「新しいガストをつくろう委員会」を発足し、現場との距離を近づける

 ファミリーレストランの「ガスト」は昨年9月、「新しいガストをつくろう委員会」と銘打った全社運動をスタートさせた。その核となっているのがインナーコミュニケーションだ。すかいらーく総合企画室マーケティング担当の浅野武司氏に聞いた。

 

大規模チェーンがゆえの
コミュニケーションの困難さを乗り越える

すかいらーく総合企画室マーケティング担当・浅野武司氏 すかいらーく総合企画室マーケティング担当・浅野武司氏

――インナーコミュニケーションに取り組むようになった経緯を聞かせてください。

 競合がなかったころには、極端な話、店を開けていればお客さまが来てくれました。しかしそうした時代が終わった今、お客さまに積極的にアプローチしていかなければなりません。これまでは、企業としての取り組みを、新聞広告やテレビCM、折り込みチラシなどで発信してきましたが、どんな目的でそれを行っているのか、従業員に伝えきれていませんでした。社内アンケートでもそのような指摘はありましたし、全国76エリアの地域を担当するエリアマネジャーに聞いても「現場には伝わっていない」と。当社が目指すブランドイメージを広告でいくらうたっても、それがお店で表現されていなければお客さまには届きません。

 お店に政策を通達する側の本部としては、ねらいや目的は伝えていました。むしろ、伝えているつもりだった、というほうが正しいかもしれません。一方通行だったのです。本部の複数の部署が矢継ぎ早に政策を出して、お店では手が回らなくなることもありました。本部内の横のコミュニケーションも足りなかったため、矛盾を感じることもあったかもしれません。こうした状況を受け、インナーコミュニケーションへの取り組みが急務ととらえました。そこで発足させたのが「新しいガストをつくろう委員会」です。お客さまの意見だけでなく、従業員の意見も聞き、みんなで変わろうという全社運動と位置付けています。

――具体的な取り組みとその成果、また、改めて見えてきた課題は。

 たとえ意見を出したとしても、それを本部が本当に検討してくれると従業員が思っていなかったのではないかと感じていました。そこで、本部の会議に営業担当やエリアマネジャーといった現場に近いスタッフに参加してもらい、従業員から上がってきた意見を現場にフィードバックする体制づくりに取り組みました。専用の社内サイトも立ち上げ、従業員はそこからも意見を投稿することができるようにしました。

 とはいえ、全国1,300店舗で約4万人の従業員が働いていますので、正直、一筋縄ではいかないだろうとは思っていました。実際、現場からは「本当に変われるの?」「目的も、何をしたらいいのかもわからない」といった否定的な意見も多く聞こえてきました。社内サイトで意見を募っても、それに応えきれていないという現実もありました。そこで、月1回各エリアで開催される店長会議に本部のスタッフが出向くなど、できる限り現場と直接コミュニケーションを取るよう努めました。不思議なもので、実際に合って話をすると、こちらの意図もスムーズに伝わるし、現場も率直な意見をどんどん出してくれる。通達された施策に取り組むにしても、うわべだけやるのと、趣旨を理解した上でやるのとでは、明らかに結果が違ってきます。規模が大きいので常に全店を網羅するのは難しいですが、店舗を取りまとめるエリアマネジャーが間に入って動くことで、本部と現場の距離は確実に近づいてきているように感じます。

 

新聞広告は、顧客の信頼を得るだけでなく
社員の「誇り」につながる

2009年10月1日付 朝刊 2009年10月1日付 朝刊

――10月1日には、「新しいガストをつくろう委員会」の新聞広告を出稿しました。

 「ガストは変わろうとしている」という私たちの「本気度」を、内部はもとより外部に向かっても宣言したかったのです。この新聞広告を出したことで、何が何でも成功させなければとさらに本気になり、私たちも店舗に足を運ぶなどして現場の声を聞くことに努めました。こうした積み重ねによって、ますます成果が上がってきているように思います。

 これまで出稿することの多かった折り込みチラシでは、商品の訴求はできても、企業の姿勢や取り組みを伝えるのは難しい。新聞広告ならば、大きなインパクトを持ってそれを発信することができます。また、新聞は何百万もの世帯に配られるので、ガストを利用したことのないお客さまへの来店のきっかけにもなりえます。
今回の広告に登場した従業員からは「子どもに自慢できる」など、喜ぶ声が寄せられています。お客さまにとってみれば、ガストに対する信頼感につながるし、従業員にはガストで働くことに誇りを持ってもらえる。新聞広告にはそんな効果があるととらえています。

――今後の展望について聞かせてください。

 ようやくブランドビジョンが固まってきたので、新聞広告などで明らかにしていければと考えています。また「新しいガストをつくろう委員会」によって、従業員の意識が少しずつ変わってきていることも発表していきたい。そうした情報発信が、また従業員のモチベーションにつながるのではないでしょうか。現場が納得して取り組めるよう、本部内の横のコミュニケーションを強化し、社内サイトも現場を支援していけるよう充実させていきます。また、当社の他ブランドについても、ガストをケーススタディーとしていければと考えています。
2010年は、新しいガスト「元年」ととらえ、お客さま、そして従業員とのコミュニケーションに取り組んでいきたいと思います。