『薫る花は凛と咲く』47都道府県別新聞広告でファンとつながる コミックス初速も好調
大ヒット漫画『薫る花は凛と咲く』のコミックス第20巻の発売に合わせ、講談社は2025年10月9日、47都道府県別の全15段広告を朝日新聞朝刊に掲載した。都道府県の花と花言葉、そして原作の一場面を組み合わせ、配布する地域ごとに異なるデザインで展開。SNSでも話題となり、新刊だけでなく既刊も含めた売り上げ向上にも寄与した。講談社 出版営業本部コミック営業部の田幸志朗氏と週刊少年マガジン編集部の平岡雄大氏、同・橋本健人氏に、新聞広告でプロモーションを展開した背景や狙いについて聞いた。
アニメ化前から企画した全国一斉プロモーション
漫画『薫る花は凛と咲く』は、三香見サカ氏による青春学園ラブストーリー。2021年10月21日から講談社の漫画アプリ「マガポケ」で連載中の人気作だ。特に若年層からの支持が厚く、コミックスの累計発行部数は1000万部を突破(2025年12月8日)。アニメ化もされ、2025年7月から9月にかけて放送された。そんな話題作のプロモーションの企画は、実はアニメ化が正式に決まるよりも前から動き始めていたという。
プロモーションには、二つの目的があった。一つは、既存ファンとのつながりをさらに深めること。もう一つは、まだ作品を知らない層に『薫る花は凛と咲く』を認知してもらうことだ。
「アニメ化によって『薫る花は凛と咲く』というタイトルが広まる段階だからこそ、認知をより強固なものにできると考えました」(平岡氏)
まず、テレビアニメの放映に合わせて、8月から3カ月連続で新刊のコミックスを発行。その販促として書店でコミックスの購入者に香り付きのしおりを配布したり、東京と大阪の主要駅でポスターを掲示したりと、多角的なプロモーションを同時進行させていた。そのクライマックスとなる施策が、コミックス20巻の発売に合わせた新聞広告の掲載だった。
「コミックスの売り上げの向上を最大化することは、私たちにとって重要なミッションの一つ。そこで、20巻の新刊はアニメ放送終了後の発売でもあり、できるだけアニメ化による盛り上がりを持続させるために全国的なプロモーションを検討し、その方法として新聞広告を選びました」(田幸氏)
同社はこれまでも、週刊少年マガジンの大ヒット漫画『東京卍リベンジャーズ』や『ブルーロック』のプロモーションで、47都道府県別の新聞広告を朝日新聞で展開し、それぞれ大きな話題を生み出してきた。
「その成功体験があるので、『薫る花は凛と咲く』でも、47種類を刷り分ける新聞広告で、全国一斉の話題化を図ろうと考えました」(平岡氏)
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読者層の“ずれ”を価値と捉える
『薫る花は凛と咲く』のファン層は若年層が中心だが、広告媒体としてなぜ新聞を選んだのか。田幸氏は「読者層が違うからこそ面白い」と話す。ポイントは、読者層の“ずれ”をどう捉えるか。若年層に支持されている漫画の広告が新聞に掲載される――その意外性こそが、話題化を後押しするエネルギーになるという考えだ。
「たとえば、アニメが流行ったからといって秋葉原駅で交通広告を打つのは、ごく自然な展開です。しかし、政治や経済のニュースを中心に扱う新聞に、若年層に人気のポップカルチャーが登場するのは、いい意味で違和感があります。
だからこそ、ファンは『今日の新聞、見て!』とSNSに投稿したくなり、それが拡散されて、別のファンが新聞を買いに走る。そうした一連の動きも、現代の広告体験の一つだと思います」(田幸氏)
新聞広告がSNSで拡散されるメリットについては、「タイトルは知っているけど、まだ漫画は読んだことがない人たちに『本当に流行っているんだな』『社会現象になってきているのかも』と気付いてもらえるはず。それに加え、新たな読者層にも認知される機会にもなるのだと考えています」(平岡氏)
🌸日本全国、薫る花前線到来中!🌸
— 薫る花は凛と咲く【公式】 (@kaoruhana_mp) October 8, 2025
#薫る花は凛と咲く 20巻の発売と
アニメの大好評を記念して、
本日10月9日の朝日新聞朝刊にて
「薫る花は凛と咲く」47都道府県スペシャル広告を
掲載中!
あなたの県にはどんな薫る花が届きましたか?
公式特設サイトで47種類のイラストも
ぜひご覧ください。… pic.twitter.com/HVVF67vZai
調べて拡散したくなる47種類のビジュアル
今回の広告の核心は、ファンに共感されるクリエーティブにある。タイトルにちなんで、47都道府県の「花」と「花言葉」をテーマに、47種類の広告を制作した。
「新聞を配布する都道府県の花と花言葉にあわせて、キャラクターのシーンと作中での印象的なセリフを厳選しました」(平岡氏)
主人公の紬凛太郎と和栗薫子をはじめ、主要キャラクターが1人ずつ描かれたビジュアルだが、和栗薫子だけで47パターン制作する案もあったという。
「検討をすすめる中で、47都道府県に主要キャラクターを振り分けるほうが、ファンはより盛り上がれると考えました。たとえば、自分が暮らしている県のキャラクターはもちろん、他県や故郷のキャラクターのことも気になって自然と調べてみたくもなるはず。そうした能動的な関心が、広告を“自分ごと”として受け止めてもらえると判断しました」(橋本氏)
花のイラストはイラストレーターが担当。キャラクターとの相性を確かめながら複数のタッチで試作し、配置については、額縁風のさまざまなバリエーションで検討したという。
デザイン上の大きな特徴は、漫画独自の線画によるモノクロのキャラクターと、カラーで描いた花のイラストを組み合わせていることだ。コントラストがアクセントとなり、より目を引く印象的なデザインとなっている。
ただ、課題もあった。漫画のシーンをそのまま使用することで、構図上どうしても絵が切れてしまう部分があったことだ。そこで漫画家の三香見サカ氏自ら一部を加筆した。加筆によって、ビジュアルの希少性とオリジナリティをより一層高めることができたという。
「新聞の大きな紙面いっぱいに描かれたキャラクターの表情や服、髪の毛などのディテールを手元でじっくり見ることができる。その経験自体がとても貴重なことで、ファンの方々に喜んでもらえると考えました」(平岡氏)
新刊の初速は好調、ファンの発信が後押しに
実際、新聞広告が掲載されると、SNSではファン同士で情報共有したり交換したりするなどコミュニケーションが生まれていたという。
「自分の好きなキャラクターが新聞に載ったことを喜び、誇らしげにSNSに上げてくれるファンもいれば、ポスターのようにフレームに入れて飾った写真を共有するファンもいました」(平岡氏)
新聞広告特有の「その日にしか手に入らない」という限定感と地域性の組み合わせは、ファンのコレクション欲をより一層高める後押しにもなった。既存のファンに「発信したくなる話題」を提供することで、SNS上での発信を最大化できたとも言えるだろう。
特設サイトも設け、そこでは47都道府県すべての新聞広告のビジュアルと、アニメキャストの井上ほの花氏と中山祥徳氏を起用した特別ムービーを公開した。
新聞広告内で、コミックスに関する情報は最小限にとどめていたが、話題化が奏功し、新聞広告掲載直後からコミックスのPOS(販売時点情報管理)情報は伸長した。「新刊の初速は非常に良かった」と田幸氏。
メディアのニュースや漫画専門サイト、社内広報などにも掲載されるなど、話題は多方面に広がり、朝日新聞社や新聞販売店への問い合わせも相次いだ。
最後に「今後、新聞広告でやってみたいこと」について聞くと、田幸氏は「新聞には、まだまだ“遊べる余白”があるように感じています。小型広告や朝日新聞の題字、新聞社同士の連携など、作品やファンの状況に合わせて、これまでの常識にとらわれない新しい使い方を模索できたら」と話す。