私たちが毎日当たり前のように使う、歯磨きや洗剤。そのあまりに身近な存在のことを少し考えてみると、歯の健康は長い人生における生活の質に、そして洗剤は地域の河川環境や大切な水資源へとそのままつながっている。研究開発力と、先進的な環境ビジョンを融合させながら新たな新製品を生み出し続けるライオン。「健康・快適・環境をキーワードに、新しい生活価値を創出する」と、藤重貞慶社長は語る。
――ライオンは生活者の健康・快適への取り組みとして、「新・快適生活産業No.1を目指す」と宣言されています。藤重社長が考える、快適生活とは?
一言でいえば、人生の長さよりも、人生の質を大切にする生き方でしょうか。人々は今、人や社会の役に立つ人生を過ごしたいと思っています。しかしWHOの発表によれば、2002年時点での日本人の平均寿命は男性が約78歳、女性が85歳ですが、自立的な生活が送れる健康寿命は男性が約72歳、女性が約78歳。両者には6~8年もの開きがあり、それだけ人間としての尊厳を傷つけられる余生を送らなければならない可能性が高いといえます。
健康寿命に大きくかかわるのは口腔(こうくう)環境、つまり食べたいものを自分の歯で噛(か)んで食べ、家族と語らい、友人と談笑ができる「口の丈夫さ」があることです。人間の歯というのは親知らずをいれて32本あるのですが、20本あれば大抵なんでも食べられるのですね。ところが、厚生労働省の「平成17年歯科疾患実態調査」によると、80歳の方で残っている歯の平均は9.8本です。20本の自分の歯が残るようにしましょうと。それは年をとってから始めることではなく、乳児の時から口の中を衛生的にする習慣をつける、あるいはおなかにいる時からお母さんが健康に心を配るような、一生を通じた取り組みです。
――環境活動の一環としては、今年6月~8月には洗濯用洗剤「トップ」の売り上げの一部を、地元の河川環境を保護する活動「きれいな川と暮らそう」基金に提供するキャンペーンを行っていますね。
ライオンでは、石油原料から再生産可能な循環型資源である植物原料への転換に70年代から取り組んでいますが、現在、「トップ」は洗浄成分の約76%が植物原料です。原料の栽培からお使いいただく過程まで、大気中のCO2増加抑止に大きく貢献しますが、同時に水資源を守るということも私たちの大きな責任だと思います。
日本は、森林が育み、そして川が運ぶ恵みを享受し、時に氾濫(はんらん)する川を上手に治めながら、豊かな国を築いてきました。それが日本人の心や行動様式、価値観をつくってきたという歴史もあります。それが物質文明によってだんだんと失われてしまい、今の多くの子供たちは、川との付き合いがありません。モノの豊かさでは幸せが計れなくなった今こそ、自然と人間が調和する世界を、もう一度取り戻すことが大事なのではないかと思います。
――藤重社長は、大変な読書家だとうかがっています。愛読書を教えてください。
読書は子供のころから好きなのでご紹介したい本はたくさんありますが、現代の子どもたちにも、大人にも読んでもらいたい本として、富山和子さんの自然と人間シリーズ三部作『森は生きている』『川は生きている』『道は生きている』をお薦めします。この3冊は、日本という国の成り立ちの一番大事なところを深く、そして易しく伝えてくれる最も優れた本です。真理は常に身近にあり、何を一番大切にしていかなければならないかを改めて気づかせてくれます。
文/松身 茂 撮影/星野 章
ライオン 代表取締役社長
1947年埼玉県本庄市生まれ。65年、慶應義塾大学商学部入学。マーケティングを専攻し、サッカー部でゴールキーパーとして活躍。69年に卒業後、ライオン油脂㈱入社。シャンプーのトップブランド「エメロン」を担当するなど主にマーケティング、商品企画で活躍。子会社の管理部門への出向など苦労を重ねた後、90年に本社イノベーションルーム室長。取締役、国際事業本部長などを経て、04年、代表取締役社長、最高経営執行責任者に。06年から取締役会議長、家庭品事業部門分担を兼任。現在、代表取締役、取締役社長、取締役会議長、最高経営責任者。
※朝日新聞に連載している、企業・団体等のリーダーにおすすめの本を聞く広告特集「リーダーたちの本棚」に、藤重貞慶さんが登場しました。(全国版掲載。各本社版で、日付が異なる場合があります)