インタビュー
2026.07.24

「守りたいのはふるさとへの愛です。」 MS&ADインシュアランスグループが3月11日に新聞広告で伝えた企業姿勢

MS&ADインシュアランスグループホールディングス株式会社グループコミュニケーション部CXデザイングループ・山田剛史氏
「守りたいのはふるさとへの愛です。」 MS&ADインシュアランスグループが3月11日に新聞広告で伝えた企業姿勢

東日本大震災から15年目の2026年3月11日、MS&ADインシュアランスグループホールディングスは「守りたいのはふるさとへの愛です。」というキーメッセージを掲げ、新聞広告を朝日新聞朝刊に掲載した。防災・減災の啓発にとどまらず、地域への愛着を守るという企業姿勢を表現した本広告は、2026年度朝日広告賞の部門賞も受賞。本広告を企画した背景や思い、今後のブランドコミュニケーションについて、グループコミュニケーション部CXデザイングループの山田剛史氏に聞いた。

本当に守りたいのは、防災を超えた「街への愛着」

――今回の広告キャンペーンを実施することになった背景について教えてください。

 私は以前、三井住友海上で広告を担当していて、2023年から3月11日に新聞広告の出稿を始めました。東日本大震災という未曾有の大災害は、損害保険会社として決して目を背けてはならない出来事です。それ以降、毎年欠かさず新聞広告を掲載してきました。
 そして2025年度からは、MS&ADインシュアランスグループホールディングスに所属することになり、3月11日の広告をグループ全体のコミュニケーションに切り替えました。損害保険だけでなく、生命保険や資産形成、リスクコンサルティングなど幅広い事業を展開するグループが一体となり、「災害にどう向き合うか」という姿勢を社会に示していくことにしました。

MS&AD事例紹介_ODA6222

――メッセージの発信の仕方には様々な選択肢があったと思いますが、どのように企画されていかれたのでしょうか。

 今回の広告で伝えたかったのは、単なる「防災や減災の啓発」にとどまらないメッセージです。多様な事業を営むグループとなった今、あらためて社会に向けて何を発信すべきか突き詰めた結果、「私たちが本当に守りたいものは何か」という問いに行き着きました。
 私たちが守りたいのは、災害によってその土地への愛着が失われることなく、その街で暮らし続けることに誇りを持つ人を増やしていくこと。つまり、「街への愛着」です。
 こうした思いから生まれたのが、「守りたいのはふるさとへの愛です。」というキーメッセージです。この思想を体現するテーマとして掲げたのが、グループ全体で取り組んでいる「グリーンレジリエンス」でした。これは、生態系を活用して防災・減災と地域活性化を目指す取り組みです。
 単に自然を防災に生かすだけでなく、生物多様性を守り、豊かな自然の中で暮らす喜びをもたらす「マルチベネフィット」の考え方に基づいています。私たちが大切にしてきたこの本質的な価値を、3月11日という節目にあらためて社会に伝えたいと考えました。
 この広告はインナーブランディングも意識しています。グリーンレジリエンスは、1年更新の保険契約とは異なり、10年、20年といった長いスパンで地域に寄り添う取り組みです。今回の広告を通じて「私たちが向き合っているのは、お客様や地域の未来である」ということを、社員一人ひとりにも再認識してほしいという願いも込めています。

企業ブランドの変革期を象徴する「緑」へのこだわり

サイズ調整版_新聞紙面画像_MS&AD,0311M,朝日(全国),【企業新聞広告】
2026年3月11日 朝刊約1.0MB

――企画を進める段階で、特に注力されたポイントや工夫されたことなどを教えてください。

 特に時間をかけたのは、キーメッセージの選定です。ボディコピーは早い段階で固まったのですが、「守りたいのはふるさとへの愛です。」というキーメッセージの決定に至るまでは、コピーライターと何度も議論しました。
 数ある候補の中に「ふるさとを簡単に失わせない。それが私たちの使命」という案がありました。これをベースに、そもそも「故郷(ふるさと)とは何か」を深く考えたとき、私たちが本当に守りたいのは、物理的な土地や建物だけではないと気付いたんです。本当に守るべきは、「ここに住み続けたい」「この街が好き」という、人々が抱く愛着や心情ではないかと思いました。
 また、災害関連の発信はどうしても「〜にしない」「〜させない」といった否定形のトーンになりがちです。しかし私たちは、自分たちの思いを前向きな「意思」として示したいと考えました。そもそも災害は、人間の力で完全に防げるものではありません。だからこそ、その先にある「人間の心情」にどこまでも寄り添い、大切にする姿勢を示したい。こうした議論を経て、現在のキーメッセージにたどり着きました。

――「根っこ」を「木」に見立てたビジュアルも印象的です。こちらはどのような意図があるのでしょうか。

 「守りたいのはふるさとへの愛です。」というキーメッセージから、「地域に根を張っている人」をビジュアルのテーマに据えました。そのときイメージしたのが、強い意思を持ってその場に力強く、凜と佇んでいる人の姿です。
それを表現するために選んだモチーフが「根っこ」。ポイントは、一本の幹を持つ「木」のように見えるデザインを採用したことです。この二つの意味合いを持たせることで、今までみたことがない力強さと繊細さを兼ね備えたビジュアルとなり、新聞をめくる手を止めるフックにもなると考えました。
 また普段は、表面に出ていない根をさかさまに木のように見立てることで、地域への愛着という、普段は見えない部分、地域を支えている部分に視線を向けることを意識しています。実際、保険は普段は目に見えないものですが、生活を支えるためには、問題なく存在し続けなくてはいけない。そういう保険・金融グループの意思も込めています。

――白と緑の色合いも目を引きます。

 根っこは本物で、理想的な形状のものを厳選しました。背景の緑色の部分も本物の「土」。そこに根を置いて撮影し、色については加工を施しています。
 特にこだわったのが、背景の「緑色」です。MS&ADはもちろん、2027年4月に切り替わる新社名「MSIG」のコーポレートカラーも緑色です。ただ、微妙に色のトーンが違います。今回の広告で新社名の発表を兼ねることも決定していたため、従来の「MS&ADの緑」と、新しく決定した「MSIGの緑」のちょうど中間に位置するような色合いを選びました。
 ある意味では、グループの過渡期を象徴する色とも言えますが、何よりも「見ていて柔らかい印象になる緑」にすることを最優先に考えました。メッセージはもちろん、ビジュアルの形状や色の細部に至るまで、試行錯誤がありました。結果として、私たちが大切にしたい「地域に根を張る人々の力強さ」や、新旧ブランドが入り交じる過渡期ならではの「柔らかさや優しさ」が伝わるクリエイティブを目指しました。

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自分たちの仕事の誇りを再認識 使命と重なる新聞という媒体

――3月11日のメッセージを届ける媒体として以前から新聞広告を選ばれていますが、どのような役割を期待されていますか。

 新聞読者は基本的に、日ごろから活字に親しまれている方々です。また、365日ほぼ毎日手元に届けられ、災害時も被災地で情報源になる媒体です。そうした「生活や災害に最も寄り添うメディア」であることが、広告媒体として選んでいる大きな理由です。
 特に新聞の強みは、他のメディアと比べて「社会性」と「信頼性」が非常に高いことだと考えています。たとえば、テレビなどは報道だけでなく娯楽番組も放送されているので、今回のような真っすぐなメッセージを投げかけても、どうしても届きにくい側面があります。
 一方、新聞は自分のペースで読み進めることができ、気になったページは後から何度でも見返すこともできる。まるで「スルメ」のように、じっくり味わっていただける。そんな新聞独自の特性に、大きな魅力を感じています。
 あと、新聞はなんといってもサイズの大きさが特徴的です。折り畳めばカバンに収まるコンパクトさがありながら、15段の大きさなら30インチテレビに匹敵するほどの大きさにもなる。こうしたサイズ感は、広告媒体としての大きな強みだと感じています。少ない色の数で表現した根っこのビジュアルを全15段の紙面でダイナミックに見せられたのは、まさに新聞広告だから実現できたことです。
 さらに、3月11日の朝に「確実に届く」ことも重要でした。毎朝欠かさず配達されるという新聞の特性は、私たちが掲げる「お客様の日常を途切れさせない」という使命とも重なります。そうした意味からも、私たちのメッセージを伝えるためには、最適な媒体だと考えています。

――数ある新聞の中で、朝日新聞に期待されたことがあれば教えてください。

 新聞各紙、すべて同じ内容の広告を掲載しました。しかし、受け取っていただきたいメッセージのニュアンスは少しずつ違います。朝日新聞の読者の傾向は、調査データからも、社会課題への関心が高く、物事をフラットに捉える読者が多いと捉えています。朝日新聞の特性からも、期待したのは「社会への問題提起」という役割です。「保険会社は補償だけで十分なのか」「これからの街づくりに求められるのは、災害に強いことだけなのか」「そこに住む人の愛着が必要なのではないか」。こうした本質的な問いかけを社会に投げかけるときには、朝日新聞が適していると思っています。

インナーブランディングの成果も 朝日広告賞部門賞受賞

――掲載後、社内外からどのような反響がありましたか。

 3月11日に掲載する新聞広告は、三井住友海上として掲載していた頃から、社内外を問わず毎年、非常に多くの反響をいただいております。2024年は「クレヨンしんちゃん」のビジュアルで日常の尊さを訴え、2025年は避難所での支え合いを問いかける内容でした。
 今回はどちらかと言えば、社外よりも社内からの反響が大きかったと思います。社員からは、「グリーンレジリエンスという取り組みが、単に自然を守るだけでなく、その土地への愛着を育てていくことに本当の意味があるんだと気づいた」という声が多く寄せられました。
 保険の営業や事故後のサポートなど、自分たちのあらゆる日常業務が、めぐり巡って「お客様の日常を守ること」につながっている。その本質を、今回の広告を通じて社員一人ひとりが再認識する機会になったことは、大きな成果だと感じています。
 また、新聞は保存性が高く、後から何度でも見直していただける媒体です。実際、私たちの重要なパートナーである代理店の多くは、新聞を購読しています。テレビCMなどで大量に情報を流すよりも、新聞広告を通じて深く読み込んで共感して頂くことが、絆を築く上でも効果的だと考えています。

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――今回、朝日広告賞の部門賞を受賞されましたが、社内でどのように受け止められましたか。

 受賞を通じて、自分たちの仕事が持つ公共性の高さや、事業を通じて社会貢献ができているという事実を、社内全体で再認識するきっかけとなりました。
 また、朝日広告賞はWEBでの読者投票を取り入れ、選考プロセスやノミネート作品を広く公開されていますよね。そうしたオープンな審査姿勢からも、賞に対する熱意や重みが伝わってきます。だからこそ、今回の受賞をスタッフ一同、誇りに感じています。

――最後に、今後はどのようなコミュニケーションを展開されていくのでしょうか。

 私たちが伝えたい「芯」の部分は、これからも変わりません。お互いを支え合うという保険の本質や、地域への愛着を守りたいといった、事業を通して叶えたい思いは、今後もぶらさずに発信し続けていきます。
 私たちのグループは今後、合併や新ブランド始動といった大きな変革期を迎えます、その大きな変化の中で、私たちが広告を通じてメッセージを発信するならば、単なる事実の告知にとどまらず、その先にある「どのような世界を作り出したいのか」という強い意思やエモーションを、これまで以上に届けていきたいと考えています。
 保険とは本来、「不安をなくしたい」「新しい一歩を踏み出したい」という、人々の前向きな願いがあって初めて成り立つものです。これからも、そうしたお客様の思いに寄り添うコミュニケーションを大切にしていきたいと考えています。