生活者視点でブランドの価値を伝えるために 味の素㈱がヨシタケシンスケさんと新聞社と生み出した体験型新聞広告
「うちゅうニュース ちきゅうのやさいもんだい」は、絵本作家・イラストレーターのヨシタケシンスケさんがオリジナルストーリーを描き下ろした「読んで・作って・育てる」体験型新聞広告だ。
ヨシタケシンスケさんと味の素㈱、朝日新聞社の協働で生み出されたクリエイティブは、どのような課題から出発し、どのような想いで制作されたのか。同社食品事業本部・マーケティングデザインセンター・コミュニケーションデザイン部・クリエイティブグループ照喜名省吾氏、同部・コミュニケーション戦略グループ・山本桃子氏に伺った。
企業の「らしさ」や価値を生活者視点でつくり出す
「うちゅうニュース」は2025年8月20日の朝日新聞朝刊に3ページにわたって掲載。「野菜を食べて欲しい」おとなと「野菜嫌い」なこどもの間での「やさいもんだい」を、宇宙人の視点で描いたユーモラスなストーリーと、野菜と仲良くなれるかもしれないアクションとして、新聞を折って組み立てる「苗ポット」が掲載された。「苗ポット」は同日公開の特設サイトからもダウンロードでき、併せてオリジナル描き下ろしパンフレットと味の素㈱商品がもらえるSNS キャンペーンも実施するなど、多角的なコミュニケーションを展開した。
ーーはじめにコミュニケーションデザイン部の役割や大切にされている考えを教えてください。
照喜名 コミュニケーション全般のクリエイティブや戦略をつくる部署なのですが、「生活者視点に立ってブランドの価値を伝えていくこと、作り出していくこと」が一番の目的、役割です。
山本 Paid(ペイドメディア)、Earned(アーンドメディア)、Shared(シェアードメディア)とOwned(オウンドメディア)それぞれの役割に沿って分担をしながら、横串で太いコミュニケーションをみんなで共同して作っていく部署と言えるでしょうか。各領域の担当がお互いの専門性を尊重し合いながら、それらをどう有機的に掛け合わせて、チームとしての最大出力を出していけるか。そういった視点を大切にしています。
照喜名 主軸は「Cook Do🄬」や「クノール🄬」といった商品ブランドの仕事ですが、ここ2、3年、コーポレートのコミュニケーションの仕事の割合が増えてきているように感じます。
山本 企業広報がコーポレートメッセージを直接的に発信する役割だとすれば、私たちは商品を起点として、より生活者の皆さんの実感に近いところからアプローチしていく役割だと言えるかもしれません。そうした活動を通じて親しみや信頼を積み重ねていくこともまた、当社の価値を高めるための重要な要素だと思っています。
ーーそうした中で、今回の「うちゅうニュース」を検討するに至った背景や課題を改めて教えてください。
照喜名 各商品ブランドでコミュニケーションを行う中で、お客様の中で「(企業としての)味の素がどんなイメージで受けとめられているか分かりにくくなっているのではないか」という課題意識がありました。各ブランドのイメージの集合体が味の素㈱である一方で、味の素㈱がどういう会社なのか、みたいなところも発信していかないと、好きになってもらえない。「味の素㈱っていい会社だよね」と「このブランド好きだよね」が繋がっていると思っています。
山本 生活者の中での“味の素㈱らしさ”や、感じていただける価値をより明確にして、「味の素㈱ってなんか良い会社だよね」と感じていただきたいというのが念頭にあります。商品ブランドや事業、そして企業名そのものへの「好き」が相互に貢献し合う循環を生み出していく。そんな関係性を目指していると言えるかもしれません。味の素㈱が持っている価値、それこそ食品事業以外にも多々あるのですが、それらをどうユニークに生活者のみなさんにコミュニケーションを通じて伝えていけるだろうか、と考えました。
世の中の社会課題に対して、味の素㈱だからできること
ヨシタケシンスケさんが描いたストーリー
ーー今回の取り組みでは、企画のかなり早い段階から朝日新聞社も参加しました。
山本 普段から、掲載枠のご紹介だけでなく、新聞のクリエイティブ事例や朝日新聞社さんのケイパビリティを紹介していただいていたのがきっかけでした。もう少し新聞社ならではの部分を知ることができないか、と企画提案へのお声がけをしたところ、たくさんのご提案いただき驚いたことを覚えています(笑)。
照喜名 「世の中の社会課題に対して、味の素㈱が持つリソースや価値を活用して、”味の素㈱だからできること”を考えたい」というお題からいろいろ考えていただきました。なかでも、今回の施策のもとになった「自産自消」というコアアイデアが面白く、弊社らしいと思いました。新聞をクラフトして体験してもらえるというアイデアもユニークでしたね。「”再生紙や大豆インクを使っていて、土に還る”という新聞紙自体の元々の特徴が、苗ポットにすごく適している」という結びつきが自然でいいなと感じ、「これはいいよね」という形で企画の大枠はすんなり決まりました。一方で、「苗ポットを作ってもらう」という点はどれだけの人にやってもらえるか難しいな、と思っていました。
ーー新聞社が展覧会を主催しているという関係値もあり、ヨシタケシンスケさんに参加いただくことになりました。生まれたストーリーはいかがでしたでしょうか。
照喜名 ヨシタケシンスケさんと一緒にお仕事させていただけたことが一番大きいと思っています。ヨシタケさんのユーモラスな絵の雰囲気は出版されている絵本の反響を見てもわかるように、子どもたちからその親世代まで受け入れてもらえます。各作品には「ものごとはこんな風に考えることもできる」という発見や問いかけがありますし、なにより「子どもたちの視点」がふんだんに盛り込まれています。大人である私が読むと「子どもの時の気持ち」を思い出させてくれます。ヨシタケさんという影響力のある絵本作家さんとご一緒できたことが、前述のコアアイデアを広げていく力になりました。
山本 「野菜をちゃんと食べましょう」「野菜嫌いは良くないよ」「こういうものを作ってやると環境にもいいからやってみよう」等の教科書的な内容は、ともすると堅い表現だったり、押し付けがましい伝え方になってしまいがちです。そこを突破してくれたのがヨシタケシンスケさんだと思います。こういう形で、絵本作家さんが読み物として完成させてくださったというのがすごく大きく、積極的に読みにいきたくなるクリエイティブであることが、企画主旨との親和性があったのだと思います。生活者の皆さんへもヨシタケさんをきっかけに、同心円状に広がっていったように思います。
照喜名 初めてストーリーを見たとき、「地球じゃないんだ!?」と想像を超えていました。「苗ポットを使いたい」「子どもの野菜嫌いにアプローチしたい」という希望はお示ししつつ、ストーリーにしろタイトルにしろ、基本的にはヨシタケさんの発想で作っていただいた方が面白いものができるなと信じていました。そこをヨシタケさんが「子どもと野菜が仲良くなれるかもしれない企画」に昇華してくださいました。地球にいる人だと無理を言う人、無理して食べなきゃいけない人と、誰かが悪者になってしまう。第三者の「宇宙人」なら押し付けない、というのがヨシタケさんらしいなと思いました。
※ヨシタケシンスケさんから企画へ寄せられたコメント
子どもの頃、苦手な食材を食べるように言われることが本当にイヤでした。大人側の言い分はあちこちで発表されているのに、子どもの意見は黙殺されていることにモヤモヤしていました。今回、絵本作家という立場を利用して、子ども側の意見の一部を発表することができて、満足です。「好き嫌いをせず、野菜を食べましょう」などの「正論」を描かないことを許諾してくださった味の素株式会社さまに、感謝申し上げます。
山本 苗ポットの写真を投稿するSNSキャンペーンも同時進行で行いました。子どもと野菜が仲良くしている様子の写真をいっぱい投稿いただいて、まさにヨシタケさんが描いてくださったような「野菜と仲良くなる」様子を実際に見ることができましたし、本企画を通じて親子の会話が生まれたところは、企画の狙いとも一貫していて、とても良い取り組みだったなと思っています。
社会課題をクリエイティブに翻訳する力、企業との接地点を探せる力が新聞社の強み
ーー掲載のタイミングは夏休みとなりました。反響について教えてください。
山本 8月31日の「やさいの日」を前にした掲載でしたが、味の素㈱でも「ラブベジ®」という野菜をおいしくたくさん食べるための取り組みを推進しています。そことの親和性という意味でもいいだろうなと思いましたし、日付メディアである新聞社からも子どもの夏休みに宿題として取り組んでくれそうな時期として提案いただきました。SNSキャンペーンで目標としていたリーチ数、リポストの数も大きく上回る結果でした。
照喜名 「消費者の方が選ぶ」という特徴を持つ「第63回JAA広告賞 消費者が選んだ広告コンクール」でもメダリストに選んでいただけました。前段でもお話しした通り、私たちは生活者視点に立ち、生活者に共感してもらえるコミュニケーションを発信していくことが主軸なので嬉しかったです。
ーー改めて、新聞社との取り組みで感じたことや、今後の展開について期待されることなどを聞かせてください。
照喜名 私が新聞社ならではの強みだと思ったのは、社会課題と味の素㈱の接地点を探せる力です。様々な切り口のテーマと実現できるクリエイティブを考えていただける部署があること、毎日発行しているからわかる企画が光るモーメント、展覧会や出版社との関わりから生まれた作家さんとの繋がりの強さ、それらを社会的視点を持ち統合して考えられることが大きな強みなのではないでしょうか。この課題に対して、味の素㈱なら何ができるか?、というところを一緒に探していただけるのでは?と感じました。
山本 社会課題をクリエイティブに翻訳する力が高いですよね。このテーマに対して、こういう理由があるから、こういう見せ方で、この日/この曜日に出すのが一番意味があります、という点まで具体的に考えられていたのは、すごく印象に残っています。
今のメディアと生活者との接点を考えると、一つのメッセージを伝えるのに一つの媒体だけだと、どうしても伝わりにくい。私は媒体の組み合わせ方やアセットの使い方を工夫することもクリエイティビティの一種だと思っています。新聞社から「自分たちのできること、アセットをこう組み合わせると、効果をもたらす円がより大きくなりますよ」といった提案をいただきたいですし、私たちも知っていきたいと思っています。