紙面に並ぶ3人の男性。その顔ぶれは、元プロ野球選手の新庄剛志、俳優の東幹久、お笑いタレントの山口智充。意外な取り合わせだが、それ以上に驚かされるのは、「アデランスは誰でしょう?」とのコピー。3人の誰かがウィッグをつけているのか……とじっくり眺めても、あまりに自然で見破れない。「アデランスは、わからない。」との“オチ”にうなずいた読者も少なくないだろう。
ウィッグのイメージを前向きに変える
同社は昨年5月の株主総会を経て経営陣を刷新。消費低迷や育毛剤の普及などに押されて市場が行き詰まる中、6月にコーポレート・マーケティング室を発足。創業以来続いてきたプロダクトアウト型の戦略から、市場調査を徹底する消費者ニーズ重視の戦略へと転換をはかっている。
「市場調査を通して痛感したのは、男性用ウィッグにネガティブなイメージを持つ人が多いことでした。そこで、単に薄毛を隠すアイテムというのではなく、よりファッショナブルでポジティブなイメージに変えていくためのコミュニケーション戦略を立てました」と語るのは、コーポレート・マーケティング室 国内マーケティング担当 執行役員の津村佳宏氏。
その第1弾が先のキャンペーンである。キャスティングについて津村氏はこう話す。「真っ先に候補に上がったのが新庄さんで、チャレンジ精神旺盛な人柄が、新生アデランスのイメージに重なりました。あとのお2人も、おしゃれでポジティブな印象がコンセプトにぴったりだなと。お三方とも企業再生を目指す当社の方針に賛同してくださり、特にウィッグをつけてくれた新庄さんは、商品品質の高さにも感動してくださいました」
経営刷新にともない、企業ロゴも変わった。新聞広告は、新しいロゴの浸透をはかる狙いもあった。商品広告でありながら、旧来イメージからの脱却を目指すブランド広告ともいえる。
「商品のターゲット層以外にもブランド再構築への認知を高めるため、参加型のクイズ形式にして総額1,000万円のプレゼントキャンペーンを実施しました」
メディアを使い分け、段階的に話題づくり
広告は、新聞のほか、テレビCM、駅張りポスター、電車の中づりなどでも展開。あえて電話番号を入れず、すべて同社ウェブサイトに誘導し、より深い情報浸透を目指した。さらに、CM楽曲を携帯電話の着うたとして配信したり、ツイッターに期間限定でアカウントを開設したりといった試みも行い、ツイッターには新庄氏本人の書き込みも見られた。
「メディアを使い分け、段階的に話題を提供しながら盛り上げていきました。テレビCMは好評でしたが、テレビを全く見ないという方も案外多く、新聞広告は外せませんでした」とは、同室宣伝グループ グループ長の平川敏裕樹氏。さらに津村氏は、「新聞は幅広い年齢層にインパクトを与えられるうえ、投資家の読者も多いので、IR的な効果も期待しました」と話す。
キャンペーンの反響は大きい。「アデランスは誰でしょう?」編の広告展開直後、ウェブサイトへのアクセスは直近月の約14倍に跳ね上がり、「アンサー編」では約30倍に達した。また、「アンサー編」テレビCMのユーチューブでの再生回数は37万回を超えた。反響には、「アデランスに新しい印象を持った」「毛髪業界が変わりそう」「おしゃれなウィッグですね」など、同社の狙いに応える意見も目立った。また、変化を対外的に印象づけられただけでなく、インナーのモチベーション向上にもつながる有意義なキャンペーンだったと両氏は振り返る。
薄毛に悩む男性は全国におよそ1,300万人(※注1)、その中でオーダーメイド ウィッグを使っているのは108万人(※注2)程度で、成長領域は多分にあるという(※注1、2 ともにアデランス調べ)。今後は男性用ウィッグをはじめ、女優の萬田久子を起用しブランディングに努めている女性用ウィッグ「フォンテーヌ」、さらには発毛、育毛や北米のグループ会社ですでに展開している医療分野の自毛植毛の領域まで、トータルな意味での「総合毛髪関連事業」を推進していくという。
「新生アデランスを印象づけた次は、より具体的なサービスのシステムを伝えていきたいと考え、2月から定額制にてオーダーメイドウィッグを利用できる『アデランス ヘアクラブ』を訴求していきます」(津村氏) 新たなスタートを切ったアデランス。今後の広告展開から目が離せない。