社会、個人にとって不可欠なメディア=「ベースメディア」   「新聞ベース」生活者の特性とは?

 日本新聞協会が、「2009年全国メディア接触・評価調査」の結果を発表した。5回目となった今回の結果について、調査を監修した慶應義塾大学商学部教授の清水聰氏にポイントを聞いた。

「ベースメディア」によって
生活行動や志向に違いがあった

慶應義塾大学商学部教授 清水聰氏

――今回の調査でどこに注目すべきかを聞かせてください。

 大きく二つのポイントがあります。一つ目は「新しい評価軸としての『ベースメディア』の提案」です。
 メディアが多様化し、消費者は複数のメディアを使い分けるようになっています。その中でも「このメディアが自分にとって一番大事」という、いわば基幹となるメディアは人によって違うはずです。今回の調査では、「自分」と「社会」にとって、各メディアがそれぞれどの程度不可欠だと考えているかを聞き、それに対し「なくてはならない」と答えたメディアを「ベースメディア」と位置づけました。すると、「自分」と「社会」にとってのベースメディアには強い相関関係があることが確認できました。また、ベースメディアは、「このメディアだけで必要な情報が十分に得られる」「集中して見聞きする」「一日の始まりに見聞きする」という共通の評価がされていることもわかりました。そこで、重視するベースメディアによって生活行動や考えにどのような違いがあるのか、分析してみました。

――分析結果について解説してください。

 新聞、テレビ、インターネットについて調べたところ、最も多かったのはテレビをベースとする人で、次いで新聞、インターネットの順でした。また、新聞ベースの人は「社会・環境に関心が高い」「リーダー素養志向」、テレビベースの人は「世の中の動きに身を任せる」「大手・売れ筋志向」、インターネットベースの人は「自分へのこだわりが強い」「流行志向」などと、重視するメディアによって生活者の志向が異なることが見えてきました。また、インターネットだけの人は、情報収集の奥行きはあるものの、幅があまりない。一方、新聞がベースメディアという人は、社会の色々なことを広く網羅しているという傾向がありました。これらの特徴は、年代による特性の要因を統計的に除いても、はっきりと表れました。

 実際は、いくつかのメディアを組み合わせて情報収集をしている生活者がほとんどです。そこで、メディアの組み合わせによる志向パターンの違いも分析しました。中でも、新聞とインターネットを組み合わせている人が、世の中の常識は把握しながらも自分が興味を持つことは深く掘り下げていて、情報の間口と奥行きのバランスが非常にいいようです。ちなみに、メディアの組み合わせによる属性を見てみると、新聞とインターネットをベースメディアとして組み合わせている層が断トツで年収が高いという、とても興味深い結果が出ました。

生活者の10の志向 清水聰氏 ※日本新聞協会「ベースメディアと生活者-新しい評価軸を考える-」より(n=3,682)

――調査のもうひとつのポイントは?

 「メディアによる認知・関心と購買後の満足・情報共有との関係」です。これは、2007年調査の続きでもあります。
 これまで、広告メディアは「購買につなげる」ことが主な役割と考えられてきました。しかし、最近は買った後の感想をブログやツイッターなどネット上でクチコミするケースが増えてきていることから、購買後に感想を人にしゃべってもらう=「情報共有」のための条件を見ていかねば、という視点を加えました。前回までの調査で、購買前に何らかのメディアで「認知・関心」した場合のほうが、購買後に「満足」することがわかっています。今回は一歩進め、満足した人が果たして「情報共有」をするのかどうかを調べました。すると、購買後に満足した場合、半数以上の人がだれかに感想をしゃべっており、一方、満足していない場合は、わずか4%程度の人しか情報共有の行動をしていないことが明らかになりました。つまり、「認知・関心」を持って「購買」し、「満足」した場合のほうが「情報共有」をする、ということが明らかになったのです。

クチコミを視野に入れた
メディア戦略の可能性が見えてきた

――そうした消費者行動が明らかになる中、新聞広告にはどんな役割が期待されているのでしょうか。

 購買前の「認知・関心」の段階で新聞などのメディアに接していると、「満足」だけでなく「情報共有」も高まることがわかりました。そのメディアが新聞の場合、「満足」の割合は一層高くなっていました。このことから、新聞広告は「認知・関心」にとどまらない役割が期待できるのでは、と見ています。
 また興味深かったのが、「認知・関心」を持って「情報探索」をする、あるいは「店頭に行く」とき、友人や知人、家族といった人たちのクチコミを経由すると、購買後に情報共有をする割合が高くなっていたことです。インターネットのクチコミばかりが注目されますが、口から口へのリアルなクチコミも、改めて注目していく必要がある、と感じています。

 景気がなかなか回復しない今、企業は即効性を求めて、値引きやプロモーションといった手段に走りがちです。しかし、それは消費者に「認知・関心」を持たせることなく、さらにクチコミなどの人的メディアを通すことなく、買わせてしまう行為とも言えます。確かに目先の売り上げは伸びるかもしれませんが、買った人が満足し、情報共有してもらうことまでを視野に入れるならば、新聞をはじめとしたマスメディアをうまく組み合わせる戦略が必須でしょう。

――今回の調査から見えてきた新たな展望、課題があれば聞かせてください。

 近代のマーケティングでは、マーケットをいくつかのセグメントに分ける「セグメンテーション」、セグメンテーションしたどの層を対象にするかの「ターゲティング」、ターゲットの間で自社の商品やサービスをどのポジションに置いて売るかの「ポジショニング」という三つの段階(STP)を踏むことが基本とされています。これまでのメディア戦略では、たとえば「ホワイトカラー向けの商品だから新聞広告」「主婦向けの商品なのでテレビCM」というように、ターゲットを考慮して使うメディアを決めてきたケースがほとんどでした。しかし、「ベースメディア」による評価軸をセグメンテーションに利用すれば、これまでとは違ったターゲットの設定も考えられるでしょう 。例えば、「リーダー素養の高い人をターゲットにしていきたいので、新聞中心で」といったメディア戦略を展開することも考えられます。
 さらに、「どんな商品に育てていきたいか」というポジショニングを、メディアの使い方や組み合わせ方によってコントロールできるようになるのでは、とも見ています。今後機会があれば、ポジショニング戦略としてのメディア、というような調査・分析もぜひやってみたいですね。

清水 聰(しみず・あきら)

慶應義塾大学商学部教授

 慶應義塾大学大学院商学研究科博士課程修了 博士(商学)。明治学院大学経済学部教授を経て、現在慶應義塾大学商学部教授。日本商業学会 学会誌編集長、日本消費者行動研究学会理事。主な著書に『新しい消費者行動』『消費者視点の小売戦略』『戦略的消費者行動論』(すべて千倉書房)

Information

 (社)日本新聞協会では、「2009年全国メディア接触・評価調査」の結果をまとめた報告書とパンフレットを発行した。「全国メディア接触・評価調査」は、全国の男女個人を対象に、2001年から隔年で実施している調査。このコーナーで取りあげたベースメディアと生活者調査の内容以外に、新聞、テレビ、ラジオ、雑誌、インターネットの5メディアへの接触や評価が掲載されている。
この報告書とパンフレットは、協会の「新聞広告データアーカイブ」からダウンロードすることができる。
【お問い合わせ】日本新聞協会広告委員会 03-3591-4407