終戦記念日を控えた7月29日(金)、朝日新聞朝刊全国版に『ペリリュー ―外伝―』第1巻発売を告知する全15段広告が掲載されました。コミックスの印象的なコマが並び、「もし彼らが、今の時代に生まれていたら。」から始まるメッセージ。インパクトの強い紙面は、作品の存在を印象づけるとともに、改めて戦争について考えるきっかけを読者の心に届けました。掲載の経緯や意図、そして掲載後の反響について、白泉社 宣伝部 宣伝課の城間亜龍氏に伺いました。
異例のヒット作となった戦争漫画『ペリリュー ―楽園のゲルニカ―』
『ペリリュー ―楽園のゲルニカ―』は、2016年から2021年まで「ヤングアニマル」で連載された武田一義氏による漫画。太平洋戦争末期に戦場となった南太平洋の小さな島・ペリリュー島を舞台に、漫画家志望の田丸一等兵の視点から日米の地上戦を描いた作品だ。三頭身のかわいらしいキャラクターにするなど、「読みやすいように」という武田氏の工夫が実り、単行本が累計約110万部、またアニメ化決定と、戦争漫画としては異例のヒット作となっている。まずは同作品の宣伝を担当する城間氏に、本作の魅力について伺った。
「いわゆる戦争漫画と言われるジャンルでは、反戦や思想的なメッセージを主軸にすることが多いのですが、『ペリリュー ―楽園のゲルニカ―』はそのようなメッセージ性はあまり強くなく、どちらかというと“戦争を知ってもらうきっかけになれば”というスタンスの作品だと思っています。戦争の悲惨さはもちろん描かれますが、一方で主人公たちが若者らしく楽しむ姿も描かれ、その淡々とした語り口が魅力のひとつではないでしょうか。ただ個人的にはもっと純粋に“漫画としてのおもしろさ”が一番の魅力だと感じています。エンタメ性が高く、続きがどんどん読みたくなる漫画です」
『ペリリュー ―外伝―』は、本編『ペリリュー ―楽園のゲルニカ―」では拾いきれなかったエピソードを様々な角度から描いたスピンオフ作品。今回の企画は第1巻の発売を告知するものだが、新聞の全15段広告はこれまでにない大きな企画だったと城間氏は話す。
「毎年7月末あたり、世の中の戦争への関心が高まる時期に何らかの広告は展開していたのですが、今年は外伝の第1巻発売という節目になる年ですし、全15段広告の大きな企画にチャレンジしてもいいのではないかと考えました。社内会議でも『ペリリュー』は、大きな企画に適う価値のある作品だという話になり、出稿に踏み切ることになりました」
なぜ新聞、そして朝日新聞を活用したのか。この理由について城間氏は次のように続ける。
「『ペリリュー ―楽園のゲルニカ―』は連載当初から、新聞をはじめとするメディアを通じて広がっていった作品。作者の武田先生は折にふれて新聞のインタビューに応じていましたし、作品との親和性が非常に高い媒体だと感じたため新聞を選びました。また、朝日新聞は、教育関係者から支持される媒体だと感じています。この作品は小学校高学年くらいから十分に読むことができる作品ですし、朝日新聞への出稿をきっかけに、読者の年齢層が広がることを期待しました」
戦争漫画であることが一目で分かる紙面に
7月29日(金)、朝日新聞朝刊全国版に『ペリリュー ―外伝―』第1巻発売を告知する全15段広告が掲載された。漫画のコマと「もし彼らが、今の時代に生まれていたら。」と、読者に想像を促すキャッチコピーが目立つ。
「もっとも重要視したのが、『ペリリュー ―外伝―』という作品をまずは知ってもらいたい、という点です。だからこそ漫画であることが一目で分かるようにコマを並べました。同時に戦争漫画であることも伝えたかったので、戦闘機や銃を構える描写が入ったコマを選択。そこに、雨に打たれて喜んでいるシーンや花札に興じる描写などの日常的なシーンを並べることで、ごく普通の若者たちが戦争に巻き込まれたのだ、という残酷な事実を表現し、その下に続く“もし彼らが、今の時代に生まれていたら。”という言葉を際立たせたいという狙いがありました。キャッチコピーもいくつか案がありましたが、個人的には非常に素晴らしいコピーに仕上がったと思っています。思想的なメッセージを含ませすぎず、あくまで戦争を知るきっかけにしてほしいという作品のコンセプトともうまく合っていたと思います。武田先生にも掲載前にご確認いただいたのですが、“涙が出そうになりました”とおっしゃっていただけたと、編集部から聞きました」
紙面を見た人からは、漫画と下部の文章に思わず見入ってしまった、との感想が寄せられた。そして、「もし彼らが、今の時代に生まれていたら。」「違うのは、生まれた時代だけ。」というキャッチコピーに応えるように、自分ごととして考えさせられた、メッセージが胸に刺さったという声も多くあった。紙面に掲載されているQRコードから早速試し読みをしたという人もいた。
7月31日(日)には朝日新聞1面の「コミックサンヨツ」でも『ペリリュー ―外伝―』の広告を掲載した。全15段というインパクトのある新聞広告の掲載後ということもあり、こちらも多くの人の目にとまったようだ。 8月15日(月)は終戦記念日。終戦から77年経ったものの、ロシアによるウクライナ侵攻の行方は見通せないまま。この瞬間も、「戦争とは」と考えている人はきっと多いことだろう。だからこそ城間氏は「今、手に取ってほしい」と繰り返す。 「大人から子どもまで年代を問わずに楽しめる作品なので、大人の方はご自身が読み終わったら、お子様やお孫様にも薦めていただければと思います。ただ『ペリリュー ―外伝―』は『ペリリュー ―楽園のゲルニカ―』のスピンオフ作品。本編である『ペリリュー ―楽園のゲルニカ―』から読むといっそう作品の世界に入り込めるので、未読の方はぜひ本編から手に取っていただきたいです」