近年、企業の社会的責任や持続可能な開発目標(SDGs)への関心が高まる中で、「ソーシャルビジネス」という言葉を耳にする機会が増えました。これは、単に利益を追求するだけでなく、事業を通じて社会が抱える課題を解決しようとする新しいビジネスのかたちです。本記事では、ソーシャルビジネスの基本的な定義から、具体的な企業の成功事例、そして事業の始め方までをわかりやすく解説します。
ソーシャルビジネスとは? 社会課題を解決する新しいかたち
ソーシャルビジネスは、社会が直面するさまざまな課題に対し、ビジネスの手法を用いて解決を目指す事業活動です。利益を出すことを目的としながらも、その利益は株主への配当ではなく、社会課題の解決や事業のさらなる発展のために再投資されるのが大きな特徴です。
事業を通じて社会課題の解決を目指す
ソーシャルビジネスが取り組むテーマは、貧困、環境問題、教育格差、高齢者福祉、地域活性化など多岐にわたります。これらの課題に対して、寄付や補助金に頼るだけでなく、自ら収益を生み出すことで、持続可能な形で解決策を提供し続けることを目指します。経済産業省は、ソーシャルビジネスの要件として「社会性」「事業性」「革新性」の3つを挙げています。
ボランティアやNPO、CSRとの違い
ソーシャルビジネスは、ボランティアやNPO、企業のCSR活動としばしば混同されますが、その仕組みには明確な違いがあります。最大の違いは、活動資金の生み出し方と事業の目的です。
| 特徴 | ソーシャルビジネス | NPO法人 | ボランティア | CSR活動 |
| 主な目的 | 社会課題の解決(事業として) | 非営利での社会貢献活動 | 自発的な社会貢献 | 企業価値向上、社会的責任 |
| 主な資金源 | 事業収益 | 事業収益、寄付、助成金 | なし(持ち出しが基本) | 企業の利益 |
| 利益の扱い | 事業への再投資 | 活動費用(分配はしない) | なし | 株主への配当など |
| 持続性 | 事業収益により高い | 資金源に依存 | 個人の意志に依存 | 企業の経営状況に依存 |
ソーシャルビジネスは、事業で得た収益を基に活動を拡大していくため、外部の資金源への依存度が低く、持続的かつ自律的に社会課題に取り組めるという強みがあります。
なぜ今、SDGsとの関連で注目されるのか
2015年に国連で採択された「持続可能な開発目標(SDGs)」は、世界が抱える17の目標を掲げ、企業にもその達成に向けた役割を求めています。この流れの中で、企業の社会的責任に対する考え方が変化し、事業活動そのもので社会に貢献しようとするソーシャルビジネスの考え方が注目されるようになりました。消費者や投資家も、企業の社会貢献活動を重視する傾向が強まっており、ソーシャルビジネスは企業価値を高める上でも重要な要素となっています。
参考:外務省「SDGsとは? JAPAN SDGs Action Platform」
ソーシャルビジネスに取り組むメリット
ソーシャルビジネスは社会に貢献するだけでなく、事業を行う企業や個人にとっても多くのメリットをもたらします。
社会貢献による高いやりがい
ソーシャルビジネスの最大の魅力は、自らの仕事が直接的に社会問題の解決につながるという実感と、それによって得られる高いやりがいです。利益追求だけでは得られない使命感や満足感は、働く人々のモチベーションを高め、組織全体の活性化にもつながります。
持続可能な社会への貢献
事業活動を通じて、環境問題や社会格差といった課題に直接アプローチすることで、持続可能な社会の実現に貢献できます。自社の利益と社会全体の利益が一致するビジネスモデルは、長期的な視点で見ても安定した成長が期待できます。
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企業イメージの向上と共感の獲得
社会課題の解決に真摯に取り組む姿勢は、顧客や取引先、地域社会からの信頼と共感を呼び、企業のブランドイメージを大きく向上させます。共感はファンの獲得につながり、結果として安定した収益基盤の構築にも貢献します。
ソーシャルビジネスの課題とデメリット
多くのメリットがある一方で、ソーシャルビジネスには特有の難しさや課題も存在します。挑戦する際には、これらの点を十分に理解しておくことが重要です。
収益性と社会性の両立の難しさ
ソーシャルビジネスの最も大きな課題は、社会的なミッションを追求しながら、事業として成立するだけの収益を確保することです。「社会貢献」と「利益」という二つの目標のバランスを取ることは容易ではなく、常に難しい舵取りが求められます。
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安定した資金調達のハードル
一般的なビジネスと比較して、短期的に大きな利益を上げにくいソーシャルビジネスは、金融機関からの融資や投資家からの資金調達が難しい場合があります。事業の社会的な価値を伝え、共感を得て資金を集めるための工夫が必要です。日本政策金融公庫など、ソーシャルビジネス向けの融資制度も存在します。
人材の確保と育成
社会課題解決への熱意と、ビジネスを推進するスキルの両方を兼ね備えた人材を見つけ、育成することは大きな課題です。特に、事業の成長段階においては、多様な専門性を持つ人材の確保が成功の鍵を握ります。
子どもたちが参加企業に取材 環境課題に向き合う企業と教育現場をつなぐ協賛プロジェクト「地球教室」
産官学が連携する環境教育プロジェクト「地球教室」は、オリジナル教材の配布や環境イベント、出張授業の開催など参加型プログラムが子どもたちや教育関係者から支持されています。
イベント「かんきょう1日学校」では、環境に配慮した企業の取り組みを子どもたちが学び、形にします。例えば、旭化成は「ヘーベルハウス」(HEBELHAUS)の家づくりや家の長寿命化によるゴミ削減の取り組みを紹介し、物を大切にすることの重要性を伝えました。また電車や船、飛行機などで技術や部品が広く活用されているナブテスコは、同社の技術がどのように鉄道のエコへ貢献しているかを説明しました。
協賛企業からは、子どもたちに自社の活動を直接アピールでき、長期的なファン作りに繋がっていることを実感した、と高い評価が集まっています。
【関連記事】子どもたちが参加企業に取材し新聞作りも 朝日新聞社「地球教室」に協賛する魅力とは| 広告朝日|朝日新聞社メディア事業本部
【海外】ソーシャルビジネスの成功事例
ソーシャルビジネスの考え方は世界中に広がっており、革新的なアイデアで社会に変革をもたらしている企業が数多く存在します。
グラミン銀行|貧困層の自立を支援
バングラデシュで設立されたグラミン銀行は、ソーシャルビジネスの先駆けとして世界的に有名です。
創設者のムハマド・ユヌス博士は、担保なしで貧困層に少額の融資を行う「マイクロクレジット」という仕組みを考案し、多くの人々の経済的自立を支援しました。この功績により、ユヌス博士とグラミン銀行は2006年にノーベル平和賞を受賞しています。
参考:Grameen Bank – Bank for the Poor
パタゴニア|故郷である地球を救うためのビジネス
アウトドア用品メーカーのパタゴニアは、「私たちは、故郷である地球を救うためにビジネスを営む」というミッションを掲げています。環境負荷の少ない素材の採用や、売上の1%を自然環境保護団体に寄付するなど、事業のあらゆる側面で環境保護を徹底しています。その一貫した姿勢は、多くの消費者から強い支持を得ています。
参考:資本主義を再考する | パタゴニア | Patagonia
ソーシャルビジネスの始め方 4ステップ
ソーシャルビジネスを始めるには、社会課題への情熱と冷静な事業計画の両方が必要です。ここでは、基本的な4つのステップを紹介します。
ステップ1:解決したい社会課題を特定する
まずは、自分が心から解決したいと思える社会課題を見つけることから始めます。自身の経験や興味・関心に基づき、課題の当事者が本当に困っていることは何かを深く掘り下げ、具体的な課題を特定します。
ステップ2:ビジネスモデルを構築する
次に、特定した課題をどのようにビジネスの手法で解決するかを考えます。誰に、どのような商品やサービスを提供し、どのように収益を上げるのか、社会的な価値と経済的な価値を両立できる、持続可能なビジネスモデルを設計します。
ステップ3:事業計画を策定し資金を調達する
具体的な事業計画書を作成します。事業のミッション、市場分析、提供する価値、収益計画、必要な資金などを詳細にまとめます。
この計画書を基に、金融機関からの融資、助成金、クラウドファンディング、ベンチャーキャピタルなど、事業に適した方法で資金を調達します。
ステップ4:事業を開始し継続的に改善する
資金調達の目処が立ったら、いよいよ事業を開始します。最初の計画に固執せず、顧客や社会からのフィードバックを基に、サービスや事業モデルを柔軟に改善し続けることが、長期的な成功につながります。
ソーシャルビジネスを成功に導くポイント
ソーシャルビジネスを軌道に乗せ、持続させていくためには、いくつかの重要なポイントがあります。
明確で共感を呼ぶミッションを掲げる
なぜこの事業を行うのか、という明確なミッションは、事業の根幹を支える最も重要な要素です。社会課題に対する強い想いが込められたミッションは、顧客や従業員、支援者など、多くの人々の共感を呼び、事業を推進する大きな力となります。
持続可能な収益モデルを確立する
社会的な価値を追求するあまり、収益性を軽視しては事業を継続できません。受益者から適正な対価を得る、あるいは別の収益源を確保するなどして、事業が自立して走り続けられるキャッシュフローを生み出すモデルを確立することが不可欠です。
協力者や支援者のネットワークを築く
社会課題は複雑であり、一つの組織だけで解決できるものではありません。同じ志を持つ他の企業、NPO、行政、地域住民など、多様なパートナーと連携し、協力者のネットワークを築くことで、より大きな社会的インパクトを生み出すことができます。
まとめ
ソーシャルビジネスは、社会が抱える課題をビジネスの力で解決し、持続可能な未来を創造するための強力なアプローチです。利益の追求と社会貢献という二つの目標を両立させることは容易ではありませんが、高いやりがいと大きな社会的価値を生み出す可能性を秘めています。本記事で紹介した事例やポイントが、ソーシャルビジネスへの理解を深め、次の一歩を踏み出すきっかけとなれば幸いです。
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