安全なクルマを選んだ、その先の人生を想像させる

 富士重工業は、スバル独自の「総合安全」を訴求するキャンペーン広告を展開しています。テレビCMと連動して、新聞広告も出稿。顧客の間口を広げる狙いで、女性が共感しやすい表現にこだわっています。

従来のスバルの広告とは異なる女性を意識した表現

大高慎哉氏 大高慎哉氏

 「同業他社との差別化を図るために、2015年度の広告では、スバル独自の『総合安全』を新たな切り口で訴求しています」そう語るのは、富士重工業 スバル国内営業本部 マーケティング推進部 宣伝課主事の大高慎哉氏。スバルが考える「総合安全」とは、安全な運転を支える性能や技術に加え、事故のない未来をつくることも含まれている。それらを訴求しているのが「New SUBARU SAFETY」と題したキャンペーンだ。2015年5月から3カ月連続で朝日新聞朝刊に全15段広告を掲載した。

 メインビジュアルは、クルマではなく人。写真のトーンも柔らかく、優しい印象に仕上げているのが特徴だ。これまでのスバルの広告とは異なる、女性が共感しやすい表現にこだわった。「スバルの購入者はクルマ好きが多く、年代も50代から60代の男性が中心。顧客の間口を広げ、より多くのお客様にスバルを知っていただくために、訴求内容をはじめターゲットも見直しました。また、アイサイトを搭載したインプレッサを発売した3年ほど前から、安全性という切り口でスバルに興味を持つ女性が増えてきている、という現場の意見も反映しました」と、大高氏は説明する。

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2015年1月31日付 朝刊 2015年1月31日付 朝刊

 その手始めとして、今年1月31日付朝日新聞朝刊にアイサイトの広告を掲載。「クルマは、人生を乗せるものだから。」というキャッチコピーと子どもの寝顔や女性グループ、夫婦の写真を組み合わせ、アイサイトがもたらす幸せな光景を表現した。

 「社内では、アイサイトの機能をもっとダイレクトに伝えたほうがいいのでは、という意見もありました。しかし、『ぶつからない』という表現は、他社でもやっています。そこで、『ぶつからない』ことがもたらす本質的な価値とは、というところまで踏み込み、『大切な人を安心して乗せたいから』という気持ちを表現することで差別化できると考えました」

 そして、5月からのキャンペーン「New SUBARU SAFETY」では、アイサイトをはじめ、スバルの安全性能の技術的な裏付けを、物語仕立てにして伝える訴求を始めた。新聞広告とテレビCMを連動させ、「安全なクルマを選んだ、その先にある豊かな人生を描いています」と大高氏。

 6月と7月に掲載した広告では、情緒的な表現に加え、スバルの総合安全の解説として、予防安全と衝突安全を図解した。「説明的すぎると情緒的な表現がうそっぽくなってしまう。その割合は、まだ模索している段階」だと言う。

2015年5月22日付 朝刊 2015年5月22日付 朝刊
2015年6月12日付 朝刊 2015年6月12日付 朝刊
2015年7月24日付 朝刊 2015年7月24日付 朝刊

女性とスバル ミスマッチが説得力を高める

 これまで同社では、新聞広告は新商品の発売を告知するときに利用することがほとんどだった。だが、今回はブランディングが目的で、特定のクルマを宣伝するものではない。「新聞広告はテレビCMとセットで、興味関心を持ってもらうきっかけをつくる役割です。理想は『安心と言えばスバル』と認知され、お店に来て自分にあった車種を選ぶという流れをつくること」と大高氏。

 女性に期待していることは、クチコミによる拡散だ。「ふだんはクルマにあまり関心がなさそうに思われがちな女性が、男性客が多いスバルについて『スバルの車はいい(クルマ)らしい』と語っていたら、初めは違和感があると思うんです。でも、イメージと違うからこそ客観性があり、第三者の意見として説得力が増すとも考えられます」

 工夫したことは、想像力をかき立てるビジュアルづくり。笑顔が印象的な写真をメインビジュアルにすることで、安心なクルマだとイメージさせている。「言葉でハッキリ伝えていないので、人によっては理解されないというリスクもあります。でも、そのリスクがあったとしても、見る人それぞれが想像できる表現のほうが、女性にとっては自分ごと化しやすくなり、クチコミにもつながりやすいと考えています」

 大切な人を安心して乗せられる、その答えをスバルはわかりやすく伝えてくれている─。広告を見た感想をSNSで発信する女性もいたという。「メーカーが自分で言うには恥ずかしいようなことも、自分の言葉でストレートに表現してくれるのも、女性ならではだと思います」

 今後も、世界観を変えずにキャンペーンは継続していく予定だ。「子どもの寝顔のビジュアルは、ユーザー調査からも私たちの意図が伝わった実感があります。そのことを踏まえ、総合安全をどのような切り口で表現しようか検討しているところです」