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エンジニアリングとクリエイティビティをいかに融合させるか
──博報堂は博報堂DYグループ各社とともに、XRをビジネス領域で活用するプロジェクト「hakuhodo-XR」を立ちあげました。XRとはどういった技術で、今後どのように活用されていくのでしょうか。
尾崎:博報堂は5GやIoTなど、テクノロジーの進化に伴い、あらゆるものがインターネットを介して生活者とつながり、「生活者インターフェース市場」が拡大していると考えています。IoTによってあらゆるものがコミュニケーションの対象となり、クリエイティビティで新しいサービスやビジネスを生み出すことを目指しています。
XRは、「Extended Reality」の略で、AR(Augmented Reality:拡張現実)やMR(Mixed Reality:複合現実)、VR(Virtual Reality:仮想現実)などの先端技術の総称です。リアル空間とデジタルを融合することで、今までにない新しい体験や価値、そしてビジネスを創造するために「hakuhodo-XR」はスタートしました。2021年2月にリリースしたばかりで、具体的な取り組みはこれからです。
──コロナ禍によって、VRを活用したイベントなどが増えましたね。XRは、どんな分野で発展していきそうなのでしょうか。
尾崎:XRは、エンターテインメントの分野で活用され始めています。今後は、もっと生活シーンの中で活用していけるのではないでしょうか。一つのキーワードは「試生活(しせいかつ)」です。メークを試したり、試着をしたり、家具を購入する前に自分の部屋に配置したりするなどの「試す体験」がますます多様になってくると考えています。
中島:ARは今いる場所やオブジェクトの文脈を活かした表現、VRは体験者を全く別の空間や視点へと連れていく表現です。前者はその場の拡張、後者は没入の拡張とも言えるかもしれません。どちらも物理法則の制約などにとらわれずに表現ができるので、体験づくりの幅が広がるのは楽しみです。
尾崎:XRのコンセプトムービーは、街という空間全体をメディアととらえ、さまざまな情報やオブジェクトが空間に浮かび上がりレイヤードされる近未来の生活を描いています。少し先のように感じられるかもしれませんが、家にあった電話がポケットに入って持ち運べるようになったように、XRがもたらす空間が当たり前だと感じられたら、市場は一気に広がっていく可能性があると思います。
──あらゆるものがインターネットにつながり、それらをメディアとしてとらえるようになると、建築の設計やプロダクトデザインも変わりそうですね。
尾崎:VRやARに携わるメンバーからは、デジタル上のオブジェクトが存在する前提で建築を設計してもらえたら……という声は実際にあります。また、インターフェースのある冷蔵庫のデザインを考えるとき、そこでどんなコンテンツやサービスを生活者に提供していくかによって、デザインや設計は違ってくるはずです。そのため、プロダクトにおけるコミュケーションの役割がますます大きくなっていくと思います。そういった体験を統合的にどうつくるか。それは、我々やエンジニアにとってチャレンジしがいのあるテーマです。
中島:エンジニアの方々と協業している仕事があるのですが、生まれた技術をどんな体験に育てるかという段階からご一緒することで、プロダクトや建築にも参画できる、そんな可能性を感じています。
──今後は、クリエーターとエンジニアとの交流も重要になりそうですね。
尾崎:今は外部のエンジニアの方々と協業しています。理想は常に相談できるメンバーが身近にいることなので、エンジニアと社内チームを組めればいいなと思います。今後必要なのは、新たなインターフェースでどんな、ときめく体験を提供するか。そして、体験してもらった後、どう愛し続けてもらうか。その両輪です。新しい技術の可能性を知った上で体験のアイデアを考えると、今までにない価値が生まれます。可能性は伸びしろだらけですね。デジタルトランスフォーメーションを実践していくためにも、広いスコープで事業やマーケティングと直結させることができるクリエイティブディレクターの存在も欠かせないと思います。統合プラニング局には、尾崎チームのメンバーをはじめ、さまざまな部門で経験を積み上げてきた人たちが多く所属しています。きっと色々なアイデアを駆使しながら、未だない素敵な体験価値を生み出せるのではないかと思っています。
博報堂 統合プラニング局 クリエイティブディレクター
多様なクリエイティブ領域の経験を生かして、新しい体験価値の創造を実践している。統合エクスペリエンスチームリーダー/hakuhodo-XR リーダー/行動デザイン研究所員。
10年来の新幹線通勤生活から、現在、リモート通勤生活に。伊豆好きの4児の父。
博報堂 統合プラニング局 エクスペリエンスプラナー
平成5年生まれ。早稲田大学卒業後、2016年博報堂入社。プランナーとして配属。アクティベーション領域を軸足にマス、サービス、プロダクトまで手法を問わず企画し、生活者が参加できるブランドストーリーと体験づくりを目指す。