今後求められていくのは「Cause(大義)」をきちんととらえた広告

今回で2回目となるデザインライオン。審査員として参加した株式会社ドリル クリエーティブ・ディレクターの原野守弘氏に、全体の傾向や新しい流れなどについて聞いた。

 

シンプルで、強く、美しいデザインをピュアに評価する

 ――デザイン部門の審査基準は。また、今年のエントリー作品には、どのような傾向がありましたか。

 デザイン部門の審査員は、広告会社のアートディレクターではなく、デザイン会社の経営者が中心。審査基準については、いわゆる"Advertising"、説得術としての完成度やエンターテインメント性ではなく、デザインそのものの「美しさ」、それが創造する「新しい体験」、それによるスマートな「問題解決」といった点が評価される、と感じました。エントリー作品の傾向としては、デジタル分野の作品が増えたように思います。
 

 

――グランプリを受賞したナイキが評価されたポイントは。
 

グランプリ受賞「PAPER BATTLEFIELD/NIKE HONG KONG」(香港) グランプリ受賞「PAPER BATTLEFIELD/NIKE HONG KONG」(香港)

 シルクスクリーンの一層一層に、一人ずつプレーヤーを印刷することで、二次元平面上に三次元的なスポーツの躍動感を表現するというアイデアです。ポスターという伝統的媒体におけるイノベーションが評価されました。また、エモーショナルな表現の完成度、そして、作っていくプロセスそのものに参加性を取り入れたアイデアなどが、総合的に評価されました。

 ――日本の受賞作品についてはどのような評価がありましたか。

 ゴールドを受賞した「コトタマ」は、非常に評価が高かったですね。グランプリ候補に、という声もありました。
  ニチレイフーズの「アセロラ」のパッケージデザインは、白と赤だけで構成されたシンプルな表現が評価されて、シルバーに。その他の日本の受賞作品にも共通して言えますが、デザイン部門は基本的に「シンプリシティ」に高い評価をおく傾向があると思います。

 今回デザイン部門では、各賞合わせて六つの日本作品が受賞しました。そのうち、ゴールド二つ、シルバーとブロンズ各一つの計4作品は、電通の八木義博さんがアートディレクションを担当したものです。一人でこれだけのライオンを獲得したことは快挙と言えるでしょう。フィルム部門で16年ぶりに金賞を受賞したGT INC.のクリエーティブ・ディレクター、伊藤直樹さんの「Love Distance」(相模ゴム工業のコンドームの広告)とともに、日本の広告業界にとって非常にうれしい結果でした。

郵便局のポスター。キットメールをもらった人の嬉しさ。キットメールに込められた送る人の想いが表現されている

ゴールド受賞
「COTO-TAMA/NHKエンタープライズ」(日本)
シルバー受賞
「恋する国から。 /ニチレイフーズ」(日本)


 

企業活動や存在自体の「Cause」を定義したコミュニケーションの時代が来る

――今回の参加を通じ、新しく見えてきた広告やコミュニケーションの潮流はありますか。

 いわゆる“コミュニケーション・デザイン”的なもの、一つのメッセージを、ブログやSNSなどを含めた、多メディアで多層的に展開するスタイルのものは、一巡して飽きられたという印象です。
 今年の傾向は、「コピーの復権(言葉の力)」「エンターテインメント志向(メディアの力に頼らない吸引力をもつ広告)」「Causeによるブランド再定義」の三つでした。
 「Cause」とは、大義、というような意味。売り手と買い手という関係性の中でブランドを少し背伸びさせて見せるというようなこれまでのやり方ではなく、企業、ブランド、消費者を、フラットに社会の中に置き直し、それぞれのそれぞれに対する「大義」をとらえて、メッセージを発信していく、というやり方が、チタニウムや各部門のグランプリ作品や金賞に目立ったと思います。「すごい!」とか「かっこいい!」よりも、「正しい!」という反応が生まれる広告、と言ったら近いかもしれません。
 

原野守弘(はらの・もりひろ)

株式会社ドリル クリエーティブ・ディレクター/ストラテジスト 

1994年電通入社。CCI、D2Cの設立を手がけた後、退社。上場メディア企業の取締役を務めた後、2001年電通に復職。2004年12月から現職。早稲田大学非常勤講師。 D&AD、カンヌ広告祭金賞、グッドデザイン賞、広告電通賞、新聞広告賞など、受賞多数。『探す力』『インタラクティブの法則』などの著述のほか、最近は、作曲家としても活動中。