多様性を受け入れ融合させていく

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日本を代表する総合化学メーカー、旭化成。ひとつの事業に特化するだけでなく、時代のニーズに合わせてさまざまな事業分野に進出し躍進を続けてきました。その背景には、多様性を尊重し受け入れてきた歴史があるといいます。いわば「多様性のパイオニア」的企業が模索する、これからの多様性とは。

多様性を尊重する風土がグループの成長につながった

菅田 顕氏

 総合化学メーカーとして、多岐にわたる事業をグローバルに展開する旭化成。1923年に日本初のアンモニア化学合成に成功して以来、ケミカル、繊維、住宅、医療、エレクトロニクスと、つねに時代のニーズに応えながら発展を続けてきた。

 同社広報室企画・宣伝グループ長の菅田 顕氏は、「このような形で成長できたのは、多様性を受け入れ尊重してきたからこそ」と語る。

 「企業の経営を考えれば、ある程度ひとつの分野に資源を集中し、特化していくケースが多いのではないでしょうか。しかし弊社には、色々な考えを持つ人が、様々な事業を立ち上げてきた歴史があります。一人の研究者の『やりたいこと』を尊重し、その芽をきちんと育ててきた結果だと思います」

 こうして、すでに自然なかたちで根付いていた「多様性の尊重」をさらに具現化するべく、1993年に専任組織(現人事部ダイバーシティ推進室)を設置。障害者雇用の促進やキャリア採用、女性の活躍推進に積極的に取り組んでいる。

 「多様な事業をもつ弊社は、女性にとって働きやすい場であると思います。とくに昨今、ヘルスケアや住宅事業などでも理系出身の女性が増えており、女性ならではの視点や能力を生かして活躍しています」

次世代育成は大きな柱「リコチャレ」でリケジョを応援

2016年9月25日付 朝刊793kb

 圧倒的に男性が多い理系職において、女性の採用を増やしていくことは多様性の観点から見ても重要なテーマだ。一昨年より、理工系分野に興味を持つ女子中高生の進路選択を産学官で応援する「リコチャレ」に参画。研究所での職場見学や、女性社員によるキャリアセミナーを開催している。

 「次世代育成は、弊社の社会貢献活動における大きな柱です。99年から小・中・高生を対象とした出前授業を行っており、今では年間に約100回ほど実施しています。今回は『リケジョ(理系女子)』に絞った活動でしたが、化学が好きで、こんな仕事をしたいと具体的な将来像をもつ生徒が多い印象でした」

 昨年9月25日付、朝日新聞 全15段広告で「リコチャレ」の採録を掲載。当日のレポートとともに、理系分野で活躍する女性社員が未来の「リケジョ」にエールを送るインタビューを掲載した。菅田氏は、新聞メディアの影響力をこう評価する。

 「新聞をとっている家庭であれば、子どもたちの目に触れる機会も多いでしょう。キーワード検索をしてその周辺情報を得るインターネットと違い、新聞を広げれば、そのときの自分の心に引っかかってくるものが何か見つかるはずですから」

 さらに、次世代育成を成功させるには、いかに「好きな気持ち」を持ち続けてもらうかがカギになると続ける。

 「リコチャレのイベントを実際にやっていると、理系の分野が本当に好きで、するどい質問を投げかけてくる女子中高生が非常に多い。中学、高校と進むにつれ理系は大変だというイメージを持つようになりがちですが、弊社には実際に理系に進み、結婚、出産を経て研究職として活躍を続ける女性がたくさんいます。その姿を間近で見てもらい、理系の分野をずっと好きでいてもらえるような活動を、これからも続けていきたいと考えています」

多様性を高い次元で実現するために欠かせないこと

 創業当時から多様性を尊重し、その方向性を時代に合わせて発展させながら成長を続けてきた旭化成。現在、女性管理職の数を増やす計画も進めている。

 そのような中、多様性を高いレベルで実現するために欠かせないのが「意見を言い合える風土の醸成」であると菅田氏は感じている。

 「多様性が必要だからと人を集めてくるのは、それほど難しいことではないと思います。けれど、せっかく集まった人たちが意見を出し合える雰囲気や環境がなければ、新しいものは生まれてこない。ただ多様性を広げていけばいいというだけではなく、しっかり融合させていくことが重要だと思います」

 多様性を尊重し、さらに融合させる。それはまさに、グループスローガンである「昨日まで世界になかったものを。」を生み出す原動力になる。同社らしい多様性のあり方を模索し、グローバル展開を加速させる取り組みに、ますます期待が高まる。