SDGs(持続可能な開発目標)の達成に向け、世界が一致して協力することを誓い合った2015年の「国連持続可能な開発サミット」から8年。「SDGsに関する情報が多く、飽きや疲れを感じる消費者・生活者が増えている」ともいわれる現在、企業や団体の意義ある取り組みを伝えるために朝日新聞社ではどのような施策を展開しているのか。
なかでも、教育現場と多くの接点を持つ朝日新聞社の強みを生かした、若い世代向けの訴求とはどのようなものか。メディア事業本部の石川拓磨と堀江和浩に聞きました。
社会の共感と行動変容につながる情報発信を展開
──SDGsという言葉や考え方が世の中に浸透するにあたっては、朝日新聞社が果たした役割も大きかったと思います。この間の取り組みを教えてください。
堀江 朝日新聞社が「国連グローバルコンパクト」に署名したのが2004年です。その後、15年に150カ国を超える世界のリーダーが参加した「国連持続可能な開発サミット」が開催、SDGsが掲げられました。国連がその推進のためにメディアに呼びかけた18年の「SDGメディア・コンパクト」発足時の参画メンバーとなりました。
それと、ほぼ同時期から、定期的にSDGs情報を発信する新聞の特集紙面を設け、社会課題に対して感度の高い読者にSDGsの価値や、企業・団体などの取り組みをお伝えしてきました。
石川 20年には、企業や学校、NPOなどの取り組みをタイムリーかつ深く紹介するためのウェブメディア「SDGs ACTION!」を立ち上げました。それと同時期ぐらいから、17色のアイコンをあしらったバッジをつけている方に日常でお会いすることも増えていった印象があります。
現在は、その頃に比べると企業の熱もやや落ち着いてきたように感じますが、それはおそらく「SDGsに取り組むことは当然だ」という意識が浸透してきたからでもあるでしょう。
──読者や消費者の受け取り方も最近では変わっていますか。
堀江 企業というのは社会の公器ですから、SDGsの達成に資する取り組みというのは、企業活動のなかにもともと含まれていると思います。なので、最初のうちは特に、自社の事業や取り組みを、「これは何番の取り組み」といったような形で整理する、といったことにとどまってしまうという企業の方の課題感をお聞きすることもありました。
石川 21年くらいからは企業広告にSDGsのアイコンが付されることが当たり前となり、22年以降は「SDGsウォッシュ」という言葉も耳にするようになりました。「SDGsやってます」みたいな、実態が見えにくい言葉だけでは、企業への共感が得られにくくなりました。
「SDGs ACTION!」は、読者のみなさまからも取り上げた企業や団体の方からも好評いただいています。記者の視点で、本当に社会変革につながる事例を多く紹介しているので、「ラベルのその先」を見据える方々に参考にしていただけているのではないかと思います。
未来を担う若い世代や学校現場との接点を創出・拡張
──朝日新聞の読者は社会課題への感度が高いという話がありましたが、SDGsについては初めからすぐに理解や共感が広がりましたか。
石川 仕事をしているなかで、最初のうちは「何だこれは、(SDGsの)読み方がわからん」というような声を聞くことがありました(笑)。現在はもちろん変わってきましたが、テレビなどでの取り上げ方の一部だけを見て、SDGsイコール環境への取り組み、というような誤解はまだあるように思います。
また、これは多くの方が指摘していますが、若い人のほうが全般的に関心も理解度も高いようです。今は学校の授業でSDGsについて教わる機会も多くなっていますから。そして2030年以降の世界を担う主役は若年層ですので、新聞社としても子どもや若い世代との接点はとても重視しています。
堀江 小学生向けには、2008年にスタートした「地球教室」という取り組みがあります。地球環境についての科学的な知識と協賛企業の環境貢献策をまとめた教材をつくり、出張授業やイベントなどと組み合わせたプロジェクトです。
21年に創刊した「中高生のための朝日SDGsジャーナル」は、文字通り、中高生を対象とした取り組みです。SDGsを学ぶための特別な新聞を制作し、授業での使用を希望する全国の中学校・高校に無料でお送りしていますが、特徴的なのはSDGsアイコンと同じ17色のふせん「ペタッとSDGs」とのセットになっていることです。実際の新聞記事などを読みながら、これはSDGsの目標の何番と関連しているだろうと自分で考え、それをもとにグループやクラス全体で話し合ってもらうことを意図しています。
教材では、企業のSDGs関連の取り組みと関連するニュースが掲載された新聞記事を紹介。生徒たちは主体的に企業の取り組みとSDGsを関連づけながら学びを深めていきます。
石川 個人的にいいなと思うのは、こうしたワークには「正解がない」ことです。たとえば、ある新しい技術を一人の生徒は「貧困の解消に役立つ」と考え、別の生徒は「でも気候変動を悪化させる」と考える。どちらも間違いではありません。そうやって自分とは違う考え方があることを知り、話し合うきっかけが生まれる。それがこの施策のポイントだと思います。
さらに、この「ジャーナル」に関しても協賛企業の出張授業を受けたいというお申し出を多くいただいていますので、可能な限りセッティングをお手伝いしています。
「中高生のための朝日SDGsジャーナル」企画書(無料)
──「大学SDGs ACTION! AWARDS」もありますね。
堀江 はい、この「大学SDGs ACTION! AWARDS」は18年にスタートした取り組みで、大学生や大学院生などに日頃の活動や研究にもとづいたアイデアを応募してもらい、有識者の審査を経てグランプリほか各賞を授与しています。
小・中・高校生には学校での学びを中心に、主体的に知識や経験を積み重ねてもらうこと、そして大学生以上ではその学びを経て自らアウトプットしてもらうことが主眼です。対象の年代にあわせて、企業の皆様と協働した学びを深めるプログラムをご用意していることが、朝日新聞の強みといえると思います。
SDGsという言葉を ことさら意識しない世の中に
──こうした各種の施策について、学校現場や協賛企業からはどのような評価を得ていますか。
堀江 学校の先生方からよくうかがうのは、あるテーマについて調べたり考えたりという部分では生徒たちは熱心に取り組むものの、最初の「問いを立てる」ことがなかなか難しい。そんなときに私たちの提供する教材や出張授業がきっかけとなり「探究学習」のテーマが見つかった、といったことがあるようです。
生徒たちの多くは、17アイコンの意味を全部暗唱できるぐらいに覚えていて、私たちよりよほど優秀です(笑)。ただし、その一つひとつを深掘りして考えたのは今日が初めてだった、というような感想も授業後によく聞きます。
石川 協賛企業からは、特にB to B企業などの場合、こうした機会に若い世代に社名を覚えてもらえること、社会にとって意義のある仕事をしている企業だと知ってもらえることに大きな価値があるという声をいただいています。
社員の方に出張授業の講師をお願いすると、自分たちの会社の使命って何だろう、社会にとってどう貢献できているのだろうと、みなさん準備の段階であらためて考えるようです。その過程でマインドセットが刷新され、仕事へのモチベーションが上がるというインナーの効果もあると聞いています。
──「消費者・生活者はもうSDGsに飽きている」といった声を見聞きするようになりましたが、もちろん世界の課題はまだ解決したわけではありません。今後はどのような働きかけを続けていきますか。
石川 弊社で昨年からスタートした「WELLBEING AWARDS(ウェルビーイング・アワード)」という取り組みがあります。「多様な幸福の価値を認め合う社会づくりに貢献した企業や団体」を顕彰するもので、平たくいえば、生活者や働く人のそれぞれの「幸福な人生」とは何か、そのために何ができるかをみんなで考え見つけていこう、ということです。SDGsの「3. すべての人に健康と福祉を」をもっと広い概念で捉え直す試みといっていいかもしれません。
近ごろではジェンダーやダイバーシティ、あるいは平和というテーマでも、こうした取り組みができないかという相談を受けることが増えてきました。SDGsという言葉が目新しいものではなくなったとしても、それだけ一般に浸透してきた結果だとすれば、私は決して悪いことではないと思っています。ただし一つひとつのゴールを見れば、その達成までにやるべきことはまだ少なくない。そこにフォーカスを当てる活動は、今後も必要だと考えています。
堀江 「社会課題の解決」と「教育」という分野は、いずれも朝日新聞社が大切にしているテーマです。未来を担うのが今の若い人たちであることは間違いなく、それを思えばこの二つの接点を掘り下げたところに私たちのめざす価値があるというのは今後も変わらないはずです。
もちろんそれは、私たちだけでできることではありません。多くの企業や教育機関の力をお借りしながら、今よりもっと意義のある取り組みを続けていきたい。私たち自身もひとつずつ学びながら、持続可能な社会の創り手を育てることに貢献できればと思っています。
2002年広告部門に入社、広告営業・企画に携わる。2017年よりメディアラボにて新規事業開発を行い、21年より社会的にニーズあるテーマに対し、社内のリソースを活用した企画プランニングに携わる。現在SDGsやウェルビーイングなど社会課題テーマの企画開発を中心に行っている。朝日新聞社メディア事業本部プランニング3部所属。
2004年入社、広告局営業推進部にて主に広告調査の設計、活用等の業務に関わる。07年9月から広告営業部門に所属し、旅行・金融・自動車・通信業界などを担当。21年4月より、主に教育領域での新規事業開発・事業推進に携わる。朝日新聞社メディア事業本部プランニング3部所属。