大塚製薬は、第97回全国高校野球選手権大会が開催された期間中、朝日新聞の朝刊の高校野球特集面にポカリスエットのシリーズ広告を毎日出稿。ナインに選ばれなかった選手、出場校のブラスバンドやチアリーダーなど、球児を応援する存在を一人ずつフィーチャーし、SNSでも話題に。実際の売り上げにもつながった。10代をつかむ戦略をこれからも強く進めていく。
10代のシェア獲得を狙う一環で高校野球特集面に出稿
宣伝部 課長 上野隆信氏
今年も白熱のうちに夏の高校野球大会が幕を閉じた。話題の選手が多く、例年以上に世間の関心を集めたが、大塚製薬が高校野球特集面のシリーズ広告で取り上げたのは、試合に出ている球児たちの周りの存在だ。予選で敗れた高校の選手、出場校のブラスバンドなど一人ひとりに焦点を当て、そのリアルな心情を描いた。
同社宣伝部の上野隆信課長は「ポカリスエット自体は、常に傍らにあって潤してくれる脇役であり、あくまで主役は飲む人だと捉えています。それになぞらえて、主役の球児を脇で支える存在に着目しました」と、その意図を話す。全体を貫く「応援する人の渇きにも」のコピーも、このシリーズ広告のために書かれた。
発売35周年を迎えたポカリスエットは、消費者に広く浸透している一方、「常に新しい面を見せていかなければ、古い商品だと認識されてしまう」(上野氏)という課題がある。鮮度を維持することは、ブランドの使命だ。
今年は2つの広告を展開している。年初に始まった製品価値を伝えるための母と娘のシリーズと、ターゲットである若年層に向けたブランド醸成のための高校生のシリーズだ。商品とともに育った層をターゲットに、冬の乾燥などシーズン訴求を行う前者に対して、軸足を置くのは後者。今年、10代のシェア獲得に戦略的に取り組む方針を打ち出した。
もちろん、これまでも若年層との接点づくりを行ってきた。例えば同社では何十年も前から、熱中症対策の知識の提供や商品の理解促進のため、野球部に限らず全国の学校やスポーツ少年団などで指導者や選手への説明会を実施している。こうした活動に、10代のシェア獲得という方針が重なって、今回の高校野球特集面での広告展開が実現した。
甲子園は10代のビッグイベントであり、世間の注目度も高い。「各世代の到達率を考えると、新聞は外せない媒体だった」と上野氏。具体的には8月7日から21日までの朝刊高校野球特集面に、毎日異なるシリーズ広告を出稿したほか、別刷り甲子園特集や号外にも広告を掲出した。
「一生、球児なんだよな。」リアルなコピーで共感誘う
特にシリーズ広告は、この企画のためだけに制作されたクリエーティブだ。これについて上野氏は、次のように語る。
「今回は、やはり甲子園の開催期間中に毎日出稿できるという枠組みが重要でした。甲子園に親和性の高いクリエーティブで、新聞ならではの文字を通して、興味を持って読んでいただくことが、何より大事だと考えました」
クリエーティブの方針は、主に2点。冒頭で紹介した「試合に出るナイン以外の“脇役”を取り上げる」ことに加え、「読む人の心に響くリアリティーを追求する」ことだ。制作チームでは、最初に高校野球の経験者などへ綿密なヒアリングを実施。広告掲載の14日間分、14人のキャラクターをつくり、その気持ちを丁寧に言葉にした。野球部OBの男性の「結局みんな、一生、球児なんだよな。」というくだりは、野球の話に盛り上がるヒアリングの場で、コピーライターが実感したことが元になっている。
まるで現場で撮ったような真剣な表情も、効いている。「オーディションでは実際に応援する演技をしてもらい、表情を見ながら選びました」と上野氏。「暑すぎると楽器の音が変わってしまうなど、経験しないと分からないことが随所に盛り込まれたコピーと、この表情が相まって、掲載期間中からTwitterなどで反響が現れ始めました。『分かる、分かる』という声も多く、リアリティーを追求したことが共感を呼んだと思います」
掲載期間中およびシリーズを通しての調査では、ブランドへの信頼や購入意向が軒並み向上。実際に売り上げも伸長した。同社では猛暑の影響もあるとしながらも、10代も多く使っているTwitterでの書き込みなどから、10代の購買行動にも貢献したとみている。
さらに、開幕初日の広告ではベンチ入りできなかった選手を取り上げたところ、偶然にも同日に「双子の一人がベンチに、一人はアルプスに」という北海高校の記事が掲載された。「30段すべてが広告に見えるくらいにしたいという気持ちだったので、偶然とはいえこれは大きな成果でした。広告の信頼性が高いのは、新聞ならではの特徴だと思うので、ここぞというときには新聞という媒体の力を借りたい。他のメディアとともに立体的に訴求しつつ、伝えたいことの核になる媒体として新聞を大事にしていきたいと考えています」
10代のシェア獲得には、この先も長期的に注力すると上野氏は語る。「実はこれまで、当社からは『スポーツ飲料』というカテゴリーで訴求してこなかったのですが、今後は10代にとってより具体的な飲用機会を意識して、スポーツなど汗をかくシーンでのコミュニケーションに取り組みます」