挑発的なコピーで受験生の覚悟を問う。新学部設立を告知する新聞広告が話題に

 「世界水準で学び抜く覚悟はあるか。」――そんな挑発的なコピーに、文字だけの全15段の新聞広告が2020年11月7日付と2021年5月22日付の朝日新聞朝刊に掲載され話題を呼んだ武蔵大学。その大胆でクリエーティブな表現は、同大学が2022年4月の誕生に向けて準備を進めてきた新学部、国際教養学部に込めた思いの表れともいえる。そんな同大学のグローバル教育の取り組みや、新聞広告の狙い、反響について副学長の踊共二氏と広報室長の齋藤英樹氏に話を聞いた。

6割が外国人教員、授業は英語、ロンドン大学の学位取得も可能

 武蔵大学は1922年に実業家の根津嘉一郎が創設した7年制の旧制武蔵高等学校をルーツとする。同じ敷地内にある高校・中学を含めた武蔵学園として、来年創立100周年を迎える。大学は3学部からなり、アットホームな雰囲気と、少人数制のゼミ、実践的な語学教育に定評がある。2022年に4学部になっても大学のあり方は変わらない。

踊共二氏踊共二氏

 「旧制7年制高校の伝統を受け継ぐ本校には、教員と学生が少人数で膝をつきあわせて議論し、学びを深める少人数ゼミの伝統があります。そのうえでリベラルアーツを土台にしたグローバル教育に力を入れてきました。以前から英語で行う授業を充実させてきましたが、来年度は全2,500科目のうち250ほどの授業を英語で行います。世界14カ国・地域の34の大学と協定を結び、留学や多彩な国際交流プログラムを用意しています。今後は海外の大学との連携をさらに強め、研究の国際化も進めていきます」と踊副学長は同校のグローバル教育について語る。
 2022年4月に4つ目の学部として誕生する国際教養学部は、そんな武蔵大学が広告のキャッチコピー通り、「世界水準の学びの場」として設置するものだ。経済経営学専攻とグローバルスタディーズ専攻の2つからなり、どちらもほとんどの授業が英語で行われるという。
 「国際教養学部は教員の6割、グローバルスタディーズ専攻に限れば教員の8割が海外出身者です。経済経営学専攻では、武蔵大学に通いながら留学せずにロンドン大学と同じ内容の授業を受け、ロンドン大学の経済経営学士号を取得することもできます。学部や専攻の枠を超えて履修できる共通科目が多く、どちらの専攻に進んでも興味に応じた学問分野を幅広く学ぶことができます」(踊氏)

見た人の印象に強く残り、新学部に込めた教員の思いがしっかり伝わる広告に

 国際教養学部では専任教員による専攻科目の授業担当比率が84.1%。これは他大学と比べても非常に高い数字である。専門科目が9月から本格的に始まる経済経営学専攻では今後、9月入学の導入も視野に入れている。そんな世界水準の教育を提供すべく、武蔵大学が総力をあげて進めてきた新学部の告知にあたり、新聞広告を選んだ理由をうかがった。
 「当校は規模の小さな大学なので、15段の新聞広告を出す機会はそうあるわけではありません。ただ今回は武蔵大学としての新学部への意気込みを示すうえでも、思い切って新聞広告の掲載を決断しました。とくに朝日新聞は伝統的に教育関係に強いので、新しい学部の信用力、ブランド力をつけるうえでも有効だと考えました」と齋藤氏は語る。

2020年11月7日付 朝刊 911KB

2021年5月22日付 朝刊 232KB

 「世界水準で学び抜く覚悟はあるか。」というコピー、文字だけの思い切ったクリエーティブには、まさにそんな同校の新学部への思いや覚悟が体現されているわけだ。
 「私どものような規模の大学では、広告にかけられる費用に限りがあります。何万人と学生さんがいる大学と同じようなことをしても目立ちません。まずは見た人の心に強く残るインパクトが必要だと考えました。そのうえで、私どもの思いを受験生や親御さんにきちんと伝えたい。そこでデザイナーとも検討し、このような紙面になりました。コピーには“中途半端な気持ちではなく、本気で我々の国際教養学部で学びたいと思ってくれている学生に来てほしい”という思いを込めました」(齋藤氏)
 「この新聞広告に対しては当初、教員の間にも賛否両論がありました。でも『せっかくの機会なので、ありきたりではないものをつくろう』『自分たちの熱意、強い意志が伝わるものにしよう』との意見が多く、最終的にこの案に決まりました。議論を通してあらためて、新学部に込めた教員たちの思いを再確認できました」(踊氏)

新聞の良さは知的関心が高い層に確実にメッセージを届けられること

齋藤英樹氏齋藤英樹氏

 広告掲載後、教員や職員からは「思い切った広告で良かった」などと好意的な声が多く、マイナス意見はほとんどなかった。在学生たちも自分が通う大学のチャレンジングな広告を歓迎し、新聞紙面を写真に撮ってSNSに投稿する人も多かったという。
 「進学相談会に来た高校生から『新聞広告を見て興味をもち、もっと詳しく知りたくなって来ました』との声もいただきました。今回、新聞広告を出した理由としては、企業の方に国際教養学部のことを知ってもらいたかったということもあります。受験生の親御さんやOBなど幅広い層に告知することもできました。新聞メディアの良さは、活字を読むことが習慣になっている知的関心の高い層に、確実にメッセージを届けられること。自分が関心のない分野のこともニュースと同じような感覚で読んでもらえる点は、大きなメリットだと改めて思っています」(齋藤氏)
 今回の新聞広告の内容は「新学部誕生」の告知に留め、具体的な情報はあえて一切載せず、その代わりQRコードから、学部のカリキュラムなどをより詳しく知りたい人はWEBへ誘導することにした。
 最後に来年、100周年となる武蔵学園の一員としての今後の抱負をうかがった。
 「100周年は旧制7年制高校時代から大切にしてきた私どもの建学の理念を再確認し、未来に向けて新たなスタートを切る大きな契機です。今後も高校や中学との連携をさらに強め、自ら調べ、考え、行動する力をもち、世界のさまざまな分野で活躍できる人材を育てていきたいと考えています」(踊氏)