「マテリアリティ」の用語に悩まされていませんか。サステナビリティ経営が当たり前となる中で企業にとって避けて通れない言葉となりました。しかし、その概念は抽象的で、SDGsやESGとの違いも曖昧になりがちです。
この記事では、マテリアリティの基本的な意味から、なぜ今重要視されているのか、そして実際に自社で特定するための5つのステップまでを網羅的に解説します。
自社のサステナビリティをいかに広報するか
そもそもマテリアリティとは何か?
マテリアリティは 企業が取り組むべき最重要課題のこと
マテリアリティを一言で表現すると、その企業にとっての「重要課題」を指します。企業活動においては、環境問題や労働環境、ガバナンスなど、配慮すべきテーマは無数に存在します。しかし、経営資源には限りがあるため、すべてに等しく注力することは現実的ではありません。
そこで、自社のビジネスモデルや理念に照らし合わせ、特に優先順位を高くして取り組むべき課題を選定したものがマテリアリティです。
これを特定することで、経営の方向性が明確になり、ステークホルダーに対して自社が何を目指しているのかを端的に伝えることが可能になります。
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なぜ今マテリアリティの特定が求められるのか?ポイントは3つ
多くの企業がマテリアリティの特定を急ぐ背景には、明確な理由があります。それは単なる流行ではなく、企業を取り巻く環境の変化が大きく影響しています。
ここでは、特定が求められる主な理由を3つの視点で解説します。
| 視点 | 求められる理由 |
| 投資家視点 | 長期的な企業価値を見極めるための判断材料が必要だから |
| 社会視点 | 企業に対して社会課題解決への貢献を求める声が強まっているから |
| 経営視点 | 限られた資源を効果的に配分し、競争力を高める必要があるから |
投資家が企業価値を判断するため
機関投資家を中心に、ESG(環境・社会・ガバナンス)を重視した投資が主流となりつつあります。
投資家は、企業が将来にわたって持続的に利益を上げられるかを見極めるために、その企業がどのようなリスクと機会を認識しているかを知りたがっています。
マテリアリティを明確に特定し、それに基づいた戦略を開示している企業は、長期的な視点を持った経営が行われていると評価されやすくなります。逆に、マテリアリティが不明確な企業は、将来のリスク管理が不十分であるとみなされ、投資対象から外れてしまう可能性すらあります。
資金調達を円滑に行うためにも、マテリアリティの特定と開示は必須の要件となっています。
ステークホルダーからの要請が高まるため
企業を取り巻くステークホルダーは投資家だけではありません。顧客、取引先、従業員、地域社会など、多様な関係者が企業の行動を注視しています。消費者はエシカルな商品を求め、就職活動中の学生は社会貢献度の高い企業を選好する傾向が強まっています。また、グローバル企業と取引する際には、サプライチェーン全体でのサステナビリティ対応が取引条件となるケースも増えています。
こうした多方面からの要請に応え、信頼関係を構築するためには、自社がどの社会課題に対して責任を持ち、どのように貢献していくのかをマテリアリティとして宣言する必要があります。
企業の競争優位性に直結するため
マテリアリティの特定は、他社との差別化を図るための戦略的な意味合いも持っています。自社の強みや独自技術を活かして解決できる社会課題を特定できれば、それがそのまま新しいビジネスチャンスになります。
例えば、食品メーカーが「健康寿命の延伸」をマテリアリティに掲げ、健康配慮型の商品開発に注力すれば、高齢化社会における強力な競争優位性を築くことができます。
社会課題を起点としたイノベーションを生み出すためにも、自社ならではのマテリアリティを定義することは、経営戦略上きわめて重要です。
自社のサステナビリティをいかに広報するか
SDGsやESGとマテリアリティはどう違う?
サステナビリティの文脈では、SDGsやESGといった用語が飛び交いますが、それぞれの違いや関係性を正しく理解できているでしょうか。
これらは密接に関連していますが、視点や役割が異なります。以下の表で整理してみましょう。
SDGsは世界共通の達成目標
SDGs(持続可能な開発目標)は、2015年に国連で採択された、世界中の誰もが目指すべき共通のゴールです。貧困や飢餓、気候変動など17の目標と169のターゲットで構成されています。
企業にとってSDGsは、マテリアリティを検討する際の「社会課題のリスト」として機能します。自社の事業活動が、世界のどの目標達成に貢献できるかを考えることで、独りよがりではない、社会的な要請に基づいた課題設定が可能になります。
つまり、SDGsはマテリアリティを特定するための入り口や参照元となる枠組みと言えます。
ESGは企業を評価する3つの視点
ESGは、Environment(環境)、Social(社会)、Governance(ガバナンス)の頭文字を取った言葉で、企業の持続可能性を評価するための観点です。主に投資家が企業を分析する際に用いるフレームワークですが、企業側にとっては経営体制を強化するための指針となります。
マテリアリティを特定するプロセスでは、環境配慮や人権対応、企業統治といったESGの要素を漏れなく検討することが求められます。
マテリアリティが「何を(What)」解決するかを示すのに対し、ESGはその課題解決を支える「土台やプロセス(How)」の健全性を測る尺度とも捉えられます。
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マテリアリティは企業独自の重要課題
SDGsが世界共通の目標であり、ESGが一般的な評価基準であるのに対し、マテリアリティは「その企業独自のもの」である点が最大の特徴です。
すべての企業が同じマテリアリティを掲げる必要はありません。むしろ、業種やビジネスモデル、企業理念によって優先すべき課題は異なります。SDGsやESGの要素を考慮しつつ、自社の強みや影響度を踏まえて絞り込んだ結果がマテリアリティです。
世界共通の課題(SDGs)の中から、自社が本気で取り組むべきテーマを選び抜き、ESGの観点で管理・実行していく、という関係性で捉えると分かりやすいでしょう。
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マテリアリティを特定する5つの手順
では、実際に自社のマテリアリティを特定するには、どのような手順を踏めばよいのでしょうか。一般的には、以下の5つのステップで進めることが推奨されています。
このプロセスを経ることで、社内外に対して説得力のあるマテリアリティを策定できます。
| 手順 |
フェーズ |
主な実施内容 |
|
1 |
課題抽出 | ガイドラインやSDGsを参照し、社会課題を「ロングリスト」化 |
| 2 | 優先順位付け | 自社への影響度とステークホルダーへの影響度で評価 |
| 3 | 妥当性確認 | 社外有識者や経営層との対話を通じて内容を検証 |
| 4 | 特定・承認 | 取締役会での審議を経て、マテリアリティとして正式決定 |
| 5 | 開示・浸透 | 社外への公表とともに、KPIを設定し社内施策へ落とし込み |
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手順1 社会的な課題を幅広く洗い出す
最初のステップでは、自社に関連する可能性のある社会課題をできるだけ広く洗い出します。
ここでは絞り込みを行わず、網羅性を重視することがポイントです。GRIスタンダードやSASB(サステナビリティ会計基準審議会)などの国際的なガイドライン、SDGsの169のターゲット、ISO26000などを参照しながら、自社の事業が影響を与えうる課題をリストアップしていきます。これを「ロングリスト」と呼びます。
この段階で、競合他社のマテリアリティや業界特有の課題についても調査しておくと、抜け漏れを防ぐことができます。
手順2 課題の優先順位を評価し整理する
抽出したロングリストに対して、優先順位をつけていきます。
一般的には、縦軸と横軸を用いた「マテリアリティ・マトリックス(マップ)」を作成して評価します。縦軸には「自社にとっての重要度(事業への影響、リスク・機会)」を、横軸には「ステークホルダーにとっての重要度(社会からの要請、投資家の関心)」を設定します。
社内の関連部署へのヒアリングやアンケート、投資家との対話などを通じて各課題をスコアリングし、両方の重要度が高い領域にある課題をマテリアリティ候補として抽出します。
手順3 専門家を交えて妥当性を検証する
社内の視点だけで評価を行うと、どうしても客観性に欠ける場合があります。そこで、選定したマテリアリティ候補が本当に妥当かどうか、社外の有識者や専門家を交えて検証を行います。
サステナビリティの専門家や投資家、NGOの代表者などから意見をもらうことで、独善的な選定になっていないか、社会の要請とズレていないかを確認します。
この「ダイアログ(対話)」のプロセスを経ることで、マテリアリティの客観性と信頼性が高まり、後の開示段階でも説得力のある説明が可能になります。
手順4 取締役会で審議し正式に決定する
妥当性の検証を終えた案は、最終的に経営判断として決定する必要があります。
サステナビリティ委員会などの専門組織で議論を詰めた上で、取締役会に上程し、審議・承認を得ます。マテリアリティは全社的な経営戦略に関わる重要な事項であるため、経営トップがその意義を深く理解し、コミットメントすることが不可欠です。
決定されたマテリアリティは、単なるスローガンではなく、経営方針の一部として位置づけられます。
手順5 KPIを設定し事業戦略に統合する
マテリアリティを特定して終わりではありません。特定した重要課題を解決するために、具体的な目標(KPI)とアクションプランを設定します。
「2030年までにCO2排出量を〇〇%削減する」「女性管理職比率を〇〇%にする」といった数値目標を定めることで、進捗管理が可能になります。そして、これらの中期経営計画や事業戦略に統合し、現場レベルの業務にまで落とし込んでいきます。
また、統合報告書やWebサイトを通じて社外に開示し、ステークホルダーへの説明責任を果たすことも重要なプロセスです。
マテリアリティ特定を成功させるポイント
マテリアリティの特定は、形式的に行うだけでは意味がありません。実効性のあるものにするためには、いくつかの重要なポイントを押さえておく必要があります。
プロジェクトを成功に導くための勘所を整理しました。
経営層の十分なコミットメントを得る
マテリアリティの特定プロセスにおいて最も重要なのは、経営トップや役員層を巻き込むことです。
担当部署だけで作業を進め、最後に承認をもらうだけの形式では、全社的な戦略として機能しません。初期段階から経営層との対話を重ね、企業の将来像とマテリアリティをリンクさせる必要があります。
経営陣が「なぜこの課題に取り組むのか」を深く理解し、自らの言葉で語れるようになって初めて、組織全体を動かす推進力が生まれます。
形式的なプロセスで終わらせない
他社の真似をして綺麗なマテリアリティマップを作ることが目的になってはいけません。重要なのは、特定した課題に対して実際にどう取り組むかです。
マテリアリティを特定したら、必ず現場レベルの目標や予算、評価制度にまで落とし込む必要があります。「絵に描いた餅」にしないためには、現場の社員にとっても納得感があり、日々の業務との関連性が見えるような表現や仕組み作りを工夫することが大切です。
特定プロセスを社外に開示し透明性を高める
結果としてのマテリアリティだけでなく、そこに至るまでのプロセスを開示することも重要です。
どのような基準で課題を抽出し、誰とどのような対話を行い、最終的にどう判断したのか。このプロセス自体が、企業のガバナンスの健全性や誠実さを示す材料になります。
統合報告書やWebサイトで「特定プロセス」として詳細を公開することで、投資家やステークホルダーからの信頼を獲得することができます。
社会情勢の変化に応じて定期的に見直す
社会課題やビジネス環境は常に変化しています。一度特定したマテリアリティが、永久に変わらないわけではありません。
例えば、パンデミックや地政学的なリスクなど、数年前には想定していなかった課題が急浮上することもあります。そのため、マテリアリティは固定的なものではなく、動的なものとして捉えるべきです。
中期経営計画の策定タイミングなどに合わせて、定期的にレビューを行い、必要に応じて項目の追加や修正を行う柔軟な姿勢が求められます。
まとめ
この記事の要点をまとめます。
• マテリアリティは、企業が持続的成長のために優先して取り組むべき重要課題であり、経営戦略の中核です。
• 特定プロセスでは、社会課題の抽出から優先順位付け、社外との対話、経営層の承認までを丁寧に行うことが重要です。
• 特定して終わりではなく、KPIを設定して現場に浸透させ、社会情勢に合わせて定期的に見直す運用が求められます。
マテリアリティの特定は、自社の存在意義を再定義する絶好の機会です。形式的な作業と捉えず、未来の企業価値を創造するための第一歩として、じっくりと議論を重ねてみてください。
ではこの後さっそく実行するには、何から始めれば良いのでしょうか。
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ぜひ具体的な第一歩に悩んだ際には、朝日新聞社にご相談ください。
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