高経年マンションの問題点を紙面で訴え、セミナーを開催

 あるセミナーの告知広告が3月下旬から4月上旬にかけて掲載された。「朝日マンション建替えセミナー」。協賛するのは、旭化成不動産レジデンスだ。セミナーと広告出稿の経緯とねらいについて、同社開発営業本部 経営企画部 営業推進課 課長の逆井温子氏に話を聞いた。

喫緊の状況、しかし進まない小規模マンションの建替え

逆井温子氏逆井温子氏

 逆井氏がまず解説してくれたのが、築年数40年以上の高経年分譲マンションを取り巻く問題だ。「東京都の完工した分譲マンション約165万戸のうち、旧耐震基準で建てられている高経年物件が約21%を占めています。大きな地震が起こる可能性がある中、そういった物件は危険な状況にあり、当社ではその建替え事業に力を入れています。しかし、特に東京都心のマンションのうち、約6割を占める40戸以下のいわゆる小規模マンションは、建替えや改修がなかなか進みにくいのが現状です」

 大規模マンションの場合は、物件が古くなっても管理組合が機能し、大規模修繕などに関する話し合いが定期的に行われているケースが多い。一方、都心部の小規模マンションでは組合がなかなか機能せず、中でも全体の43%を占める20戸以下の物件では、組合自体が存在していない物件も少なくないという。住民の高齢化で組合の担い手がいない、所有権が子どもや孫に移って賃貸にするなど、所有している意識があまりないオーナーが増えているといった事情が原因だ。

 「必然的に掃除や定期的なメンテナンスも放置され、老朽化が進んでいるというマンションは少なくないのです」と逆井氏。しかし、その区分所有者の一人が、「なんとかしたい」と考えたとしても、どこに相談していいのか分からないという場合が多い。マンション建替えセミナーでは、まさにそうした悩みを抱える人たちを対象に、東京の小規模マンションなどが抱える課題や対策について、実例をもとに分かりやすく解説。希望すれば、同社営業社員が個別の相談に乗ってくれる。

 「不動産業者や銀行の担当者を対象にしたB to Bのセミナーも開催していますが、今回のセミナーは個人の小規模マンション所有者で、『なんとなく問題意識はあるものの、どうしたらいいのか分からない』と感じている個人のお客さまの、相談のきっかけを作りたい。それが目的でした」(逆井氏)

※画像はPDFへリンクします。 2016年4月1日付 朝刊2016年4月1日付 朝刊

 多くの小規模マンションの所有者のメインは60代以上であり、比較的年齢が高い。同社で建替えをした地権者の中には、ウェブ環境が一切ないという人もいたという。「当社が対象とするお客さまとのマッチングを考えると、年齢の高い読者層も多く持つ新聞は、もっとも届きやすいメディアだと考えました」と逆井氏は新聞を活用したねらいを語る。全5段の告知を中心に、4月1日、4日には、「東京で進むマンション老朽化の課題と再生」と題し、弁護士の解説やデータなどをふんだんに盛り込んだ記事体の広告特集として展開した。

 「この問題は難しく、ある程度の説明が必要です。そうした内容でも、朝日新聞の読者はしっかりと読み込んでくれると捉え、『しっかり読んでもらう』ということを念頭にクリエーティブを制作しました」(逆井氏)

 4月7日のセミナーには82組が参加し、目標としていた50組を大きく超えた。また、個別相談も20組ほどに上り、通常のセミナーに比べるとかなり多かったという。「今回の広告はセミナーへの集客が大きな目的だったので、その点については想像以上の効果がありました」と逆井氏は手応えを見せる。なかなか具体的な悩みや相談ごとが顕在化しない小規模マンションの所有者と直接アプローチできたことで、社内の営業からも喜びの声が上がったという。

継続的な露出で、問題が顕在化する手前の「気づき」を伝える

セミナー会場の様子セミナー会場の様子

 今回の広告出稿、そしてセミナーを通じ、「一つの課題が見えた」と逆井氏。「セミナーに申し込み、足を運んでくださるお客さまは、ある程度問題が顕在化していますが、実はその前の段階、つまり高経年マンションが抱える問題に対する認知すらない所有者が多いのが現実です。その『気づき』を提供するためにも、メディアなどで露出を継続することが重要だと、改めて感じました。そして、毎日読む習慣のある新聞は、『気づき』のツールとしては最適なのではないかと考えています」

 都市部の利便性の高い土地は減り、新規のマンション開発は飽和状態に近づいている。そのため、高経年マンションの再生事業に参入するディベロッパーも増えてきているという。そんな中、同社は先駆的にこの事業に取り組み、業界トップの業績を誇る。その知見を生かした「マンション建替え研究所」という、研究・分析の組織も運営している。

 「戸建てなら親族間の話し合いで進められますが、マンションの場合、たとえわずか10戸の小規模マンションでも住民の利害はバラバラ。住み続けたい方や、売ってしまいたい方など様々です。その一人ひとりとひざを付け合わせ、合意形成しながら、一つの方向にまとめていく。それを、法規制が厳しい都心部で進め、お客さまに最大の価値を提供することは、一朝一夕でできることではありません。そこがパイオニアである当社の強みであると自負しています」(逆井氏)

 高経年マンションは、建替えの難しさは当然あるものの、そもそもは利便性の高い土地に建っているケースが多い。逆井氏はこう言葉を結んだ。

 「建替えや再開発という手法で、土地や街のポテンシャルを今の時代に合わせてさらに良くしていき、都心部の生活をより豊かにしていく。それが当社の使命だと思っています」