ビジネス経験を糧に、多様性とたわむれる面白さを伝えていきたい

 幕張新都心にキャンパスを構える神田外語大学。「言葉は世界をつなぐ平和の礎」という建学の精神を掲げ、語学とリベラルアーツの修得に注力したカリキュラムを展開している。2018年4月に就任した宮内孝久学長は、総合商社のビジネスマンとして活躍した経歴を持つ。教育に携わるようになった経緯や、大学の取り組みについて聞いた。

──教育に携わるようになったきっかけは。

神田外語大学学長 宮内孝久氏 宮内孝久氏

 日本の国際競争力が低下していると感じたことがきっかけでした。私が商社に入社した頃に発展途上国と言われていた国々は、めざましい成長を遂げ、そこで育った若者たちは国際舞台で堂々と議論を戦わせています。かたや日本の若者は元気がない。学力面も、数学や理科嫌いが増え、算数・数学のレベルは低下し、外国語を話せる人の数も諸外国に比べて少ない。加えて留学する人が減っている。その原因が教育だとしたら、国際ビジネスの現場を知る者だからできる教育があるのではないかと考えたのです。国際社会はきれいごとだけではありません。人にだまされない教養と、多様性とたわむれる面白さを伝えていきたいと思っています。

──横浜市教育委員も務めています。

 日本の教育は、初等・中等教育から変えていかなければならないと思っています。子どもたちが素直におとなしく聞いている授業を良しとするような、画一的な教育には疑問を感じています。自分の考えを言葉を尽くして周囲に伝え、周囲の意見に耳を傾ける。そうしたディスカッションがあってこそ人間力は養えると思うのです。また、国語や数学や理科といった基本的な学力の向上をはかり、サイエンス嫌いなどをなくさないといけない。公立小中学校の教員採用試験の倍率が年々下がっているのも、深刻な問題です。教員の給与引き上げや働き方改革を通じて、優秀な若者が魅力を感じるような教育の現場にしていく必要がある。そして、現役の教員は、定期的に教職大学院などで学び、指導力を高めていく。こうした提言を積極的にすることで、教育現場の改善を目指していきたいと考えています。

──大学ではどのような教育を目指していますか。

 神田外語大学が進めるのは、「自己肯定感」を高める教育と「自立学習」です。語学を訓練して自信を育み、自信から生まれた「もっと学びたい」という好奇心を、新たな挑戦やなりたい職業への意欲につなげる学習環境を整えています。ただ、語学だけでは足りません。「言葉は世界をつなぐ平和の礎」という建学の理念にある通り、言葉を通じて世界とコミュニケーションし、共感や妥協を経験しながら人間関係を築くことに意味がある。コミュニケーションを有意義にするのは、論理性と感性です。これを磨くために、リベラルアーツ(教養)に力を入れています。

──学習環境の特徴は。

神田外語大学学長 宮内孝久氏

 授業は少人数制を徹底。教員陣はその多くが教える言語を母語とし、個々に合った学び方の相談にも応じています。各国の建物を再現した異国情緒あふれる学習空間や、IT環境の充実など、施設・設備面でも学生たちの自立学習を促す工夫をしています。海外留学制度、国際ボランティア、リカレント教育、eラーニングなど、開かれた大学づくりにも努めています。

──今後の抱負は。

 自分は長くビジネスをやってきたので、リアリスティックなリーダーだと思います。カリスマタイプではありませんね。多様な人材を集め、活発に議論できる大学組織にすることによって、愉快に学べる場を創出していきたい。緑に囲まれた明るいキャンパスで、人生をおもしろおかしく元気よく生きる術を、身につけてほしいと思います。

 また、何事も不明瞭で不確実な時代ですから、朝令暮改はあってもいい。ただ、リーダーの意向がただちに現場に伝わることが大前提で、情報伝達や情報共有の大切さについても職員たちに説いています。

──愛読書は。

 日本の社会集団のあり方を問う名著『タテ社会の人間関係』は、高校時代に読んで衝撃を受けた思い出の書です。長く中東諸国と仕事をしてきたので、『イスラームから見た「世界史」』や『地政学の逆襲 「影のCIA」が予測する覇権の世界地図』も興味深く読みました。

宮内孝久(みやうち・たかひさ)

神田外語大学 学長

1950年東京生まれ。75年早稲田大学法学部卒。同年三菱商事入社。サウジアラビア駐在や、メキシコの合弁企業経営などを経験。代表取締役副社長などを経て、2018年4月から現職。横浜市の教育委員も務める。

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(全国版掲載。各本社版で、日付が異なる場合があります)

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