木造軸組工法（木造在来工法）のトップブランドであり、また持続的な植林事業を通じ再生可能な自然素材である“木”の可能性をサステナブルな社会に向けてひらく住友林業。今年４月、新社長に就任した市川晃さんに話を聞いた。
――営業の世界で長く活躍する中で、海外勤務を多く経験したと聞いています。
市川 晃氏私が長く携わったのは木材のうち原木（丸太）や製材品という、住宅に使う木材の輸入です。最初の駐在はすでにネットワークができていたシアトルでしたが、２回目のアムステルダムは事務所開きからのスタート。たった一人で空港に降り立ち、事務所を探すところから始めました。
その時の経験で学んだのは、「相手に理解をしてもらうこと」の大切さでした。当時のヨーロッパの人たちにとって、日本の住宅向けに木材を輸出するというのは初めての経験だったと思います。製材工場で働く人々にその木材がどこでどう使われるかを直接説明し、だから皆さんの木材が必要なんですと伝えると、一生懸命になって協力してくれました。単にモノやお金を動かすということだけが、私たちの仕事ではありません。
――社長就任以来、積極的な投資分野として海外、不動産、リフォームの３事業を掲げています。
住友林業は木造軸組工法（木造在来工法）のトップブランドの一つであり、木に関してのトップランナーという自負があります。少子高齢化を迎えた国内では新しい価値観の創造が必要ですが、また同時に日本の住宅の中心は今も木造住宅であり、1981年の建築基準法の改正以前に建てられた住宅は約1,150万戸あると言われています。そういった住宅の耐震性の補強や、現代のライフスタイルに合った改修、もう一つは日本の素晴らしい木の文化を伝える古民家の再生に、我々の経験と技術が大きく役に立てると思っています。
一方海外では、今後ますます成長を遂げていく新興国や環太平洋地域を中心に、我々の持っている木造住宅のノウハウで貢献することを考えています。国内における住友林業の強みは、山林経営から木材、建材の製造流通、そして住宅の建築販売までをフォローした垂直統合型のビジネスモデルにあります。それを海外でも実現したいですね。
――景気停滞が続く中で、特に若い世代にとっては「家を持つ」ことが遠く感じられるようにもなっていると思われます。
日本の住宅そのものの値段は、先進諸国と比べて決して高くありません。問題は土地の値段で、土地付き一戸建住宅は、アメリカがおおよそ土地の値段が1/3、上ものの値段が2/3である一方で、日本の都心では反対に土地が2/3、上ものが1/3です。土地政策を語らずして住宅の問題を語ることは難しいのですが、いずれにしても住まいというのは、もっとも人間が安らぐ場所であるべきだと思います。住まいが安らぎの場でなかったら、人間はいい仕事はできないと思いますね。家を建てることを目的に働くのではなく、自分や家族にとって居心地のよい場所を作るために、誰もが働いているのではないでしょうか。
――愛読書を紹介してください。
私がもっとも好きな作家は司馬遼太郎さんです。『坂の上の雲』や『龍馬がゆく』ももちろん好きですが、商人が主人公という数少ない小説として、『菜の花の沖』を挙げたいと思います。江戸時代の廻船商人、高田屋嘉兵衛の生涯を描いた作品です。本作には鎖国によって独自の発展を遂げた日本の船を軸に、商品経済の動きや海運で結ばれた地方の様子がいきいきと描かれています。自分が江戸時代の商人になったような気分にさせられる本ですね。
もう一冊、トーマス・フリードマンさんの『グリーン革命』を挙げさせてください。本書で特に私が心を動かされたのは、1992年の地球サミットにおける12歳の少女のスピーチです。彼女は、「何を言うかではなく、何をやるかがおまえを決める」という父親に言われた言葉をそのまま世界に投げかけます。責任ある大人、企業として何をすべきか。住友林業としての答えの一つが、“伐って使って新たに植え、そしてまた育てる”という森林のサイクルを社会に生かし、CO2の抑制に貢献しながら、持続可能社会の実現に貢献することだと思います。
住友林業 代表取締役社長
1954年生まれ。1978年、関西学院大学経済学部卒業後、住友林業株式会社入社。1996年、営業本部営業部シアトル出張所長。2001年、 営業本部海外事業部副部長。2002年、営業本部国際事業部長。2005年、住宅本部住宅管理部長。2007年、執行役員経営企画部長。2008年、取締役常務執行役員。2010年4月1日、住友林業株式会社代表取締役社長に就任。
※朝日新聞に連載している、企業・団体等のリーダーにおすすめの本を聞く広告特集「リーダーたちの本棚」に、市川晃さんが登場しました。（全国版掲載。各本社版で、日付が異なる場合があります）
