「故郷から本気で世界を狙う」TRILL DYNASTYが語る仕事④ ―音楽で地元に何かできる―

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痛みを分かち合う役割がある

 ヒップホップ曲の作曲と音楽プロデュースの仕事に向き合って約4年、手がけた作品は現在2千曲以上になっています。厳しくとも本気でやろうと、当初ヒップホップの本場アメリカへ直接SNSで曲を送り続けた結果、チャンスを得て仕事は順調に広がっていきました。これからも故郷の茨城県を拠点として、ずっと音楽作りに携わる裏方でいたいと思っています。それは僕の創作目的が、音楽をやりたい仲間や自分の居場所がない若者の活躍の場を作ることだからです。
 音楽界ではまだ新しいヒップホップは、心の痛みや怒りなどの表現としてアメリカで自然発生したと言われています。僕が以前アメリカへ作曲の仕事で行った時、音楽スタジオの裏で怪しい薬物のやり取りをしている若い連中がいました。声をかけると「全く仕事がないからこんな危ないことをやるしかないけれど、それでも音楽がある所にいたい」と言う。差別や貧困、疎外された人生に直面していても、何とかして抜け出したいというハングリーさが半端じゃないと感じました。
 過酷な状況でも音楽で道を開こうとする悲痛な本気に、僕は打たれるんですね。毎日生きることに精いっぱいで、音楽のスキルを身につけるにはほど遠い環境で育ちながら、ただ自分の表現一つではい上がってくる。日本では、食べていくだけの手段ならアメリカほどの切迫感はないのではないかと思う。それでも、世間とは違う生き方を選んだ場合の疎外感は強いし、貧困から逃れられない若者も少なくないと感じます。
 そんな中でアメリカでは、元は不良だったのに都会で成功し、ラッパーとしてスターになったら手に入れた報酬を自分の地元にアウトプットすることは当たり前のようでした。やり方は様々ですが、地元で自分と同じようにはみ出してしまった仲間や後輩に対して、その痛みを分かち合っているのでしょう。僕は不良のままでいるやつは好きではないけれど、その本人が地位を築いて意識せずに社会的な行動をしている姿には美学を感じます。

自分の評判より大切なことへ

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TRILL DYNASTY氏

 ラップスターたちの社会的な行動を尊敬していても、僕にはまだそれを実行できるだけの十分な力が足りません。でも、地元にいて仲間や茨城の応援を今後もするべきだと思っています。例えば憧れの先輩ラッパーであるt-Ace(ティーエース)の翼さんは、7歳の頃に茨城県水戸市に移り住んだそうですが、非行少年時代を経てDJからラッパーになり、今は日本でトップクラスの人気を誇る一人。彼も故郷を大切にしていてツアーには必ず水戸を組み入れ、多くのファンを集めて経済的にも貢献しています。
 僕の仕事歴は、どこの会社か、あるいはどんな職種かといった選択で積み上げたものではなく、人に背を押されたりきっかけをもらったりして、できることを試してきたものの歩みです。そしてこれならいけると決めたら、手を緩めずに努力してきただけ。こうやってメディアにお話しするのも、目指している役割のために背水の陣を敷いているのかもしれません(笑)。生意気だ、ビッグマウスだと言われても、僕自身はぶれずに胸にあるゴールへ向かっていきます。

TRILL DYNASTY(トリル・ダイナスティ)

作曲家、音楽プロデューサー


1992年茨城県生まれ。2015年DJとしてキャリアをスタートし、18年作曲家に転身。21年米国ラッパー、Lil Durkのアルバムの楽曲制作に携わり、米ビルボードのR&B/ヒップホップ部門で日本人の音楽プロデューサー初の1位を獲得、EST Geeのアルバムでも5位獲得。国内でも活躍。いばらき大使。