(3)新聞閲読者を動かす新聞広告の特徴1

検索を促すクリエーティブインサイトの分析事例を報告

 これまでの連載((1)『新聞閲読者の検索行動の量的、質的アプローチ』、(2) 『新聞閲読者の検索行動の特徴とは』)からの報告を通じ、量的および質的な側面から、新聞閲読者の検索行動の特徴について報告してきた。

 

 まず、量的な側面をみると、1週間におけるインターネット利用時間と検索回数では非閲読者が多いものの、検索者率では新聞閲読者の方が多い傾向がある。しかし、検索行動自体のコモディティ化(一般化)が進み、新聞閲読者と非閲読者では大きな差が見られなくなっていることも確認できた。質的な側面では、分析対象として挙げたM1層において、新聞閲読者は非閲読者と比較すると、暇つぶしなどではなく積極的な目的意識を持って検索を行う傾向があることが分かった。

 また、検索ワード数の出現分布をみると、新聞閲読者では「ヘッド型」、非閲読者は「ロングテール型」の検索行動の傾向を示しており、新聞閲読者の検索行動を通じた社会的事象への興味の高さが見て取れた。さらに、社会的事象の典型である「選挙関連ワード」の新聞閲読者の検索者率では、非閲読者のスコアを大きく上回っていた(※ 1)。新聞を通じた広告メッセージにおいて、新聞閲読者の「ソーシャルイシュー」への高い関心を考慮した要素を盛り込むことにより、検索行動が促進される可能性があるのではないかという仮説が成り立つと結論づけた。

 今号からは、どのようなメッセージが検索行動に影響を与えているのかなど、新聞広告を効果的に活用するための具体的な事例を紹介する。さらに、検索数を獲得する新聞広告の特徴や、検索反響データから見えてきたクリエーティブインサイトについても報告する。

広告掲載前後の平均検索数の推移に着目

 まず分析対象として、2007年から2009年までに朝日新聞、読売新聞、日本経済新聞のいずれかに掲載された主に全15段多色の広告78件を選定した。また、検索の際に使用する可能性がある検索ワードを広告コピーから複数抽出し、当該広告が掲載された新聞の閲読者(以下、『当該紙閲読者』)の1日あたり平均検索数の推移を、掲載前後で比較した。

 分析にあたっては、「dentsu-CONNECT MEDIA®」(※2)を使用した。たとえば図1に示すように、特定期間の当該パネルの日別検索数を把握することなどが可能である。「広告掲載前7日間(掲載日含まず)」と「広告掲載後3日間(掲載日含む)」の検索数の変化に着目した。他の情報源からの影響も考えられるが今回は考察から除外し、新聞広告の掲載が当該紙閲読者の検索行動におよぼす影響や、検索を促すクリエーティブインサイトを探ることを試みた。

図1:「dentsu-CONNECT MEDIA®」検索数推移分析例

広告78件の広告掲載前後の平均検索数でクリエーティブを整理

 78件の広告について、検索数が上昇した事例を見ると、社会的事象に関するメッセージや、社会的な興味にまつわるクリエーティブが多くを占めた。これを整理すると、大きく以下の3カテゴリーに分類することができた。

 1.ソーシャルイシュー系:読者があらかじめ関心を持っている社会的事柄や関心事に関するメッセージ(例えば、環境、健康、食料など)

 2.事件性・時事性インパクト系:新聞広告の露出のタイミングに意味性が大きく、露出のしかたにインパクトを伴うメッセージ

 3.プラスワンニュース系:誰もが一定の関与があるブランドや概念に新しい要素が加わり、周りの人に取り残されないように知っておきたいと感じるメッセージ

 これらのカテゴリーに属する広告は、新聞閲読者の検索行動を促進する可能性が高いといえそうだ。そこで、各カテゴリーを代表する広告事例について、分析データとともに紹介していく。

広告78件の広告掲載前後の平均検索数でクリエーティブを整理

「ソーシャルイシュー系」広告:◎FOOD ACTION NIPPON、◎JR東日本

 いずれも当該紙閲読者の検索数が2割以上増加している。FOOD ACTION NIPPONのクリエーティブは、食料自給率の向上を啓発したものである。社会性の高い内容について、人気音楽イベント「ap bank fes」と人気プロデューサーである小林武史氏のコメントを通したメッセージとして発信した。日本の食料自給率の低迷は、同活動を通して社会的なテーマとして認知され始めており、食の安全など食にまつわる情報が社会的関心事となったことで、幅広い層の興味を喚起したのではないだろうか。

 また、JR東日本のクリエーティブは、禁煙・分煙が社会的に一般化する中で、社会インフラとしての鉄道会社が禁煙措置をとるというメッセージである。喫煙者にとってはもちろん、禁煙者にとっても社会的な関心事にそったメッセージとして、多くの人の関心を促す内容だったといえる。 

 2つの事例に共通して、新聞閲読者があらかじめ持っている社会的に重要な事象(ソーシャルイシュー)への関心を刺激し、検索行動を促進した事例だといえるだろう。

ソーシャルイシュー系

「事件性・時事性インパクト系」広告:◎日本レジストリサービス

 これらの広告でも、やはり当該紙閲読者の検索数が2倍以上増加している。日本レジストリサービスは、朝日新聞に「今朝、読売新聞に出ていた広告です。」といったメーンコピーを掲載した。新聞閲読者は、このクリエーティブにより、朝日新聞のみならず読売新聞にも掲載された内容であると知り、今このタイミングで重要な事柄という印象を受けたのかもしれない。あまねく新聞各紙に掲載される情報は、新聞閲読者にとって社会的な時事性が強いメッセージとして受け止められただろう。また、朝日新聞に「読売新聞」というワードが記載されているというインパクトにより、事件性を帯びた印象を与えたともいえる。

事件性・時事性インパクト系

 新聞メディアの特性として、そのタイミングで知っておくべき時事的な情報を、事件性をもって伝えることが挙げられる。いずれの事例も、タイミングをはかり、意味性を伴ったインパクトのあるメッセージとともに広告を掲載することにより、新聞閲読者の社会的な興味を刺激し検索行動を促進したのではないかと考えられる。

 次回は、残りの「プラスワンニュース系」カテゴリーの事例とともに、検索を獲得する新聞広告の活用手法とクリエーティブインサイトについても、引き続き報告していきたい。 (第4回に続く)

 (※1)分析対象期間には、第45回衆議院選挙が行われた
(※2)全国1万数千人パネルの自宅パソコンにソフトをインストールし、ウェブ行動を24時間365日追跡可能なビデオリサーチインタラクティブの「WebReport/WebPac」をデータソースとして、インターネットでのサイト接触や検索履歴データを基点とした分析が可能

(電通 ビジネス統括局 プラットフォーム・ビジネス開発室
マーケティング・スーパーバイザー 春田英明/チーフアナリスト 魚住高志/リサーチャー 廣田周作)

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