サントリー BOSSの「宇宙人ジョーンズ」シリーズをはじめ、東洋水産の「マルちゃん正麺」や日本郵便の「ゆうパック」など、話題のテレビCMを数多く手がける、CMプランナーでコピーライターの福里真一さん。ENEOSの「エネゴリくん」やアフラック「ブラックスワン」などCMキャラクターの生みの親でもある。
予想外の配属でクリエーターに
「才能がない」と決めたことでうまくいきはじめる
――クリエーターになったきっかけは。
実は、電通に入社してみたら、会社にクリエーティブ部門に配属されたというだけで、クリエーターを志望していたわけではないんです。本当はマーケティング部門の志望でした。幼い頃から人とのコミュニケーションが苦手な性格で、友だちが遊んでいるのを一人離れて眺めているような子どもでした。研究の仕事であれば、自分の世界に没頭するイメージですし、自分にもできるのでは、と思ったのです。
そこで、就職活動では、いわゆる総合研究所、社名に「総研」がつく企業を受けていました。自分自身をプレゼンテーションすることも苦手だったので、面接官には、暗い雰囲気の若者だと思われていたと思いますし、事実なかなか内定をもらえませんでした。それが、電通のグループ会社である電通総研の面接官に「研究の仕事は電通にもあるから、受けてみたら」と言われ、応募してみたところ、なぜか受かった。バブルの頃なので採用枠にも余裕があったのかもしれません。どう考えても電通という会社には一番向いていない若者だったと思うんですけどね。それで目立ったんでしょうか(笑い)。
当時は、入社前に配属先の希望を3つ出すことができました。100%のうち、どのくらいの割合でそれぞれの部署を希望しているか問われ、第一志望のマーケティング部門は97%、残りはしょうがないのでクリエーティブ部門を2%、1%はニューメディア部門と伝えました。それなのに、2%のクリエーティブ部門に配属されてしまったんです。
入社後、なかなかいい仕事ができませんでした。「せっかくクリエーティブ部門に配属されたんだから」という意識で、「自分らしい広告を作ろう」という考えに固執してしまっていたんですね。偶然が重なってCMプランナーになったからには、どうせなら自分にしかできない広告を作らなければ、と気負っていたんです。でも広告主は、作り手が「自分らしさ」を発揮することなんて全く求めてないですよね。多額の費用をかけて広告を作るわけですから、自分らしさなんてどうでもいいから、売れる広告を作ってもらいたいわけです。そんなことすらわかってなかったので、企画は通らず、通ったとしても世の中は広告主以上に「福里らしさ」なんて求めていませんから、全くヒットしないという日々が続いていましたね(笑い)。
――クリエーターとしての転機は。
全然うまくいかない状況の中で30歳を迎えまして、「ああ、これは無理そうだな」と。そこで、「自分は才能がない」と決めたのです。どうせ才能がないのであれば、自分らしさよりも周りから求められていることをひたすら実現しようと頭を切り替えた。それからだんだん仕事がうまくいくようになりました。
そのきっかけになったCMは、缶コーヒー「ジョージア」の『明日があるさ』というキャンペーンです。広告主からの課題は、「21世紀という時代の変わり目に、前向きに働く人たちの背中を後押しするような広告」でした。少し前の自分だったら、前向きなどころか、21世紀なんてますます生きづらい時代に違いない、なんて思っていたと思いますが、心を切り替えていたので、素直に「見た人が前向きになれる広告とはどういうものか」と考えてみました。
そのとき『明日があるさ』という歌を思い出したんです。原曲は、告白したいけどできない、電話をかけても出る前に切ってしまう片思いの歌です。この『明日があるさ』を、今の時代の働く人が共感できる替え歌にして、吉本の人たちに演じてもらう。このアイデアには自分自身の主張は一切ありません。自分では、「これでいいのかな」と自信なんて全然なかったのですが、この案が競合プレゼンも勝ち抜き、その後オンエアするとびっくりするぐらい話題になったんです。
いいアイデアを生み出すには
いいアイデアを思いつこうとしすぎないこと
――今まで1,000本以上のCMを手がけています。アイデアを生み出し続けるために心がけていることは。
「アイデアが出ない」という状況を作らないようにしています。アイデアが出ないというのは「いいアイデアを出そう」と思いすぎている証拠です。見たこともないような斬新なアイデアを出そうとすると、何も思いつきません。何も思いつかないと焦りますし、考えること自体が嫌になってきます。だから、「どんなにダメでもいいから、何でも思いつこう」と心がけています。なんでもいいと思えば、何かしら思いつくものです。1時間で5案出てくれば、気分は楽になり、ますます企画が出るようになります。そして、思いついた時にはダメな案だと思っても翌日に見返すと、そんなに悪くない、ということもけっこうあるんです。
――サントリー BOSSの「宇宙人ジョーンズ」シリーズをはじめ、長く続くCMが多いですね。
広告は長続きしたほうがいいと思っています。今は、昔のように誰もがテレビを見ている時代ではないので、「BOSSのCMと言えば宇宙人だよね」と認識されるまでには、ある程度、時間をかけて伝え続ける必要があります。継続すると多くの人に広まり、今度はこう来たか、次はこう来るんじゃないか、と思ってもらえるようにもなります。そうなると、知らず知らずに視聴者の皆さんとつながり、ブランド自体を好きになってもらえる可能性も高まると考えています。
BOSSのCMは、「テレビは暗いニュースばかり流すなあ」というところから思いつきました。そこで、ニュース番組とは逆に、「確かにろくでもない地球だけど、いいところもある」というのを人類以外の立場から報道する、という設定で宇宙人を登場させました。いろいろな職場が舞台なので、いくらでも長く続けられる仕組みです。もちろんサントリーさんが希望すれば、ですが(笑い)。
――テレビCMの仕事が多い福里さんですが、もし新聞広告をまかされたら、どんなことをやってみたいですか?
今までの人生で最も驚いた新聞広告は、宮沢りえさんの写真集「サンタフェ」の広告(1991年)です。新聞をめくって目にした瞬間「えーっ!」と仰天し、寝ている家族を起こしたくらい。もし、新聞広告をまかされたら、そんな風に、朝一番に日本中のあらゆる場所で「えーっ!」と言わせて、誰かに伝えずにはいられないような広告を作ってみたいです。メディアが多様化しているとはいえ、それができる媒体は新聞以外にないと思います。
かつて広告は、テレビCMでは語り切れないことを新聞広告で読ませる、という役割分担だった時もありますが、今はウェブでそれ以上にたっぷり読ませることができます。だからこそ新聞は、読ませるというより、日本全国で「えーっ!」と言わせることに、集中したほうがいいのではないでしょうか。
――広告やメディアの世界で、注目しているものはありますか。
私が一番注目しているのは、やはりテレビCMです。それもごく普通のテレビCMです。テレビが見られなくなっているなんて言われていますけど、今でも一日中テレビCMは流れていますし、かなりの人がそれを見ている。そんなテレビCMが面白くなることは、テレビそのものが、そして世の中全体が面白くなることにもつながるはずです。今、広告業界でみんなが目指しているのは、ウェブで見せるための動画や、海外でも話題になるような映像で、普通のテレビCMを作るというポジションは実はガラ空きなんです。だからこそ、私は普通の人が見る、普通のテレビCMを頑張って作ろうと思っています。まあ、なんかかっこいい感じで言っていますが、自分にはそういうのが向いてそう、というだけなんですけどね(笑い)。
――最後に、若手クリエーターに向けてメッセージをお願いします。
CMプランナーという仕事は、特別な才能がなくてもできる仕事です。その割に、自分の仕事を世の中のたくさんの人に見てもらえる、とても不思議な仕事だと思います。例えば、同じ映像制作でも映画監督になるのは相当大変ですよね。それに比べて、広告クリエーターは、会社員として安定した立場でできる(笑い)。親や親戚にも「真ちゃんの作ったCM見たよ、面白かった」などと言ってもらえたりもする。タレントさんを起用して、「こんなことしてもらったら面白い」とか、自分で考えたキャラクターに「こんな憎まれ口をたたかせたら面白いかも」なんて考えながら企画をする仕事というのは、まるで毎日が文化祭みたいなものです。それをやりながら、給料がもらえるわけですからね。目指してもみてもいいんじゃないでしょうか。
ワンスカイ CMプランナー/コピーライター
1968年鎌倉生まれ。92年電通入社。2001年よりワンスカイ所属。
1,000本以上のテレビCMを企画・制作。主な仕事にジョージア「明日があるさ」、サントリーBOSS「宇宙人ジョーンズ」、トヨタ自動車「TOYOTOWN」、ENEOS「エネゴリくん」、東洋水産「マルちゃん正麺」、アフラック「ブラックスワン」、ゆうパック「バカまじめな男」など。TCCグランプリ、ACCグランプリ(総務大臣賞)、東京ADC賞、ギャラクシーCM大賞、2001年クリエイターオブザイヤー(最年少受賞)、01年「明日があるさ」と09年「こども店長」で新語・流行語大賞に入賞など多数。
著書に『電信柱の陰から見てるタイプの企画術』(宣伝会議)、『困っている人のためのアイデアとプレゼンの本』(日本実業出版社)。