映画公開1年前からPR アニメキャラクターが企業CMに出演

 「攻殻機動隊S.A.C.」シリーズなどのアニメーションで知られる神山健治監督の最新作「009 RE:CYBORG」は、この秋の話題作だ。この映画の広告宣伝を立案してきたのは、博報堂のグループ企業「スティーブンスティーブン」。「1万時間の映画体験」というコンセプトを掲げ、映画のPR活動は約1年間にわたった。同社でプロデューサーを務める木村淳之介氏に、その手法、反響などについて聞いた。

神山監督もPRに関わり 高品質のCMを制作

木村淳之介氏 木村淳之介氏

――「009 RE:CYBORG」の「1万時間の映画体験」について教えてください。

 「009 RE:CYBORG」の映画広告を手がけるにあたり、定型化した映画の宣伝手法を見直すことから始めました。一般的な映画の宣伝期間は、公開の1カ月前や2週間前という短期集中型。それを1年前からスタートさせようとしたところが特徴です。1万時間とは、1年余りの期間に相当します。
今はインターネットをスマホで誰でも気軽に楽しめる時代で、日常的にコンテンツを楽しむ機会は、昔に比べてずっと増えていると思います。そういった時代背景からも映画の宣伝方法を見直すことが必要であり、新たな手法を見出し挑戦していこうと考えたのです。そこから、映画を見る前の時間を含めて楽しむ「1万時間の映画体験」となる何かを発信しようと考えました。 

――その事例の一つが、スタッフサービスのウェブキャンペーンですね。

 スティーブンスティーブンという企業が目指すのは、アニメーション作品に込められた価値や可能性を顕在化させ、それらを企業の課題解決に応用することです。神山監督とタッグを組んで、企業の課題に真剣に向き合い、解決方法を導きだしていく。それがスティーブンスティーブンの神髄です。

 そういった僕らの目指すことと「009 RE:CYBORG」という神山監督の作品に賛同してくれたクライアントと一緒に、1万時間の映画体験となるコンテンツを制作しました。スタッフサービスのキャンペーンでは、「サイボーグ003」として登場するフランソワーズ・アルヌールがスタッフサービスと広告契約を結んだという設定です。例えば、歌手や役者がバラエティー番組に出演していると、その人物の新たな側面が見えて親近感が持てたりしますよね。それと同じような効果も期待できると考えたものです。
企画の段階から神山監督や石井プロデューサーが携わり、キャラクターの動きひとつをとってもハイクオリティーに制作されています。

――今回制作されたCMに登場するアニメーションのキャラクターを通じて、映画に興味をもった方も多いと思います。

 アニメキャラクターの性格や特徴を生かして企業のマーケティングを行うことは、新しい手法として採用されていくと確信しています。かつては「アニメーション=子ども向け」、近年は「アニメーション=オタク」といったアニメーションに対する先入観のようなものを、クライアントと共に乗り越えることができたとも思っています。今回は映画のPRとリンクさせていますが、アニメーションの潜在能力は、企業のマーケティング活動にまだまだ生かせると思っています。

リアルにファンタジーを織り込み これまでにないコミュニケーションを作り出す

――神山監督ファンにとっても刺激的な1万時間だったと思います。

 映画のPRでもあり、企業の広告でもある。それと同時に神山健治監督の作品でもあるというスタンスで制作しています。神山監督ファンはもちろんですが、誰がどういう切り口で見ても、ワクワクしたり、何かしら印象づけられるように作られているのです。たまたま映像を見た人が神山監督の作品に興味を持つきっかけになった可能性もあると思います。

 実際に、スタッフサービスのキャンペーンサイトには100万を超えるアクセスがありました。神山作品ファンはもちろん、それ以外の方々にも興味を持ってくれたからこその数字だと思います。また、9月末から公開している予告編は2週間もたたずに30万を超えるアクセスがあり、1万時間の映画体験に見合うコンテンツを発信してきたと手応えを感じています。

――これから、ますますアニメーションのクリエーティブノウハウや価値が見直されていくのではないでしょうか。

 リアルの中にファンタジーを織り交ぜて表現する世界観は、弊社の社長の古田彰一がクリエーターとして見いだした表現のひとつだと思っています。その先駆けとなったのは、多部未華子さんが「サイボーグ022」として登場するスタッフサービスのCMです。リアルな世界とアニメーションのファンタジーを織り交ぜて表現したものです。また、アニメーションである「009 RE:CYBORG」にもかかわらず、実写を使った予告編もそのひとつ。アニメーション映画と聞いただけで「自分には関係のない分野」と関心を閉ざしてしまう人は、まだまだ多い。そういう人たちに向けて「これは洋画のように楽しめるアニメーション映画です」というメッセージを投げかけようと、神山監督に実写のディレクターをサポートに加え、スティーブンスティーブンとのコンビネーションで作りました。最近手がけたDeNAのCMも、特撮とCGによってファンタジーと現実世界を融合させています。

 今後も企業の課題解決に向けて、アニメーションのクリエーティブとマーケティングノウハウを用いて、今までになく新しいコミュニケーションをクライアントと共に制作し、世の中に発信していけたらと考えています。

2012年10月25日付 朝刊 全30段

2012年10月25日付 朝刊 全30段