無意識の思い込みに気付かせる広告表現、当たり前のイメージもアップデート

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 アンコンシャス・バイアスとは、「無意識の思い込み」のこと。「家事は女性が得意」「消防士と聞くと男性を想像する」など、性別に関する思い込みは、代表的なアンコンシャス・バイアスのひとつだ。近年、アンコンシャス・バイアスに配慮するブランドは増えつつあり、広告表現にも反映され始めている。社会課題と真剣に向き合いながら、広告制作や商品開発などを手がけるクリエイティブディレクターの辻愛沙子さんに、アンコンシャス・バイアスに関する現状や、マーケターやクリエイターが意識すべきことなどについて聞いた。

10代の意識を変える、性別の思い込みをなくした広告表現

――広告表現におけるアンコンシャス・バイアスの現状について。辻さんのご意見をお聞かせください。

 ジェンダーにまつわるアンコンシャス・バイアスに関しては、ここ2、3年でフェーズが変わってきました。メディアも、企業も、生活者も、それぞれの意識や向き合い方が日々大きく変化しているように思います。

 セクシャリティに関しても「多様性を"認めよう"」という言葉を以前は頻繁に目にしましたが、違いは"認める"ものではなく当たり前に既にそこに"存在している"ものだという意識が根付き、その言葉の使われ方も変化しつつあるように思います。

 中でも10代の方々は、意識するまでもなく当たり前に"多様であること"を前提とした価値観を持っている世代。教育が与えた影響も少なくないのかもしれませんが、世の中に発信されているドラマや映画、広告などのコンテンツからインプットした価値観が大きく影響しているように感じます。

 アンコンシャス・バイアスに対する広告表現のアプローチは、大きく2つあります。1つは、アンコンシャス・バイアスに関する問いを立てて、気づきを与えるもの。ある特定の偏見や課題に対してストレートに切り込んでいくような意見広告などが挙げられます。

 もう1つは、キャスティングやシチュエーションなどによって、当たり前のイメージをアップデートしていくもの。たとえば、料理や洗濯など、家事にまつわるテレビCMに男性タレントが起用されていたり、ビールのCMに若い女性タレントが起用されていたりするのは、その一例です。

 未だに日本の実社会では、家事育児の負担は著しく女性に偏っているのが現状です。内閣府男女共同参画局の調査では、家事育児にかける時間の男女差が5倍以上という調査も出ており、OECD諸国と比べても倍以上の男女差があります。

 つまり、昨今変わりつつあるテレビCMの表現は、必ずしも現在の世相を反映している訳ではなく、むしろ課題を超えた1.5歩先の社会を写しているともいえるのではないでしょうか。

 しかしだからこそ、無意識の思い込みに気付き、それを無くそうとする広告表現の積み重ねによって、料理や家事は女性がするもの、ビールやアルコール飲料を好んで飲むのは男性という、これまで当たり前とされてきたイメージが少しずつ刷新されていくのだと思います。企業にとっては、顧客層を広げる後押しにもなるはずです。

誰かを置き去りにしない広告表現のために必要なこと

――情報を発信する側が意識すべきことや、やるべきことは何だと思いますか。

 アンコンシャス・バイアスは、ジェンダーをはじめ、年齢や人種、障がいなど、様々な事柄や属性に対して無意識のうちに根付いてしまっている可能性があるという事を忘れてはいけません。特定の事柄だけ意識していれば良い、というものではなく、幅広い視点や学び続ける姿勢が何よりも重要だと思うのです。

 そんな中、私自身が表現を考えるとき、「このコミュニケーションが届けたいと思っている人たちの中で、無意識のうちに誰かを置き去りにしていないか」と、常に意識するように努力しています。

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 ジェンダーバイアスに配慮しようと思って、そこに意識を向けるほど、ほかの属性を無意識に排除してしまう可能性があるからです。

 それを防ぐためにも、当事者をチームに入れたり、多様な視点でのフィルタリングが必要だと考えています。

 無意識のうちに誰かを踏みつけていたり排除していないか、私自身も常に最善を尽くして制作をしていますが、例えどんな人や組織であっても"すべてにおいて常に完璧"というのは中々難しい。だからこそ、日頃から色々な人たちの声に耳を傾け、常々、学んでいく姿勢こそが大事なのではないかと思っています。

――性別によるアンコンシャスバイアスをテーマにした動画コンテンストが開催され、辻さんは選定委員を務めています。コンテストの意義や作品に期待することは。

 権威あるクリエイターが制作し一方的にメッセージを発信し啓発していくという形ではなく、応募型にする事で共に考え作っていく形式なのがインクルーシブで東京都らしいなと感じました。「これが正解」と一方的に届けられるよりも、同じ時代を生きる、様々な年代の視点が入っている作品のほうが、よりリアルで自分ごと化できますよね。

 公募(※)によって集まったエピソードを読んだだけでも、私自身沢山の気付きがありました。この動画コンテストは、アンコンシャス・バイアスについて一人ひとりが考え、それぞれが当事者意識を持つきっかけの場にもなるのではないでしょうか。どんなクリエイティブが生まれてくるか、私も楽しみにしています。

※東京都主催の「女性だから?男性だから?『無意識の思い込み』エピソード募集」のこと。投稿されたエピソードから選ばれた100のストーリーはコチラに公開されています。

辻愛沙子さんも選定委員を務める「性別による『無意識の思い込み』動画コンテスト(東京都主催)」は現在、作品を募集中です。
https://www.ubm-contest.metro.tokyo.lg.jp/
興味のある方はぜひ、ご応募を。