PR動画と「ボン マルシェ」の記事体広告で田舎暮らしの魅力を訴求

 少子高齢化や人口減少のなか、日本の地方自治体の多くは観光や移住・定住をうながすキャンペーンに力を入れている。長野県伊那市では、PR動画や朝日新聞の主婦向け生活情報広告特集「ボン マルシェ」を活用し、自然あふれる暮らしの魅力をアピール。このキャンペーンを担当した総務部地域創造課の武田祐也主事に話を聞いた。

まずは伊那市のことを多くの人に知ってもらいたい

武田祐也氏 武田祐也氏

 地方の人口減少、過疎化が大きな課題となる一方、「都会を離れた自然豊かな地で子供をのびのび育てたい」と考える人も増えている。そこで今、多くの地方自治体が移住・定住者を増やすための施策に力を入れている。日本のほぼ中央、雄大なアルプスに囲まれた長野県伊那市もその一つ。平成25年度に移住定住促進プログラムを制定し、空き家バンクや移住者への補助金、新規就農支援などの制度を整えるとともに、地域の魅力を全国にアピールする取り組みも始めた。

 「移住・定住といっても、まずは何より多くの人に市のことを知っていただかなくてはなりません。そこで市の知名度や認知度、好感度をあげるために、伊那市芸術文化大使で、人物デザイナーとしてご活躍されている柘植伊佐夫さんが総合プロデュース・監督を務めるPR動画を制作しました。」

 「イーナ・ムービーズ 『なつかしい未来』」と題されたこの動画は、1年がかりで春夏秋冬、4シーズンの伊那市の自然や風物を撮影。人々の日常風景が織りまぜられた動画からは、この地で暮らす豊かさや喜びが伝わってくる。この動画をユーチューブで公開し、中京テレビのCMや首都圏のトレインチャンネルでも流した。

 「動画によるPRは初めてでしたが、おかげさまで大きな反響をいただき、ユーチューブの再生回数は23万回を超えました。東京で暮らす出身者から『伊那市がかっこよく映っていた』『懐かしかった』などの喜びの声もありました。この動画を見ることで、市内の人にも地域の良さを再確認し、より愛着や誇りを持っていただけたらと思います」

 このPR動画とあわせて、さらにより幅広い人に伊那市の魅力を知ってもらうため、発行部数の多い新聞広告を活用。一番のターゲットは子育て世代ということで、朝日新聞の主婦向け生活情報特集「ボン マルシェ」に出稿した。

 「『ボン マルシェ』は女性の暮らしや生き方をコンセプトに、観光や食、教育など役立つ記事が載っています。そのひとつのコンテンツとして読んでもらい、伊那市ってこんなにいいところなんだ、一度遊びに行ってみたい、子供をここで育ててみたい、などと思っていただければと考えました」

読者の記憶にいつまでも残る記事体広告

※画像はPDFへリンクします

2016年3月8日付 朝刊 2016年3月8日付 朝刊

 紙面上部の記事体広告部分では、実際にライターが伊那市まで行き、アクティビティーなども体験したうえで第三者の視点から紹介する形をとった。

 「青空にそびえ立つ雄大なアルプス。自然豊かな公園がたくさんあって子供がのびのびと遊べる環境。いちごやブルーベリー、そばなどの食。そんな伊那の良さが、なるべく一目でわかるよう、秘書広報課や観光課など関係部署と連携して、特に写真にはこだわりました。高遠の桜など、季節的に難しいものは市内の写真家、津野祐次さんから提供していただきました」

 また伊那市は市内4カ所に保育士常駐の子育て支援センターを整備するとともに、出産祝い金などの子育て支援が充実している。宝島社『田舎暮らしの本』のランキング「子育て世代にぴったりな田舎部門」で2年連続1位に選ばれているほどだ。そんな子育て環境にひかれて東京や大阪から移住した家族にも紙面に登場してもらい、大自然のなかでのびのびと子育てができる伊那市の魅力を語ってもらった。また、記事体広告の下の純広にあたる部分では、農家民泊や田舎暮らしモデルハウス、高遠城址のさくら祭り、アクセス情報などをビジュアル中心に簡潔にまとめた。このような新聞広告の掲載は初めての試みだというが、反響はどうだったのか。

 「朝刊が出た日に農家民泊やお試し宿泊施設、さくら祭りなどに対する問い合わせがありました。移住に関する相談も10件ありました。新聞、とくに記事体広告の良さは、このような直接的な反響だけでなく、記事として読者が主体的に読むことで、伊那市のことが深くインプットされること。記事を切り抜いて保管している人もいるように、何かのときに思い出してもらえる確率も高い。例えば、夏に家族でどこかに遊びに行こうと思ったとき、そういえば朝日新聞に伊那がいいところだと紹介されていた、なんて思い出していただけることの意義は大きいと思います」

 今は全国の市町村がウェブで積極的に情報発信をしている。伊那市も例外ではないが、ネットには膨大なコンテンツがあふれているだけに、そのなかから自分たちのコンテンツにアクセスしてもらうのは容易ではない。

 「ウェブのコンテンツは、すでに伊那のことを知っていて、自ら『伊那市』などと検索してくれないとなかなかアクセスされません。私たちはむしろ、伊那のことを知らない人に、もっと伊那のことを知っていただきたいのです。そういった意味では、不特定の多くのかたに告知できる新聞広告の役割は大きいと、今回あらためて感じました。今後も積極的に活用していきたいと思います」

 2027年にリニア中央新幹線が開通すれば、伊那市はますます便利で注目を集める場所になる。現在も農家民泊などに、国内はもとより海外からも客が訪れているというが、今後は更にインバウンドも視野にいれ、「伊那市で暮らしたい」という意識の醸成と行動への結びつきを図っていくため、動画やウェブ、新聞を連携させた戦略的なプロモーションに力を入れていくという。