テーマは「日本人」。マッカーサー元帥が登場する暗示的なビジュアルが話題の的に

 毎年新聞紙上の企業広告が話題をさらう宝島社が、9月2日朝刊に全30段二連版の広告を展開。コーンパイプをくわえ、レイバンのサングラスをかけたダグラス・マッカーサー連合国軍最高司令官が厚木飛行場に降り立つ姿に、「いい国つくろう、何度でも。」というコピーを重ねた紙面が大きな反響を呼び、今年も強烈なインパクトを残した。

苦難の今年、日本人の精神的な強さを呼び覚ましたい

桜田圭子氏 桜田圭子氏

 大震災を思い起こした読者は少なくなかっただろう。広告制作の準備はまさに震災のあった3月に始まった。掲載を決算年度の始まりにあたる9月に見据え、コンペを実施。「日本人」というテーマに取り組んだアサツー ディ・ケイが担当することになった。

 「日本人は、天災や敗戦など幾度も苦難を乗り越え、国を再建してきました。今こそ、そうした精神的な強さを呼び覚ましたい、との思いがありました。『がんばろう』というようなアプローチではなく、内なる発奮を促したいと。自発性や創意性を重んじる当社の企業文化に沿った広告です」とは、マーケティング本部部長の桜田圭子氏。掲載日の9月2日は、日本が降伏文書に調印した日であり、2011年9月2日は、「イイクニ」と語呂合わせができる。野田佳彦新内閣の発足の日でもあった。「企画や日程は6月に決定しており、偶然が重なっただけですべて狙ったわけではないんです」と桜田氏は話すが、タイミングの合致にピンときた読者は多かったようだ。

 「コピーのほかには、社名と住所、『ダグラス・マッカーサー財団の許可を受けています』という意味の英文を小さく載せているだけです。可能な限り説明をそぎ落とし、ご覧になった方それぞれに広告の意図について思いを深めていただきたいという趣旨でしたが、掲載日の意味にまで考えを広げてくださる方が大勢いたことに驚きました」

 コピーには、「ゼロからプラスの価値を生み出していく日本人の力を信じたい」という思いを込めた。マッカーサーの写真は、「日本の復興を象徴的に物語るアイコン」としてとらえていたという。

 「とても有名な写真ですが、財団によれば、商業広告に使われたのは初めてで、これまで新聞に載ったこともないそうです」 米軍機の背景には、戦後の焼け野原の写真を合成した。もとの写真には建物などが写っていたが、震災の被災地に見えないように合成するなどの注意を払った。

2011年9月2日付 朝刊 宝島社

2011年9月2日付 朝刊

賛否両論の中、新聞広告を実際に見た人の感想に深み

 掲載後の反響はさまざまあったが、今年は電話や手紙の反響が少なかった一方で、ツイッターなどソーシャルメディアへの書き込みが相次いだ。

 「朝からツイッターをチェックしていましたが、ものすごい反響でした。興味深かったのは、新聞広告を実際に見た方と、ネット上で情報を得ただけの方と、感想の質が明らかに違っていたことです。全30段二連版の大きさの紙面を手元で見た人の感想は、やっぱり違いましたね。また、その書き込みを見て、『現物を見なくては』『やっと新聞を買って確認した』というネットの書き込みもありました。また、ネットでは他の人の書き込んだ意見も見られるので、意見が意見を呼び、思わぬ方向に議論が発展していく現象も見られました」

 今回の広告はYAHOO!JAPANなどのネットニュースや『ジャパンタイムズ』でもニュースとして取りあげられた。日米同時掲載した昨年の企業広告「日本の犬と、アメリカの犬は、会話できるのか。」に続き、今年も外国人ジャーナリストの注目を集めた。

 「賛否両論ある中、戦争体験者を含む多くのご年配の方々が賛同してくださったことも意外でした。敗戦後の日本やマッカーサーのことをよくご存じだからなのだと思います。被災地からは、『がんばろう、と言われるより心に響く』といったご意見も届きました」

 新聞広告が果たす役割について、桜田氏はこう続ける。「家庭や職場でコミュニケーションのきっかけにしてほしいという思いが毎回ありますが、今回はどういう感想をお持ちになったかによって、個人の考え方やモノの見方が見えてしまうような内容だったので、もしかしたら身近な方とは話題にしにくかったかもしれませんね。新聞広告は、他人の意見に左右されず、直観的に何かをくみ取ったり、知識や経験に照らし合わせてじっくり考えたりもできる。そこも魅力です。当社が発行している『スウィート(sweet)』というファッション誌は、広告もたくさんいただいているため、広告ページも多いのですが、読者は記事と同じようにしっかり目を通し情報としてとらえてくれています。人は、お金を払って得る情報の質はシビアに吟味しますし、『自分ごと』として真剣に向き合うのではないでしょうか。新聞も同じで、読者は主体性をもって読み、考えるのだと思います」

 宝島社の企業広告の目的は、ブランディングや販促ではないという桜田氏。「これからも新聞という媒体を通じて企業としての考えを皆さんにお伝えしていきたいと思っています」