羽田国際化は国際線ネットワーク拡充のチャンス

 羽田空港の国際定期便再開に合わせ、羽田=ロサンゼルス・ホノルル・バンコク・シンガポール・台北(松山)の新規5路線を開設した全日本空輸(ANA)。待ち望んだ「悲願」が実現した今を「チャンス」と位置づける同社の戦略を、営業推進本部 グローバルレベニューマネジメント部 主席部員の津田佳明氏に聞いた。

羽田は市街地至近・国内線集積・24時間空港

津田佳明氏 津田佳明氏

――羽田空港国際化のメリットとは。

 羽田空港には、「市街地に至近」「国内線の集積」「24時間空港」という3つの大きな特長があります。都心からのアクセスのよさはご説明の必要はないでしょう。国内線に関してANAの場合、成田空港で飛んでいるのは8路線ですが、羽田空港の運航は39路線。国内各地との接続面で、大きなメリットがあります。また成田は6時から23時までという運用時間制限がある一方、羽田は深夜帯も活用できるのが大きなポイントです。

 さらに国際線と国内線をあえて区別せず、東京発着路線の旅客数を見てみると、昨年のトップ15の中に4位のソウルを筆頭に上海、台北、香港、ホノルル、バンコクといった国際線がかなりの割合で食い込んでいます。都心とのアクセスや国内線との接続が良好な羽田発着の国際線が拡大すれば、お客様の動きがより活発になるのではないかと思います。

 今回ANAが羽田に新設した国際線は、需要規模が上位の路線と結果的に合致します。羽田の立地性から、ビジネスをより意識して市場を開拓する路線も加えてはどうかという声もありました。しかし、そもそもANAの日本発着国際線のシェアはまだ約10%です。現状の需要に供給力が不足していた部分も大きく、まずはそこを拡大しようと考えました。

――得意としてきた国内線ネットワークを生かした、地方需要の掘り起こしにも期待がかかります。

 現在、日本から海外へと出国される旅行者は2,300万人。そのうち、地方空港(成田・羽田・名古屋・関西以外)を起点とする旅行者も相当数いらっしゃいます。その方たちは直行便のある一部の中国・アジア以外の都市へは、乗り継ぎで出国されているわけです。そこで、「接続」という面から地方需要のニーズを掘り起こせる、大きなチャンスだと思っています。

 たとえば、1日の仕事を終えたビジネスマンが国内39の地方空港から羽田にいらして、23~24時台出発のシンガポール便、ロサンゼルス便、ホノルル便、バンコク便などを利用いただくといった展開が可能です。

 特に地方圏ではこれまで、韓国の航空会社がマーケットシェアの3割以上を占めており、存在感を増しています。これは韓流ブームだから皆さん韓国に観光で行かれているとは限りません。仁川空港のハブ機能を利用して、北米やアジアなどに行く方がかなりの割合でいらっしゃいます。羽田の国際化はそういった方たちも含めてお客様を取り込むチャンスだと思っています。

――羽田のメリットを、どのように社会に伝えてきましたか。

 メーンのターゲットは、ビジネスのお客様です。ですから、「ビジネスの現場からその日のうちに羽田へ、そして現地に着かれたら早速ビジネスへ」といった、1日を無駄にしないスムーズな流れの拠点としての羽田を広告などで伝えています。例えばメンバー用ラウンジも、軽食だけでなくしっかり食事をとっていただけるようにダイニングをご用意したり、ビジネス機能やシャワーなどアメニティー設備も充実させたことをアピールしました。

今後の大きなテーマは非日系マーケットの拡大

――現状の予約状況はいかがですか。

 新規5路線に関して、11月の予約(搭乗)率はすべて85%を超えていますし、12月もほぼ同等の数字になると見ています。羽田空港でANAの国内線と国際線の接続を利用されたお客様は、11月全体で約1万2千人。1日あたり約400人となっており、好調な滑り出しができたととらえています。

 それと、ANAでは成田発着の国際便を羽田に移行したわけではなく、新たに新路線をアドオンしたわけですから、成田路線の推移も見守る必要があります。成田路線の11月の予約率は羽田と同水準、12月は羽田よりも高水準で、現状では両者とも堅調といえます。

――羽田国際化に合わせて、「きたえた翼は、強い。」というメッセージで企業広告を新聞、テレビなどで展開しました。

 羽田国際化は、ANAにとって長年の待望だった拡大期の到来です。一方で、世界の経済状況は厳しく、特に日本はリーマンショックから完全に回復したとはいえない状況です。しかし、タイミングは今しかないわけですから、時代の空気を見ながら、お客様に伝わるメッセージを発信しようと思いました。

 広告でも語っているように、ANAの歴史は創業以来58年間、厳しい時代を何度も経験してきました。それでもさまざまな困難も乗り越えて、ヘリコプターから飛行機事業へ、国際線就航、そして今日を迎えているわけです。その強さで今の困難を乗り切り、時代に立ち向かっている方たちを応援したい。それがこの広告キャンペーンにこめた思いです。

2010年9月25日付 朝刊 全15段 全日本空輸 2010年9月25日付 朝刊 全15段
2010年10月30日付 朝刊 全7段 全日本空輸 2010年10月30日付 朝刊 全7段

――国際路線を中心に、今後のANAの展開について聞かせてください。

 羽田については、今回昼間時間帯ならびに深夜時間帯で新路線就航や増便が実現したわけですが、2014年にはさらなる昼間時間帯の発着枠の拡大が予定されています。それが次の大きなチャンスとなるわけですが、もちろんそれまでもお客様の利用状況を見ながら、羽田利用のよりよいあり方を検討しサービス向上に努めていきます。

 マーケティング面では、邦人マーケットが成熟を迎えた中で、非日系マーケットの開拓がより重要になります。ANAはこれまで海外のサイトでも使用言語が日本語と英語、決済は日本円のみと、邦人マーケット偏重のセールス環境でした。現在では現地の言語や通貨決済で使えるようウェブのグローバル対応を進めています。また訪日需要喚起ということでは、短期的には政治的緊張による落ち込みはありますが、やはり長期的には中国人観光客をいかに呼び込むかが重要です。

 収益力の強化という面では、昨年12月に日米間で基本合意された「オープンスカイ」のスキームの活用がひとつのテーマです。ANAはユナイテッド航空、コンチネンタル航空とのスターアライアンス3社において、「ジョイント・ベンチャー」といわれる戦略的提携を組み、一体的なビジネス展開を行うためのATI申請(反トラスト法適用除外申請)の認可を国土交通省およびアメリカ運輸省から受けました。これによって、フライトスケジュールや運賃、法人セールスなどにおいてパートナー間で戦略的な調整が可能となり、さらに全体の収益をプールし、供給量などに応じて配分する効率的なビジネスモデルが構築できます。

 かつて羽田が国際空港だった成田空港開業以前、ANAは国内路線専業の航空会社でした。羽田はANAにとってもっとも深い関係のある空港のひとつであり続けましたが、世界へ羽ばたくという意味では、今年から新しい歴史を共に歩みます。その喜びを胸に刻みながら、お客様にとってよりよいサービスを提供したいと思っています。