個性を尊重し認め合う文化その背景にある理念と風土

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アメリカンカジュアルブランドのGapを日本市場で展開するギャップジャパンは、さまざまな社会課題に目を向け、率先して取り組んでいます。そのベースとなっているのが創業当時から受け継がれる「Inclusion&Equality」という理念と個性を尊重する文化です。個を認め合い、それぞれの能力を高め合いながら生き生きと働く先進的な企業として注目されています。

個性を尊重する企業理念がマーケティングの根幹

志水静香氏 志水静香氏

 ギャップジャパンのアメリカ本社であるGap Inc.は、1969年の創業当初から、ダイバーシティー&インクルージョンを推進してきた先進的な企業だ。国籍や宗教に関係なく採用を行うことや性的少数者(LGBT)の支援などに率先して取り組んできた。そのベースになっているのが、創業者のドン&ドリス・フィッシャー夫妻が掲げた「Inclusion&Equality(包括性と平等)という理念」である。顧客第一主義のもと、一人ひとりがクリエーティビティーを発揮し、正しいことを行うことで結果を出す。そのためには、個人の価値観を尊重し、一人ひとりが自分の個性と能力を発揮して生き生きと働くことが欠かせないという考えだが、ギャップジャパンでも浸透している。「一人ひとりを尊重する文化は会社のDNAであると同時に経営戦略です。マーケティングもブランディングも、理念をもとに展開しています」と話すのは、ギャップジャパン人事部シニアディレクターの志水静香氏。同社Gapマーケティング部ディレクターの橋本裕芳里氏は、「広告でも、『インディビジュアル(個性)』というブランドのコンセプトをいかに伝えていくか。そこが根幹になっています」と言う。

橋本裕芳里氏 橋本裕芳里氏

 2016年12月から始まったウォルト・ディズニー・カンパニーとの「限定コレクション」の宣伝用の動画も、洋服の絵柄としてデザインするディズニーキャラクターのテーマに合わせて「個性のすてきさ」を伝えている。第3弾は、ディズニー映画最新作『美女と野獣』のイラストをつかったコレクション。『美女と野獣』のメッセージでもある「Brave&Strong」を、Gapのファッションを通じて『Fearless Beauty(つよさはいつも美しい)』というコピーで表現しています。その宣伝用のムービーに登場しているのが、アメリカで有名な10歳の女の子。彼女は、白斑という疾患を抱えていますが、ありのままの姿でインスタグラムに何万枚も写真をアップしているインスタグラマーです。宣伝用のムービーでは、自分の生き方について生き生きと語ってくれています。そんな風に、『インディビジュアル』というブランドコンセプトが通常の宣材物にも反映されているのです」(橋本氏)。キャンペーンはグローバルで展開されており、宣材物も本国が制作したものだという。

 小児がん支援をテーマにした限定コレクション商品の販売では、日本独自のチャリティイベントを企画。自ら小児がんと闘いながら、自宅で手作りレモネードを販売し、その売り上げを小児がん研究に役立てたアレックス・スコットという少女のエピソードをもとに、Gapフラッグシップ銀座でレモネードを販売。その売り上げは全額小児がん支援に取り組むNPO法人キャンサーネットジャパンに寄付した。また、SNSで情報発信を行い、リツイートやリグラムすると1回10円の寄付になる、というソーシャル・マッチング・プログラムも展開。「10万シェアを達成し、100万円寄付することができました」(橋本氏)

 朝日新聞社が主催する「ネクストリボン」プロジェクトのシンポジウムの協賛も、ギャップジャパンが一番に名乗りを上げたという。「ネクストリボン」プロジェクトは、がんになっても生き生きと社会で活躍ができて、早期発見のための検診が当たり前となる社会作りを推奨している。目指しているのは、互いに支え合い、幸せになれる社会だ。「シンポジウムに参加して、この取り組みは社会的に非常に意義があると感じました。学んだことは、まず知ること。それがファーストステップです。私たちの取り組みが先例となり、社会に影響を与えていけることを目指しています」(志水氏)

2017年2月9日付 朝刊

2017年2月9日付 朝刊718KB

企業の価値観や理念と一致させて風土を作っていく

 Gapが目指す「インディビジュアル」は、すべての人が自分らしく生き、自分の夢をかなえること。社内的には、人事や採用において国籍や宗教に関係なく公平に行うことはもちろん、例えば、本人や家族が重篤な病気になっても、本人が希望すれば仕事を続ける方法を一緒に考えるという。

 社内の風通しは非常に良く、上司や部下であっても、自由に意見を言い合える環境だ。「何か問題が起きたとき、それをもみ消すようなことは決してありません。お互いの信頼関係があるからこそ、組織に貢献したいというエンゲージメントも高い」と志水氏。橋本氏も「こういうことをするとパワハラです、というルールを作ることは、あまり意味がないと思っています。それよりも対話できる環境を作ることが重要です。アイデアも対話の中から生まれるものですから」と話す。

 ただ、そうした風土について、社外の人から「外資系企業だからできるのでは」と言われることも少なくないそうだ。それに対して志水氏は「私たちにできることは、他の企業にもできるはずです。もちろん、Gapの方法をそのまま模倣する必要はありません。大切なのは、それぞれの企業の理念や大切にしている価値観、強みなどとセットにして浸透させることだと思います」と語る。

 志水氏はGapの人事にまつわる取り組みを紹介し、様々な問題に対して社員だけではなく、外部企業や団体も交えて議論するイベントを主催している。その一つとして、「働き方改革」をテーマにしたセミナーも開催した。「働き方と能力開発の話はセットで考えなければいけない。残業を無くすためのスローガンや規定の時間になると電気を消すといったルールだけ作っても意味がないと思います」(志水氏)

 個性を認め合う自由な環境だからこそ、求められる仕事の成果は非常に高いという。「仕事はたいへんですが、やりがいがあります」と志水氏は締めくくった。