広告特集「リーダーたちの本棚」Vol.75(2015年7月26日付朝刊 東京本社版)