ドメイン「.jp」を支える日本レジストリサービス 恒例の新聞広告 反響を集めグッズ化も
インターネットのドメイン「.jp」の登録管理を行う日本レジストリサービス(JPRS)は、2025年9月22日の 朝日新聞に新聞広告を掲載した。世界遺産をテーマにしたクイズ形式の広告で、紙面をめくりながら答え合わせができるしかけとなっている。同社・広報宣伝室 室長の横井裕一氏と同・クリエイティブG の内川純花氏に、新聞広告を掲載した背景や狙い、効果について聞いた。
学び×ブランド認知 今年は動きのあるしかけ
ドメインには日本の「.jp」をはじめ、世界中の国や地域に割り当てられた「国別トップレベルドメイン(ccTLD)」があり、その数は250以上にものぼる。JPRSのように、TLDの登録管理を行う組織はレジストリと呼ばれ、TLDごとに一組織ずつ、世界各地に存在している。
「インターネット上の住所」にあたるドメインは、ウェブサイトにアクセスしたりメールを送受信したりするときに欠かせない、現代の生活を支える重要なインフラの一つ。しかし、一般の生活者にとってはあまりなじみがなく、「国が管理しているのでは」と誤解されることも少なくないという。
こうした背景から、ccTLDの存在や役割、そして自社の認知向上を目的に、JPRSは2019年から朝日新聞で「世界ドメイン紀行」と題したシリーズ広告を継続して展開している。
「世界ドメイン紀行」の魅力は、世界地図や世界遺産といった親しみやすいテーマを通じて、世界のccTLDやインターネットについて伝えている点にある。世界のccTLDを、その国や地域の名前、特徴とともに地図上で一覧にしたり、遊びながら学べるすごろく形式にしたりするなど、毎回、趣向を凝らした内容となっている。
今年は「世界遺産」をテーマにしたクイズ形式で、15段広告を2ページにわたって展開した。カラフルなとびらをモチーフにした、動きのあるデザインが特徴だ。問題は全40問。最初の15段広告では、閉じたとびらの上にccTLDと世界遺産に関する問題が掲載されており、次のページには開いたとびらと答えが示される構成だ。
たとえば、「.pe」の問題は「インカ帝国の遺跡が残る謎の空中都市」。答えはペルーの「マチュ・ピチュ」で、開いたとびらの中に「アンデス山脈に築かれたインカ帝国の都市遺跡。石造りの建造物や美しい景観で知られる世界屈指の観光地」という説明が添えられている。問題と答えを分けて掲載することで、新聞をめくりながら答え合わせができる、立体的なしかけとなっている。
カラフルな紙面で情報量と読みやすさを両立
クリエーティブについて内川氏は次のように話す。
「『世界ドメイン紀行』はこれまでも一貫して、カラフルで見栄えのするデザインを採用しています。特に重視しているのは、しっかり情報を掲載しつつ、読みやすいことです。今回は、ccTLDが割り当てられている250以上の国や地域の中から世界遺産を厳選し、文化遺産、自然遺産、複合遺産の3つに分類しました。さらに、国や地域がある大陸と世界遺産という2つの軸で色分けし、情報を整理しています。とびらの形やccTLDを記した看板の色、とびらの窓から見える写真がヒントとなるように、朝日新聞社のクリエーティブチームと相談を重ねて仕上げました」
広告には、世界地図も掲載されている。学びのヒントとして機能するように、世界遺産のおよその位置にccTLD入りのピンが配置されている。地図はグレーベージュを基調にシンプルなデザインとし、情報が多すぎて煩雑な印象にならないように工夫したという。
「世界ドメイン紀行」のシリーズ広告は、朝日新聞社からの企画提案をきっかけに始まったという。その背景について、横井氏は次のように話す。
「インターネットの基盤を支えるドメイン名やドメインネームシステム(DNS)、そしてccTLDについて知っていただくために、どのような切り口で伝えるべきか考えていました。なぜなら、ドメイン名についてストレートに説明しても、なかなか興味を持ってもらえないと思っていたからです。そんな中、朝日新聞社の方から世界の国や地域をテーマにドメイン名を紹介する“学びのあるコンテンツ”というアイデアをご提案いただきました」
普段あまり意識されることのないドメイン名について理解を深めてもらうことが、ひいてはJPRSの認知を高めることにもつながるという考えだ。
広告は ポスターや下敷きに 教育機関や採用活動の場へ
広告媒体としての新聞の価値については、読者層との相性と紙媒体ならではの利点を挙げる。
「新聞広告の魅力は、紙面のサイズが大きく、多くの情報を掲載できることです。じっくり読んでもらいたい広告には、適していると思います。また、新聞は必要なところだけ抜き取って保存できるので、後から読み返してもらえる可能性も高いと考えています。特にドメインと世界をテーマにした学びのある新聞広告は、知識欲の高い新聞読者に合っている内容です。中でも朝日新聞は教育分野に強みがあり、教材として活用しやすいという点を意識したご提案をいただきましたので、広告をポスターにして教育機関に配布するという取り組みにも活用させていただきました」(横井氏)
制作したポスターは、全国の中学校や高校、高等専門学校などの教育機関を対象に無償で提供している。ポスターは、生徒に直接配布されたり、校内で掲示されたり、授業の教材として活用されたりしているという。
「教育機関に向けた取り組みは、最初に新聞広告を掲載した2019年から継続して実施しており、これまで550超の教育機関に、累計約3万枚配布しました。2024年に実施したアンケートでは、インターネット関連教育に『役立った』とする回答が87%に達し、高い評価を得ています」(横井氏)
JPRSでは、広報宣伝室以外の部署でも二次利用での制作物を積極的に活用しているという。内川氏は「ポスターのビジュアルを用いて制作した下敷きを、人事部が学生向けのイベントで配布した実績があります」と話す。
若年層や海外に向けた取り組みも視野に
広告掲載後の読者調査(J-MONITOR)では、シリーズを通して広告の認知率が高く、内容に対しても好感度の高い結果が出ているという。今回も、自由回答には「子どもも興味を持ちそう」「クイズ形式で面白い」「老若男女が楽しめる良い広告」「保存してゆっくりクイズに取り組みたい」といった声が寄せられた。
「調査でも『役に立つ』という項目で全体平均だけでなく情報通信業界の平均よりも高い数値が出ていました。過去に『今年も世界ドメイン紀行が掲載されていた』というコメントもあり、読者の中には“毎年の恒例企画”として定着しつつあることがわかりました。インターネットの基盤に関わる内容ですが、知らなくても生活が成り立つ領域に価値を感じて取っていただけるのは、とてもありがたいことです。記憶に強く残るクリエーティブの力が、奏功しているのだと思います」(横井氏)
今後さらに、若者や海外を意識した取り組みも検討していきたいという。「 特に若者向けの取り組みは、考えていきたいテーマの一つです。より良いインターネット社会のためにも、自社の訴求だけでなく、インターネットそのものに興味を持ってもらえるような発信もしていけたらと思っています。先日、ヨーロッパで開催された世界のレジストリが集まる会合でこの新聞広告を紹介したところ、『英語版も作って欲しい!』という声もありました。今後、海外組織との連携や英語版の展開なども検討できたらいいなと思っています」(内川氏)


