「マウリッツハイス美術館展」のユニークな広告コミュニケーションが話題に

 6月30日から9月17日まで、東京・上野の東京都美術館で「マウリッツハイス美術館展 オランダ・フランドル絵画の至宝」(主催:朝日新聞社、東京都美術館、フジテレビ)が開催されている。レンブラント、ルーベンスといった西洋美術の巨匠たちの作品が多数展示されているが、何といっても日本でも高い人気を誇るオランダの画家、フェルメールの傑作「真珠の耳飾りの少女」が来日することもあり、開催前から大きな話題となった。
  この展覧会のプロモーションやコミュニケーションもまた、斬新さで注目を集めた。朝日新聞社企画事業本部 文化事業部の草刈大介に狙いを聞いた。

美術になじみのない層へもアプローチ

草刈大介 草刈大介

 「『真珠の耳飾りの少女』という、ある意味、誰でも知っている人気作品が展示されるので、多くの方が足を運んでくれることは見込めました。その上で広報宣伝チームで議論を重ね、二つの方向からのアプローチでコミュニケーションを進めることにしました」
  一つは、美術ファンに対して、今回の美術展の概要をきっちり伝えていくということ。どんな傑作が来日するのか、粒ぞろいの作品を日本で見られることの素晴らしさを、スケール感を持って伝えていく、いわゆる「王道」のコミュニケーションだ。

 もう一つは、普段は美術展にあまりなじみのない層へのアプローチ。「世界で最も有名な絵画の一つがやってくるなら、見に行かなくては――。そんなふうに、今回の美術展を『はやりのイベント』として認知してもらえたら、新たな層の掘り起こしにつながるだろうと考えました。」

 「美術ファン以外」の関心をどう喚起するか。通常、有名な絵画が目玉の場合、その絵を大々的に使う。しかし、「真珠の耳飾りの少女」はあまりにも有名すぎるため、既視感が強すぎて「わざわざ観に行かなくてもいい」と思われる恐れがある。そこで交通広告では、「世界で最も有名な少女が来日します。」という少しひねりのあるコピーを前面に出し、「なんだろう?」と興味を引く仕掛けにした。続いて、絵画の中の真珠や少女の口を大胆にフォーカスする、美術館や作品の豆知識をクイズ形式にするといった、美術展の広告らしからぬクリエーティブを次々に繰り出し、本物を見に足を運ぶ動機づけを狙った。広告制作は、アートディレクター・大溝裕さん、コピーライター・渡辺潤平さんがつとめている。

 「交通広告は、見過ごされたり、1回見るともう目に留めなかったりしがちなので、様々な仕掛けで繰り返し関心を引き、開催前から開催期間、継続して盛り上げよう、と」と草刈。さらに、こう続ける。
「絵を観ること自体を楽しみましょうというような、開かれた空気感を作っていければ、普段は美術展になじみがない層にも響き、『行ってみようかな』と思ってもらえるはずです」

「マウリッツハイス美術館展」交通広告

「マウリッツハイス美術館展」交通広告
「マウリッツハイス美術館展」交通広告
「マウリッツハイス美術館展」交通広告
「マウリッツハイス美術館展」交通広告
「マウリッツハイス美術館展」交通広告
「マウリッツハイス美術館展」交通広告
「マウリッツハイス美術館展」交通広告

名画をモチーフにした美術展らしからぬ斬新なクリエーティブが話題に

2012年4月5日付 朝刊 2012年4月5日付 朝刊

 開催5日前から、朝日新聞朝刊に掲載されたカウントダウンの小型広告も、読者を驚かせた。「真珠の耳飾りの少女」が吹き出しであれこれつぶやいているのだ。これがツイッターなどで話題になり、一気に拡散された。
  ほかにも、4月5日付朝刊には、女優の武井咲さんが「真珠の耳飾りの少女」に扮した全15段の広告を掲載。パブリシティでも大々的に取り上げられるなど話題になった。こうした斬新なクリエーティブやコミュニケーションが実現したのは、オランダのマウリッツハイス美術館と朝日新聞社の良好な関係があってのこと、という。

 「作品をモチーフに使ったコミュニケーションに対して、美術ファンや一般の人たちがどんな反応をするか、どんな効果が上がるかということに、マウリッツハイス美術館のスタッフは非常に関心を持ち、期待してくれた。それを受け、朝日新聞社内でも挑戦する機運が生まれました。結果として、今回の美術展にふさわしいコミュニケーションができたと、手ごたえを感じています」

朝刊小型カウントダウン広告 全5回

2012年6月25日付 朝刊小型 マウリッツハイス美術館展 6/25付
2012年6月26日付 朝刊小型 マウリッツハイス美術館展 6/26付
2012年6月27日付 朝刊小型 マウリッツハイス美術館展 6/27付
2012年6月28日付 朝刊小型 マウリッツハイス美術館展 6/28付
2012年6月29日付 朝刊小型 マウリッツハイス美術館展 6/29付
2012年8月1日付 小型広告 マウリッツハイス美術館展 2012年8月1日付 小型広告
2012年8月2日付 小型広告 マウリッツハイス美術館展 2012年8月2日付 小型広告

 今年は「真珠の耳飾りの少女」をはじめ、フェルメールの6作品が来日する「フェルメールイヤー」ということもあり、さまざまな企業とコラボレーションした企画も展開している。その一つが「FEEL VERMEER(フィール・フェルメール)」。とらや(老舗和菓子屋)、シュウ ウエムラ(化粧品)、ユニバーサルミュージック(音楽レーベル)、日比谷花壇(フラワーショップ)などが、「フェルメールを感じる」をテーマにしたオリジナル商品を開発し、美術展の会場や各企業の店舗でも販売されている。

 さらに話題になっているのが、オランダ生まれの絵本の主人公「ミッフィー」が「真珠の耳飾りの少女」に扮している限定オリジナルグッズ「真珠の耳飾りのミッフィー」だ。会場などで販売されており、大反響だという。日本にはミッフィーのファンが多く、このグッズが発売されたことはソーシャルメディアなどを中心に大きな話題となった。

 「美術展に来て満足していただいて終わり、ではなく、美術館に行くまでの気持ちを高めたり、見た後の余韻が残るようにしたりと、鑑賞者の前後の楽しみを作り出すことにまだ開拓の余地があると感じます。そうしたサービスを付加することは、ミッフィーの事例のように美術展のプロモーションにもつながる。そこに、私たち朝日新聞社は存在感を発揮できるのではないかと考えます」

真珠の耳飾のミッフィー 真珠の耳飾のミッフィー
©Mercis bv
日比谷花壇 日比谷花壇「メイシェ」
とらや とらや「蒼ノ調ベ」

 動員数は順調に伸びており(8月29日現在約50万人)、「真珠の耳飾りの少女」の前には行列が絶えない。幅広い層が来館し、コアな美術ファン以外の層を掘り起こすというコミュニケーションは、ねらい通り多くの人たちに「刺さっている」ようだ。さらに、ゆっくりじっくり鑑賞したいという美術ファン向けに、入場者数を2時間で500人に制限する「プレミアム鑑賞会」も全4回開催した。入場料が5千円(2時間)と少し高いが、通常は2時間で2~3千人ほどが訪れることを考えると、並ぶ必要がなく余裕を持って見ることができる上、ドリンクサービスや学芸員によるセミナーといったうれしいサービスもある。初の試みだったが、開幕前に完売するほどの反響だった。

 「美術展というコンテンツを、さまざまな形、アプローチでコミュニケーションすることで、美術ファン、それ以外の人にも『新しい体験』を提供できたと手ごたえを感じています」(草刈)
同展は、9月29日から神戸市立博物館でも開催される。

2012年8月27日付 夕刊 連合広告

2012年8月27日付 夕刊 東京本社版
広告特集「上野公園周辺 寄り道マップ」 展覧会観賞後の寄り道スポットを紹介

マウリッツハイス美術館展 オランダ・フランドル絵画の至宝
【東京】
東京都美術館 2012年6月30日(土)-2012年9月17日(月・祝)
【神戸】
神戸市立博物館 2012年9月29日(土)-2013年1月6日(日)
【主催】
朝日新聞社、東京都美術館、神戸市立美術館、フジテレビジョン、関西テレビ放送