産業用ロボット、自動ドア、包装機、福祉機器など、多方面で最先端のテクノロジーを提供しているナブテスコ。同社が、朝日新聞の高校野球特集面に全15回のシリーズ広告を展開した。目に見えにくいが、実は身近なところで活躍する先端技術を、見ル野栄司氏のマンガで紹介し注目された。
会社設立10周年の節目 ブランディングに注力
ナブテスコは、帝人製機とナブコが統合して2003年に設立、今年10周年を迎えた。事業範囲は幅広く、産業用ロボットの関節に象徴されるように、一般の人々の目に触れにくい製品を多く製造している。
同社が提供するテクノロジーの核となるのは、制御技術によりモノを動かす「モーションコントロール技術」。産業用ロボットの関節などに使用される精密減速機器は世界シェアトップを誇り、国内でも、自動ドア、新幹線のドア開閉装置、航空機の飛行姿勢を制御するフライト・コントロール・アクチュエーション・システム、パワーショベル用の走行ユニット、レトルト食品用充填(じゅうてん)包装機などにおいて、トップシェアを確立している。
「主にBtoB(企業間取引)ビジネスの会社なので、企業名を知らない方も多くいらっしゃいます。広告を一度出稿するくらいでは十分なインパクトを残せないのではないかと考え、シリーズ展開にしました。見ル野さんのマンガの起用は朝日新聞社からの提案です。当社の技術がどんな製品を支えているのかをわかりやすく、面白く伝えられるアイデアだと思いました」と語るのは、この企画を担当した総務・人事本部 総務部 参事の安田卓史氏。
ナブテスコは日本全国に工場を持ち、多くの技術者や熟練工を抱えている。今回の広告はインナーコミュニケーションの意図もあり、中期経営計画で強化する方針を打ち出したブランディングの一貫でもあった。
「これまでの企業コミュニケーションでは、首都圏を走る列車内に液晶モニターによる広告(トレインチャンネル)を活用し、『ナブテスコってナンデスコ?』というキャッチフレーズで告知活動を展開してきましたが、どうしても訴求先が限られてしまいます。そこで今回は、より幅広い層に向けるため、朝日新聞を使ってメッセージを発信しました。特に、就職活動中の学生さんとその両親、個人投資家の皆さんに声を届けたいという明確な狙いがありました」と語るのは、広告宣伝戦略を統括する同本部 総務部長兼IRマネージャーの松本敏裕氏。
マンガを担当した見ル野氏は元エンジニアで、モノづくりの人々の姿を描いた『シブすぎ技術に男泣き!』(中経出版)などの作品で知られる。今回の描き下ろしのシリーズ制作に際しては、ナブテスコの工場や拠点14カ所に赴き、工場長などに取材した。
「どういう内容を取り上げてほしいか、あえてこちらからは条件を出さず、見ル野さんが興味を持ったことを取材していただき、思うままに描いてもらいました。それでも、それぞれの技術の特長や開発者の思いを的確に捉え、当社として『これが言いたかった』ということを見事にストーリーにしてくれました」(安田氏)
効果的だった高校野球ページへの掲載
見ル野氏から取材を受けた社員は、実名でマンガに登場した。会話中の何げない本音トークが吹き出しに反映されたこともあったという。
「さすがに元エンジニアだけあって、業界誌の記者やアナリストでも見過ごしてしまうような技術やモノづくりにまつわる隠れたエピソードを掘り下げてくれました。見ル野さんのおかげで世界に誇る “シブい”技術を紹介することができました」(松本氏)
シリーズ最終回では、車椅子などを手掛ける福祉事業推進部の取り組みを紹介。社長兼CEOの小谷和朗氏が登場し、電子制御義足を手にしながら、「我々の“うごかす、とめる。”の技術が直接、人をサポートできることに喜びを感じています!」と力強く語った。
出稿後の反響について安田氏は語る。
「実名と似顔絵が載ったこともあって、取り上げられた工場や事業部およびグループ会社はそれぞれ大変盛り上がったようです。朝日新聞で広告を展開したことに『ナブテスコが変わった』と評価するOBの声もありました」(安田氏)
「高校野球のページへの掲載も非常に効果的だったと思います。若々しいエネルギーにあふれ、前向きなニュースが多いページですし、高校野球ファンとも訴求ターゲットが合致していたと思います」(松本氏)
掲載した広告は、まとめて折りたたみ式の会社案内用リーフレットとして活用している。
「リーフレットは当社の様々な技術を10分足らずで説明できる貴重なツールとなりました。取引先や大学の就職部などに配っています。海外のグループ各社に配るため、英語版と中国語版も製作中です」(安田氏)
最後に、同社の今後のコミュニケーション戦略について聞いた。
「ブランドの浸透には時間がかかる。営業的効果ばかりを追い求めてもうまくいかないと考えています。打ち上げ花火で終わらず、社員が自分の会社に誇りが持てるようなコミュニケーションを長く続けていきたい。今回のように新しいメディアの活用にも挑戦しながら、ナブテスコの知名度を高め、ビジネスへの理解を促し、選んでもらえるブランドに成長していけたらと思います」(松本氏)
2013年8月 朝刊 「見ル野栄司のナブテスコに男泣き!」 全15回シリーズ