製造業の枠組みを超えて社会に価値を提供できる企業グループへ

 今年創業100周年を迎える三井造船。昨年2月に長期ビジョン「MES Group 2025 Vision」を策定、「2025年度に売上高1兆1,000億円、経常利益率6%」という経営数値目標に向け、ビジネスモデルの改革に取り組んでいる。代表取締役社長 CEOの田中孝雄氏に聞いた。

──事業を取り巻く環境について、どのようにとらえていますか?

田中孝雄氏

 日本の製造業は大きな転換期を迎えています。廉価商品は輸入品頼みとなり、優秀な人材は金融や情報通信など第3次産業へと流れています。国内市場が行き着くところまで行き、一方でグローバル化への対応が迫られる中、ビジネスモデルの変革に着手しなければ飛躍は望めません。当社もまさにそうした課題に直面しており、「いかに次世代化したよい商品を提案・提供していくか」という発想から、「いかに社会の課題やマーケットのニーズに応え、お客様にとって価値あるものを提供できるか」という発想に変わっていく必要があります。

 例えば、これまでは発電装置を納めるだけのビジネスであったのを、「安く電力をまかないたい」という社会ニーズに合った仕組みを開発し、提案していく。製造業という枠組みを超えて当社のリソースが活かせる事業領域で価値あるものを創出していきたいと考えています。

──2016年度から2025年度にかけての長期ビジョン「MES Group 2025 Vision」を策定しました。

 長期ビジョンでは、総力をあげて注力する次の3領域を掲げました。

  • 海上物流・輸送(港湾クレーン・船舶・船舶用エンジンなど)
  • 環境・エネルギー(海洋開発・水中機器・再生可能エネルギー・環境プラント・発電プラントなど)
  • 社会・産業インフラ(インフラ保全・橋梁(きょうりょう)・化学プラント・産業機械・国防・保安など)

 例えば環境分野では、ガスの時代の到来に備えた取り組みを進めています。天然ガスは石油や石炭に比べて環境負荷が少ない優れたエネルギー資源でありながら、輸送の難しさから石油に比べて供給が進んでいません。しかし、ロジスティクスが安定すれば、優位性の高い資源としてニーズの拡大が期待できます。当社は、天然ガスを冷却・液化して運搬するLNG(液化天然ガス)運搬船の建造に早くから取り組み、高度な技術を蓄積しています。天然ガスを燃料とするガスエンジンも得意としています。

 エネルギー分野では、例えば「発電バージ」という自走式の発電プラントを、現地での工事、資材調達、労働力確保などが難しい国々に提供しています。こうした品ぞろえは大きな強みであり、成長を目指しています。

──海洋資源探査ロボットやFPSO(浮体式海洋石油・ガス生産貯蔵積出設備)など、海洋開発向けの特殊作業船や海洋機器の開発にも力を入れていますね。

 日本の領海と排他的経済水域(EEZ)を合わせた広さは世界6位です。ここにメタンハイドレートなどの資源が眠っています。当社は10年以上メタンハイドレートの研究を行っており、採掘機械の開発を始め、新資源を安定的に供給して長期的なビジネスにつなげられないかと模索しています。

──新造船市場についてはどのように見ていますか。

 下り坂の業界と見られがちですが、世界の人口増加に伴う需要増加は確実にあります。需給のバランスが崩れて需要が減る時期があっても、30年程度のサイクルで成長エリアにおける需要拡大が起こる市場なので、そのタイミングに備えることが大事だと思っています。

──今後の展望は。

 長期ビジョンで掲げた「2025年度に売上高1兆1,000億円、経常利益率6%」という経営数値目標に向け、三つのアクションを実践していきます。一つ目は、「外から内へ」の視点の転換。すなわち、社会課題やニーズから見て、それに応えるために何が必要かを考える。二つ目は、社内外と積極的に協業する。すなわち、目標実現のために、自前主義にこだわらず外部とも積極的に協業する。三つ目は、利益率アップにこだわる。すなわち、利益を生み出す製品価値やビジネスモデルとは何かを考える。以上のアクションを通じて事業の強化を図っていきます。

──リーダー信条は。

 私は長く船舶用エンジンのエンジニアをしていました。機械は下手な設計をすれば故障します。つまりここが悪いと明確に教えてくれて、改良すれば課題は解決する。企業経営はそうシンプルにはいきません(笑)。私が考えるリーダーの使命は、「創造性」「部下を鼓舞する」「お客様を満足させる」「約束を守る」という4点。未来への期待につながるビジョンを社内外に示していけたらと思います。

──愛読書は。

 歴史に関する本が好きです。社会人になりたての頃に読んだのは『岩波講座 世界歴史』。全巻を通読したことで文明の盛衰の変遷がよくわかりました。『ローマ人の物語』は人物物語として楽しく読みました。最近読んで面白かったのは、『殷(いん)─中国史最古の王朝』と『周─理想化された古代王朝』。イタリア史や中国史はロマンがあっていいですね。

田中孝雄(たなか・たかお)

三井造船 代表取締役社長 CEO

1950年福島県生まれ。73年東北大学工学部卒。同年三井造船入社。2009年常務取締役 機械・システム事業本部長。11年代表取締役常務・経営企画部門及び人事総務部門担当。13年代表取締役社長。15年4月から現職。

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(全国版掲載。各本社版で、日付が異なる場合があります)

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