全てのコミュニケーションが動画化する時代 生活者に合わせたコミュニケーション設計を

 スマホの普及とデジタル技術の進歩により、動画メディアが増え、動画の活用法も多様化している。そんな時代に、企業は動画コンテンツをどのように活用していくべきなのか。今後、コミュニケーション活動における動画の重要性は、どのように変化していくのか。「hakuhodo.movie」の塚田雅人氏と、堀 宏史氏に聞いた。

「hakuhodo.movie」の塚田雅人氏 堀 宏史氏

「hakuhodo.movie」の塚田雅人氏(右)と堀 宏史氏(左)

──現在の生活者と動画コンテンツの関係について、どのように見ていますか。

 スマホの普及によって、動画を使ったコミュニケーションが一般化しました。生活者同士がSNSなどで動画を送り合うことも自然なことになっています。現代の生活者は、単にコンテンツを見るだけでなく、様々な欲求を満たすために動画を能動的に使いこなすようになっています。博報堂DYグループ4社横断の動画プロジェクト「hakuhodo.movie」では、そんな風に動画を積極的に使いこなす人を「動画生活者」と呼び、定期的な調査をしてきました。その結果、動画生活者は主に七つの欲求を満たすために、動画を活用していることが分かりました。「買い物したい」「学びたい」「繋がりたい」「遊びたい」「ハマりたい」「癒やされたい」「マネしたい」の七つです(図表1)。企業はこの七大欲求をしっかり把握したうえで、ブランドが生活に自然ととけこみ、一部となるようなコミュニケーション設計をする必要があると思います。(堀氏)

──近年のデジタル動画のトレンドについても聞かせてください。

 スマホの普及によって、短尺と長尺の二極化が進んでいます。スマホを使って日々、膨大な情報に接している現代の生活者は、自分に必要な情報かどうかを数秒で判断しています。そのような時代に情報を伝えるうえではスピード感が必要で、冗長な長尺では難しい。一方、ブランドの世界観をユーザーと共有し、深いつながりを生み出すには、質の高い長尺動画が有効です。また長尺の動画を機能させるには、ターゲティング配信が不可欠です。(塚田氏)

──企業が動画によるコミュニケーション活動を行ううえで、気をつけるべきことはありますか。

 まず大前提として、コミュニケーションによって生活者を動かすのではなく、生活者にコミュニケーション設計を合わせていく発想が大切です。そのためには、動画を見たあと生活者はどのような感情になり、どのような行動をとるのか。コメントを書いたり、シェアしたり、さらに詳しい商品の情報を調べたり。そのようなことを、しっかり計算する必要があります。(図表2)( 堀氏)

(hakuhodo.movie 「動画生活者実態調査」より)

──テレビなどのマスメディアとネットはどう使い分けていくべきでしょうか。

 それぞれ強みがあるので、役割を明確にしたうえで、有機的に結合させ、最適に配分することが大切です。また新しい発想で両者を使うことで、いままでにない効果を発揮することもあります。例えば、マス広告によるコミュニケーションのテーマを絞り込めないとき、まずはSNSやバンパー広告の短尺動画で複数のメッセージやトーンのものを配信する。その結果によって、マスコミュニケーションのアプローチを決める。そんなリサーチャブルプロモーションといった手法も広がり始めています。(塚田氏)

──今後、企業と動画の関わりはどのようなものになっていくと思いますか。

塚田雅人氏 塚田雅人氏

 私たちは今後、すべてのコミュニケーションが動画化していくと考えています。企業活動においても、すべての領域に動画が関わっていくようになるのではと思います。IRや株主総会、商品発表会、説明書やユーザー体験などで、どんどん動画が活用されていくでしょう。企業活動が複雑になり、ステークホルダーも多様化するなか、現代の企業は全体の意思統一が難しくなってきています。誰にとっても分かりやすく、伝わりやすい動画コンテンツはインナーコミュニケーションにも有効。音、映像、言葉の総合体験である動画は、短い時間で大勢の人のモチベーションを高め、目線や気持ちを一つにすることができます。動画を活用することで、ブランド体験を一元化することも可能になります。(塚田氏)

 とくに5Gサービスがはじまれば、動画ビジネスのポテンシャルは飛躍的に高まります。動画活用のシチュエーションは、あらゆる領域に広がるでしょう。これまで動画とは無縁だった企業と、動画を起点にパートナーとして協働する機会も増えると思います。(堀氏)

──貴社が手がける動画を使った新しい試みがあれば教えてください。

 今は生活者が商品やサービスを選ぶうえで、ネット上のレビューが重要な役割を果たすようになっています。そこで今、レビューを動画化して広告として配信する試みをプラットフォーマーと組んで始めています。今後もデジタル動画を扱うプラットフォーマーの技術力と、我々のクリエーティブ力をかけあわせて、新しい枠組みをつくるようなことに挑戦していきたいと考えています。(塚田氏)

──新聞社が動画コンテンツに関わることに対しては、どのようなことを期待しますか。

 新聞の強みである信頼性や正確性、ソーシャルな視点と動画をかけあわせることで、いままでにない面白いメディアが生まれる可能性があると思います。(塚田氏)

堀 宏史氏堀 宏史氏

 信頼性が高く、長期的な時系列のアーカイブを膨大に蓄積していることは、新聞社の大きな強みです。情報がフローとして次から次へと消費されていくデジタル時代に、その価値はむしろ高まっています。そのアーカイブを、生活者が使いやすいものとして提供するうえでも、動画の活用はとても有効なのではないでしょうか。

 あらゆるコミュニケーションが動画化していくなか、動画のなかでの文字の扱い、タイポグラフィーも今後、新しく開発していく必要があります。新聞紙面は長年の蓄積によって洗練された、究極のタイポグラフィーです。そこでのノウハウを動画のなかに生かすことで、新しい情報の伝え方や、表現が生まれる可能性も大いにあると思っています。(堀氏)

塚田雅人(つかだ・まさと)

博報堂 エグゼクティブクリエイティブディレクター

入社以来、主にマス領域でのクリエイティブを専門としてきた。近年のデジタル化、動画化の流れを汲み、2016年に動画統合ソリューションの最適解を目指すタスクフォース、「hakuhodo.movie」を立ち上げる。 ACC賞グランプリ、ニューヨークADC賞、広告電通賞、クリエイター・オブ・ザ・イヤーメダリスト等受賞。

堀 宏史(ほり・ひろし)

博報堂 生活総合研究所 所長代理

これまでに広告業界でリアルとデジタルを融合させた新しい広告を実現し、カンヌライオンズ、アドフェスト、ロンドン広告祭、クリオ、東京インタラクティブアドアワードグランプリなど受賞歴多数。カンヌライオンズ等で審査員を務めるとともに、ad:tech tokyo等の国際カンファレンスでスピーカーとしても活躍している。