企業の社会的責任の観点から生まれた「啓発広告」

ピンクリボン運動と連動し 乳がんへの企業姿勢を訴求

 小野明則氏 小野明則氏

 2007年、住友生命は乳がんの早期発見・早期診断・早期治療の大切さを伝える「ピンクリボン運動」の支援をCSR活動のひとつに位置づけ、その一環として昨年9、10月に開催された「ピンクリボンフェスティバル2007」に協賛。このイベントはピンクリボンのメッセージを、企業の枠を超え社会に伝える取り組みであり、朝日新聞社も主催社に名を連ねる。

 その経緯を背景に、住友生命は10月2日の朝刊に乳がんの早期発見を啓発する30段の企画広告を掲載した。11月14日朝刊には、新商品「がん長期サポート特約」の広告を掲載した。乳がんを多様な観点からとらえた情報が連携することで、公共性の高い広告キャンペーンが展開された。

商品営業の手前で自己検診を呼びかけ

 住友生命がピンクリボン運動を支援するに至った経緯を、同社営業総括部営業支援室の小野明則調査役は次のように語る。

 「住友生命は昨年、創業百周年を迎えました。これまでも弊社は『豊かで明るい長寿社会の実現』を企業理念として掲げて参りましたが、節目となる年に新しい社会貢献をスタートできないかと考え、話が持ちあがったのがピンクリボン運動への支援でした」

 30段の企業広告は、契約者と直接触れあう全国98支社の営業職員の代表者の紹介と、乳がんの摘出手術を受けた山田邦子さんへのインタビュー、乳がん事情やセルフチェックの方法などを紹介した記事部分で構成された。小野氏は紙面の狙いを「まずはピンクリボン運動というものを知っていただきたく、そのために内容にも表現にもインパクトを求めました」と語る。

 「保険を通じてお客様のお役に立つという事業の手前で、乳がんの現状を世の中にお伝えし、全国の営業職員が啓発活動をしっかりとやっていく。これも住友生命の社会的な役割だということを、広く伝えたいと思いました」

 乳がんに対する社内の認識は、「すべての営業職員の間でまだ十分とはいえない」と小野氏はいう。「啓発のための情報は、お客様への発信と同時に、社内的な関心を高め、お客様としっかりコミュニケーションできる知識を得てもらう役割も担っています」。

 山田邦子さんは、昨年3月にテレビ番組で知った自己検診法で胸のしこりに気付き、直後に検診。ほどなく摘出手術を受けた。自らの経験から早期発見の大事さを伝えられる登場者の協力を得たことで、記事全体の説得力も高まっている。

2007年10月2日付 朝刊
2007年10月2日付 朝刊
2007年11月14日付 朝刊

新聞の信頼性が生んだ効果

 朝日新聞は、昨年の「ピンクリボンフェスティバル2007」の活動を編集記事で掲載。各地で盛り上がったピンクリボン運動を「社会事象」として扱った。住友生命はその紙面の下5段に、10月29日に発売された「がん長期サポート特約」の広告を掲載した。

 「がん長期サポート特約」は、「がんで治癒が見込めない」と診断された場合、余命にかかわらず死亡保険金を前払請求することができる特約だ。がんは治療が長引けば、治療費がかさみ、家族が経済的な負担で苦しむケースが少なくない。

 「この特約は、住友生命が保険会社としての社会的使命から、がん患者さんにいかに役立つことができるかという考えから生まれた新しい商品です。広告では、この商品を私たちがご提供する背景を伝え、編集記事が紹介するさまざま社会活動との呼応が生まれていると思います」(小野氏)

 また、この15段紙面は抜き刷りされ、現場営業職員のコミュニケーションツールとして活用している。新聞がそのまま啓発ツールや営業ツールとして使えることには、「新聞記事がもつ信頼性が加わることで、私たちのメッセージをお客様がより真剣に耳を傾けてくださるようになる」と、メリットを小野氏は指摘する。

 「住友生命では、乳がんの早期発見・早期診断・早期治療の大切さを伝える啓発チラシを独自に作成しています。保険という商品を売ることが本業である私たちがこうした啓発活動を行うことに対して、予想以上に大きな賛同を得られています。30段広告を出稿した時も『いいことをされていますね』というお電話をコールセンターに頂戴しました。ただ、啓発チラシは商品広告ではないとしても、お客様から見れば保険会社が作ったものです。新聞記事であれば、より客観的な情報として乳がん検診の大事さを受け止めてくださり、『こんなに大きく紙面で取り上げているニュースなのか』という関心も引き寄せられました」

 毎年ピンクリボン運動は11月で一段落を迎えるが、住友生命は乳がんに関する啓発活動を今後も積極的にピーアールしていく方針だ。営業の現場からは、「啓発活動を行った結果として営業がスムーズにできるようになった」、「今後はより詳しい情報提供のために、がんの専門家を迎えてお客様向けのセミナーを開きたい」といった前向きな意見が寄せられているという。

 「企業にとってCSR活動の重要性は今後より高まります。その柱のひとつとして、ピンクリボン運動への支援は今後継続的に取り組んでいきたいと考えています」と小野氏は結んだ。