マーケット拡大のカギを握る品目の充実と消費者の知識習得

 「機能性表示食品」制度の開始によって健康食品市場が盛り上がるかどうかは、いかに消費者のニーズに合った販売経路を作っていけるかにかかっている。そのカギをにぎる存在として注目されているのがドラッグストアだ。独自の社会的役割を担いつつあるドラッグストアは、機能性表示食品をどのように展開していくのか。日本チェーンドラッグストア協会事務総長の宗像 守氏に聞いた。

「機能性表示食品」制度のポイントは消費者の姿勢にある

──制度の開始から約1年半が経過し、「機能性表示食品」と記された商品を目にする機会も増えました。ドラッグストアではどのように対応しているのでしょうか。

宗像 守氏宗像 守氏

 いま店頭やメディアで目にする機能性表示食品は、制度の開始からすでに届け出が受理された商品です。2016年度は機能性表示食品の届出品目が拡大し市場が大きく伸びるという予想もありましたが、売場展開する品目数に達せずドラッグストア各社は、まだ様子見の姿勢が強いといえるでしょう。

 ドラッグストアとしてはアメリカやイギリスのように、訴求する機能性や、体のどの部位の、どんな悩みをターゲットにした商品なのかがぱっと見て分かる売り場をつくりたい。しかしそれには最低でも1千くらいまで品目が増えてほしいところ。現在、ようやく品目が560(2016年12月13日現在)を超えたあたりですから、ドラッグストアはまだじっと我慢をしている状態です。ただ消費者庁は17年の5月には800~1千の商品の審査を終えることを目標にしていると聞きました。ここからが我々の売り場づくりのスタート。魅力的な棚づくりとキャンペーンをもって、消費者に正しく、わかりやすい形で機能性表示食品を届けたいと考えています。

──マーケット拡大のカギをにぎるのは、品目数の他にどのような要素がありますか。

2016年10月30日付 朝刊2016年10月30日付 朝刊2.4MB

 「機能性表示食品」制度によってマーケットが拡大するかどうかは、消費者のあり方が最大のポイントになると考えています。16年9月に朝日新聞社メディアビジネス局が主催となって開催した「機能性表示食品フォーラム」をはじめ、消費者の方々に直接、機能性表示食品について話す機会がいくつかありました。私はこうしたフォーラムで、機能性表示食品は、医師が出す処方箋(せん)のように誰かが決めて手渡してくれるわけではなく、制度をよく知り、主体性をもって活用していく消費者側の姿勢が大事だと話します。「責任は消費者にあるのだから甘えてはいけない」と、少々厳しいことを言う場合もあるのですが、それでも多くの方が首を大きく縦に振っているのが印象的でした。

 どれだけたくさんの機能性表示食品が売り場に並ぼうとも、消費者の健康意識が高くなければ意味がありません。つまり機能性表示食品の品目の充実と、消費者のセルフメディケーションに対する知識の成熟、この両輪がそろってはじめて「機能性表示食品」制度はうまく走り出します。そして消費者の積極性をサポートしてこそ、制度におけるドラッグストアの価値が生まれると言えます。

コンシェルジュ機能の強化で、消費者が求める情報を提供

──ネット販売と比較した際、ドラッグストアなどの実店舗の強みはどこにあると考えていますか。

2015年3月26日付 朝刊2015年3月26日付 朝刊2.4MB

 「機能性表示食品」制度は、アメリカのダイエタリーサプリメントの表示制度を参考に、制度づくりが進められてきました。アメリカでは約20年前から健康食品に機能の表示を認めており、現在、アメリカで売られている健康食品はおよそ6万点以上、市場規模はサプリメントだけで4兆円を超えます。そしてこのアメリカで市場を拡大し、育ててきたのは、ドラッグストアをはじめとする実店舗だったのです。アメリカでは90年以降、すでにネット社会であったにもかかわらず、実店舗が消費者一人ひとりの健康状態を見ながら、きめ細かい対応をしてきました。もちろん普及後、ネットでも展開するという動きはありますが、あくまで最初に消費者をとらえたのは実店舗でした。

 ネットではなく、実店舗がマーケットを先導した理由は、提供するべき情報の複雑さにあります。たとえば、ひざの痛みに悩む人に、関節機能を向上させる商品を紹介する場合も、選ぶ際にはいくつか考えるべきポイントがあるのです。状況や目的に合っているかはもちろん、現在服用中の薬についても考慮しなくてはならず、さらには正しく使用するための指導も必要です。こうしたきめ細かい対応はネット上ではなかなか難しい。だからこそ、機能性表示食品のマーケットを拡大するにあたり、「人対人」で販売できるドラッグストアに注目が集まっているのでしょう。

──ドラッグストアでは今後、どのように「人対人」を実現させていくのでしょうか。具体的な施策について教えてください。

 現在、各ドラッグストアでは、機能性表示食品の担当者教育を進めています。目指すのは、成分の事典ともいえる「ナチュラルメディシン・データベース」を活用しながら、お客様と会話をしたうえで適切な商品を選べるコンシェルジュのような役割。しかもただ商品を販売するだけでなく、ドラッグストア内で解決できない場合でも、地域の病院につないだり、役所への相談を推奨したりと、あらゆる情報を提供できるコンシェルジュが目標です。このコンシェルジュ機能を数年かけて充実させることで、いずれはドラッグストアを「街の健康ハブステーション」にしていきたいと考えています。

 セルフメディケーションの社会への浸透、そして国民の健康寿命の延伸に寄与するべく、ドラッグストアはこれからも進化を続けていきます。まずは2017年の春、機能性表示食品の品目がそろった段階で各ドラッグストアがどのように売り場をつくり、キャンペーンを打つのか、皆様に注目していただければと思います。

宗像 守(むなかた・まもる)

日本チェーンドラッグストア協会事務総長

日本ヘルスケア協会事務総長。日本リテイル研究所代表取締役。日米欧の医療品流通、消費者行動などについての専門誌執筆や講演活動のほか、行政、団体、企業のセミナー講師や委員を多数務めている。